長編のヤマについてもうちょっと詳しく〜簡単な物語のつくり方(5)
崖っぷち作家のニジマルカです。
「簡単な物語のつくり方」5回目です。
4回目はこちら。↓
前回のおさらい
前回は、既存の作品から骨組みを抜き出してみました。
だいたいのエンタメ作品は、4つのヤマで構成されています。
ヤマは多ければ多いほど盛り上がりますが、多くても慌ただしくなり、見ている方も疲れます。
90分〜2時間くらいの作品だと、見ていて飽きず、かつ疲れずに楽しめるのが4ヤマくらいなのだと思います。
さて、今回は長編のヤマについてもうちょっと詳しく見ていきましょう。
骨組みと肉付け
今まで話してきたように、長編の骨組みは、
スタート → ヤマ1(問題→解決) → ヤマ2(問題→解決) → ヤマ3(問題→解決) → ヤマ4(問題→解決) → ゴール
です。
どの作品も骨組みはほぼ変わりません。
というより、むしろ骨組みは変えてはいけないものです。
これは人体にたとえるとわかりやすいと思います。
人の骨格は、老若男女、人種問わず、ほぼ変わりません。
何十万年(?)かの試行錯誤の末、この骨格になっているわけです。
ですから、骨格を変えると、動けなくなったり、生活に支障をきたします。
物語もこれと同じです。
何百年かの歴史があって、今の形になっています。
ですから、むやみに骨組みを変えると、物語が破綻するのですね。
よって、基本的に、この4ヤマという骨組みを崩してはいけないのです。
ところで、骨組みが同じでも、肉付け次第で物語はどのようにも変化させることができます。
これも人体と同じです。
骨が同じでも、肉の付き方が違うだけで、顔も体もまったく違うものになりますよね。
バリエーションは骨ではなく、肉でつけるものなのです。
以上をまとめると、結局、作者のやることというのは、基本に忠実に骨組みを作り、そこに独自の肉付けをすることだと言えるでしょう。
ヤマの名前
さて、長編のヤマにはそれぞれ名前がついています。
無理に覚えなくてもいいですが、知っておいても損はないです。
脚本術の本によって名称は違うかもしれませんが、意味はだいたい同じです。↓
ヤマ1:第1ターニングポイント
ヤマ2:ミッドポイント
ヤマ3:第2ターニングポイント
ヤマ4:クライマックス
「ターニングポイント」とは「物語の方向が変わる点」という意味です。
ですが、難しく考えず、今までどおり、「主人公がピンチになり、それを乗り越えるところ」と覚えておけばいいです。
「ミッドポイント」は文字どおり「中間地点」ですね。
昔はこのヤマがなかったそうですが、今はミッドポイントがないと、退屈で見ていられないと思います。
このミッドポイントで大きめの問題を起こすと、物語全体の収まりがよくなります。
最後のヤマが「クライマックス」です。
ここが最大のヤマになるように調整します。
クライマックスの後はエンディングになり、さまざまな事後処理(たとえば警察が来てどうなった〜、とか、その後彼らはこうなった〜、みたいな)をして、物語は終わります。
物語の冒頭をくわしく
さて、いままで、物語のスタートは「願望を持つ主人公を置く」と簡単に説明してきました。
基本はそれでいいのですが、冒頭は大事なので、もうちょっと詳しく見ておくことにします。
上の図に少し足しました。↓
冒頭の部分を見ていきましょう。
スタート地点
物語の最初はやることがたくさんあります。
視聴者や読者は、これからどういう話が始まるか、まったく知りません。
ですから、物語の最初で、
・舞台はどこか
・どんなジャンルか
・主人公は誰か
・何をする話か
くらいは示しておく必要があります。
それらを行うのが、「セットアップ」「最初の事件」「セントラルクエスチョンの提示」です。
用語は覚えなくてもいいので、「話の最初でこういうことをする必要がある」となんとなくわかればいいです。
では、それぞれ見ていきましょう。
セットアップ (最初の準備)
セットアップというのは、「これからこんな話が始まりますよ」と、視聴者に準備させる部分です。
映画でいうと、典型的なのは、冒頭にある空撮シーンなどでしょう。
都市の夜景や、ジャングルなどを上空から見せるシーンがあったりしますが、あれは「これから始まるのはここを舞台にした物語ですよ」と視聴者に伝えているのです。
セットアップでは、
・舞台はどこか
・ジャンルはなにか
・どういう雰囲気か
くらいを伝えられるといいですね。
「セットアップ」と用語にされると、難しく感じられるかもしれませんが、「物語についての情報をなんとなく伝えておく」くらいで考えておけばいいです。
最初の事件 (物語のきっかけ)
セットアップが済んだところで、だいたいなにか事件が起こります。
それが「最初の事件」です。
「最初の事件」とは、物語のきっかけとなるイベントのことです。
典型的なのは、刑事ものなどで最初に起こる事件でしょう。
冒頭で事件が起こり、そこに駆けつけた刑事が主人公だったりしますよね。
そういった事件を起こすことで、自然に「ジャンルは刑事もの」「主人公は刑事」といった情報を伝えることができます。
他にも「誰かから手紙が届く」、「突然解雇される」、「女の子が空から落ちてくる」、「警察に捕まる」など、「最初の事件」は物語によってさまざまです。
きっかけとなる事件があると、導入が自然になります。
その事件が起こることで、物語で解決すべき問題が決まるからです。
その問題のことを「セントラルクエスチョン」と言います。
セントラルクエスチョン (解決すべき問題)
物語とは「問題を解決する過程」でしたね。
物語全体を通して解決しなければならない問題を、「セントラルクエスチョン」と呼びます。
「セントラルクエスション」を適切に示せると、視聴者が迷子になりません。
「こういうことを解決する話なんだな」とわかった上で物語が始まるからです。
「セントラルクエスチョン」というと難しそうに思えますが、要するに「解決すべき問題」を提示するだけのことです。
「最初の事件」が起こると、だいたいは自然に「解決すべき問題」も決まります。
ですから、あまり難しく捉えず、とにかく「最初の事件を起こす」と考えればいいでしょう。
それでは、上記を踏まえた上で、物語の冒頭をいくつか作ってみます。
冒頭の作例
「セットアップ」と「最初の事件」を考えていきましょう。
それぞれの役割はこうです。↓
・セットアップ : 物語のジャンルや雰囲気、舞台などを伝える
・最初の事件 : 物語のきっかけを作る・主人公を紹介する
上記を決めると、だいたい以下も伝えることができます。
・ジャンル : どういうジャンルの話か
・主人公 : 主人公は誰か
・クエスチョン : 物語を通して解決すべき問題
ではさっそく作例です。
【例1 刑事もの】
刑事ものでは、よく冒頭に事件が起こります。
その事件を解決するのが主人公であり、物語全体で解決すべき問題は「犯人を捕まえられるか?」といったシンプルなものになります。
セットアップ : 現場に向かう車、殺人現場のシーンなど
最初の事件 : 殺人事件が起きた
ジャンル : 刑事もの
主人公 : 駆けつけた刑事
クエスチョン : 犯人を捕まえることができるか?
【例2 スパイもの】
007などに代表されるスパイものでは、だいたい最初にミッションがあります。
その過程で背景が説明されるとともに、ヒロインに出会うというのも定番の展開です。
セットアップ : 豪邸でのパーティ風景など
最初の事件 : 客に扮したスパイが機密文書を盗み出そうとする
ジャンル : スパイもの
主人公 : 組織のスパイ
クエスチョン : 文書を盗み、テロなどを回避できるか?
【例3 ラブコメ】
コメディでは、最初になにか無茶ぶりがあって、それをどうにかするために奮闘する主人公を描くのが定番でしょう。
そこに恋愛を絡めればラブコメになります。
セットアップ : 由緒正しい家のお嬢様が病院へ向かうシーンなど
最初の事件 : 病気の祖母に「結婚相手がいる」と嘘をついてしまう
ジャンル : ラブコメ
主人公 : 彼氏のいないお嬢様
クエスチョン : 期限内に彼氏をつくることができるか?
以上、見てきたように、「最初の事件」を起こすことで、物語の方向性やジャンル、主人公、何を解決する話かをだいたい伝えることができます。
それを補うために「セットアップ」で背景や舞台、雰囲気を伝えておくと考えればいいでしょう。
今回のまとめ
簡単な物語のつくり方5回目「長編のヤマについてもうちょっと詳しく」でした。
1.話の骨組みは基本どおりにして、肉付けを変える
2.ヤマには名前がある
3.冒頭はやることがたくさんある
4.冒頭で「きっかけとなる事件を起こす」と考えればいい
次回は「長編の指針は『行って、帰る』」です。↓
それではまたくまー。
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