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短編を書いてきた人が長編を書くときにやりがちな失敗

周りにいる字書きさん(作家志望者も含めて)を見ていると、短編から長編への移行にわりと苦労している方もいるようです。

短編に慣れている人ほど、初めての長編執筆には戸惑うのかもしれませんね。

今回は長編を書くときにやりがちな失敗をいくつかご紹介します。



やりがちな失敗3つ

短編には短編の、長編には長編のコツがあります。

短編に慣れている人は、少し意識を長編向けに切り替えるといいでしょう。


周りの作家志望者さんや字書きさんを見ていると、以下のような失敗がわりと見受けられます。

  1. アイデア:出落ち的なアイデアやサプライズに頼り過ぎ

  2. ストーリー:ペース配分の誤り

  3. 情報量:世界設定、キャラクター設定などが薄すぎる


それぞれ簡単に見ていきましょう。


1.アイデア:出落ち的なアイデアやサプライズに頼り過ぎ

1つ目は出落ちアイデアやサプライズに頼り過ぎる失敗です。

これは鋭い短編を書いている人ほど、突き当たる問題でしょう。

短編では、最初に突飛な設定を出したり、最後にどんでん返しで驚かせる手法を取ることも多いでしょうが、長編で同じように考えても上手くいかないことも多いです。


特に、パッと思いついたアイデアですぐに短編を書き始めている人は注意が必要です。

そのワンアイデアで長編を支えきれるのかどうか、一度立ち止まって考えてみるといいですね。


簡単な判断方法としては、「そのアイデアで2時間の映画が作れるか?」と自問してみるといいでしょう。

長編のサイズ感はわからなくても、映画なら何本も見ているでしょうから想像しやすいと思います。

良さそうなアイデアに思えても、長編を支えられるかを考えてみると、使えないアイデアが多いと分かるはずです。


また出落ち的なアイデアを出した場合は、終わるのにもう1つアイデアが必要だとわかっておくといいでしょう。

出落ち的アイデアというのは、たとえば以下のようなものです。

  • おっさんの主人公が、朝目覚めたら美少女になっていた

  • ある日、「名前を書くと死ぬノート」を拾った

  • 心を読める能力が突然芽生えた


こういった、最初に驚かすような設定は簡単に思いつきますし、途中までは話も作りやすいものです。

ですが、この類いの作品を終わらせるには、最初の設定をひっくり返すようなアイデアがもう1つ必要になります。

そうしないと「話が終わった感」が出ないのです。


図にするとわかりやすいかもしれません。

普通の話と出落ちの話


左は普通の話、右は出落ちの話の驚きの変化です。

話が終わるにはある種の驚きが必要です。

左のようなごく普通の話なら、最後は少しだけ驚かせば「終わった感」を醸し出せます。
(たとえば伏線を回収するだけで終われます)


しかし、右のように最初に驚きがある話は、最初の驚きを越えるような驚きがないと「終わった感」が出ないのです。

最初の驚きがハードルになって、そのハードルを越えないと終われない、と考えるとわかりやすいと思います。

ですから、最初に突飛なアイデアを出した場合は、それ以上のアイデアを思いつく必要があると分かっておくといいでしょう。


2.ストーリー:ペース配分の誤り

2つ目はペース配分の失敗です。

いろいろな短編があり得るので一概には言えませんが、往々にして短編は、話の展開が早くなります。

当たり前ですが、短い枚数で終わらせなければならないからですね。


ですが、そのペースで長編を書くと、作者は息切れし、読者も疲れてしまうでしょう。

長編は長丁場のマラソンですから、短距離の意識で走れば、そのような結果になるのは当然のことです。


短編に慣れている人ほど、長編ではペース配分を意識する必要があります。

ゆっくり進めるところと、速く進めるところを見極めなければなりません。


ごく単純な指針を示せば、以下のようになります。

(プロットポイントとは、ひとまず問題が解決して物語の方向が変わる地点のことです)

  • 序盤

    • 事件を起こして速めに始め、その後ゆっくりと説明する展開 or

    • 最初はゆっくりと進め、徐々に事件を起こしていく展開
      の2つがよくある

  • プロットポイント前

    • 速めに展開する

  • プロットポイント後

    • 速度を落として情報を整理しつつ読者を休ませる

  • 3つ目のプロットポイント後

    • 絶望や落ち込みがあるならこの辺り

    • 展開はゆっくりになる

  • クライマックス付近

    • 最後まで一気呵成にぐいぐい進める


典型的な4章構成で考えると、こんな感じです。

長編のペース配分


長編では、読者の疲労も考えてあげましょう。

あまりぐいぐい進めると、読者が疲れてしまいます。

速く展開した後は一度ゆっくりにして、主人公とともに読者を休ませることを意識してみてください。

特に2つ目のプロットポイント(ミッドポイント)の後はのんびり展開し、後半へ備えさせるといいです。


3.情報量:設定が薄すぎる

3つ目は情報量が少なすぎる失敗です。

この場合の情報とは、単純に言えば「設定」のことです。


当然ながら短編は短いので、情報も少なくて済みますし、むしろ情報が少ない方が緊迫感が出る場合もあります。

ですが、長編はとにかく長いので、適切な情報量(設定の量)がないと、全体的に薄くなりすぎるのです。


たとえ話で考えると理解しやすいかもしれません。

物語を味噌汁に例えると、設定は出汁、起こる出来事は具材だと言えます。

具材がいくらたくさんあっても、出汁がない限り、おいしくなりようがありません。

具材をおいしく食べてもらうには、どうしても出汁が必要なのです。


設定は大きく言って、次の2つに分けられます。

  1. 世界の設定

  2. 人物の設定


短編では、世界も人物も、最低限の設定しかしないと思います。

ですから短編に慣れている人ほど、世界と人物の設定を深めることを意識するといいです。


まずは人物(キャラクター)の設定が簡単でしょう。

主要なキャラクターの履歴書を書いてみるのが手軽な方法です。

「キャラクター設定シート」などで検索すればいろいろ見つかると思うので、そういったものを使ってみてもいいですね。


とにかく、何も設定せずにいきなり書き始めないことです。

それをすると、どこかで必ず破綻します。
(破綻しないまでも、「どういう人物なのかよくわからない」」という状態になりがちです)

ですから、ほんのちょっとでいいのでキャラクターの設定をしてみてください。


キャラクター設定でもっとも重要なのは次の2つです。

  1. 動機:〜をしたい、〜になりたい、〜が欲しい

  2. 理由:なぜなら〜

ですから、最低限これだけでも決めましょう。

この2つが明確なら、少なくとも「何をしたいのかさっぱり分からないキャラ」にはなりません。


今回のまとめ

「短編を書いてきた人が長編を書くときにやりがちな失敗」でした。

  1. やりがちな失敗3つ

    1. 出落ちのアイデアやサプライズに頼り過ぎ

    2. ペース配分を間違える

    3. 設定が薄すぎる

  2. 出落ちアイデア

    1. そのアイデアで2時間の映画を作れるか?

    2. 最初にアイデアを出した場合、それを越えるアイデアがないと終われない

  3. ペース配分

    1. 短編は早く展開しがち

    2. 短編のペースで長編は書けない

    3. 早く進めるところとゆっくり進めるところを見極める

  4. 設定の薄さ

    1. 長編には適切な設定の量がある

    2. 設定は主に世界の設定と人物の設定がある

    3. まずは人物の設定をするのが簡単

中には、アイデア重視の鋭い短編ではなく、長編の何シーンかを短編の体裁で書いている人もいると思います。
(鋭いオチがある話ではなく、長編のダイジェストのような話)

そういう人の方が長編への移行は簡単でしょうね。

それではまたくまー。


(2023/11/06追記)

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