17才で夜の世界に(15)

鉄工所と両立が出来なくて定時制高校を留年した翌年から誘いもあり、私は1番上の姉が経営するスナックでアルバイトを始めました。たまに会う時はありましたが、この姉とは小学校2年の時に一緒に暮らしたのが最後でした。私には姉が2人居ますが、2人とも水商売で店を開いています。

上の姉は18才から自分でスナックを開いて水商売一筋でずっと生きて来ていました。本当に色々なことがあったのですが、晩年は若い頃からの水商売生活がたたりアルコール依存症になってしまいます。私が17才の時はまだスナックのママとして何度も店を開き成功させていました。従業員の方も沢山雇っていて、経営の才能があったように思います。

私と姉の関係は兄弟という感じがあまりしませんでした。小学校2年生までしか一緒に暮らして居なくて、その時ですら姉はほとんど家に居なかったので兄弟と言えど何とも不思議な関係です。姉について詳しくは追々書いていければと思います。

私は定時制高校が21時に終わるとそのまま姉のスナックにボーイとしてアルバイトに行きました。未成年なのでお酒を飲むことはありません。特にスナックで出て来るお酒は子どもが飲んでみようと思えるものなどありませんでした。焼酎にウイスキー、ブランデー、どれも子どもが飲みたいと思えるようなものはありません。うそでもなく本当にお酒の匂いから苦手でした。よく覚えているのは、ウイスキーやブランデーの水割りを作る時に、私は飲まないので濃さが分からず濃過ぎてお客さんに怒られたことがありました。その時他のホステスの人に後から教えてもらったことがあります。

「お客さまのボトルを減らして新しくボトルを入れてもらうのが水商売やで。水を売る商売やから水商売って言うねん。お客さまが来たら初めはお酒を薄く作るねん。酔っ払ってきたなって思ったらお酒を濃くする。そうするとボトルが早く減っていく。そうやってうまくやるんやで。」

そこからは私は言われた通りにお酒を作れるようになりました。お酒を飲まない知らない私なのでお客さんが逆に教えてくれることも沢山ありました。夜の世界という場でお酒を飲まない私はある意味で珍しかったのだと思います。指1本分でシングル、指2本分でダブル、この知識もお客さんに教えてもらいました。17才という若さで水商売を経験出来たのは私には良い経験となりました。

暴力団の組長さんの横の席では弁護士の方が飲んでいて、その横には株で生計を立てているトレーダーの方がいらっしゃる、皆さん別々に飲みに来られている訳ですが、お互いのことは詳しく知らず深掘りしない。そこには暗黙のルールがありました。この組長さんはのちにニュースで流れるような事件を起こし来られることは無くなりました。

弁護士の方はスナックが終わった後に色々な所へ連れて行って下さりました。今文章を書きながら思いましたが、よく考えると弁護士が未成年を夜の世界で連れ回すとは中々な出来事ですね。高級な寿司屋さんや韓国料理屋さん、オカマバーにも連れて行って下さりました。今思えば貴重な体験をさせて頂いたように思います。ちなみにお客さんがカラオケで歌う村下孝蔵さんの「初恋」率はとても高かったです。皆さんおじさんになっても初恋を引きずっているようです。良い曲です。

あとテレビ局の方が飲みに来られたこともありました。私が接客したのですが、私もバンドをやり始めた頃で色々な音楽のお話しを一緒にさせて頂きました。その方が帰る時に紙と鉛筆を貸して欲しいと言われまして

「これ聴いたら世界が変わるぜ。」

っとメモを置いていかれました。メモには

ニルヴァーナ「ネバーマインド」

っと書かれていました。私は後日メモを持ってこのアルバムを買いに行き、その後も何枚かアルバムを買いました。今でもニルヴァーナは聴くことがあります。ニルヴァーナとの出会い方はかなりロックな出会い方でした。

姉の指示で吉四六の空き瓶に夜な夜ないいちこを詰めていました。未だによくわからないのですが、吉四六といいちこは味が似ているらしくこういうズルをするようです。これがよくあることなのか、姉が極悪なのかわかりませんが、

「いいちこに詰め替えてるやろ。飲んだらわかるねんからな。」

っと言って怒られているお客さんもいらっしゃりました。その後笑いながら吉四六(中身いいちこ)を普通に飲んでお金を払って帰ってまた後日来られていました。普通もう来ないと思うのですが、それが不思議で仕方ありませんでした。大人の夜の世界は不思議なことが沢山でした。私は大人になってから夜の世界に行くことはありませんでした。お酒を辞める前も居酒屋ぐらいしか行きませんでした。バーすらあまり行かないかもしれません。

あの頃感じたのは、子どもながらに姉を含め大人が夜の世界に来るのは何かを埋めるために皆さん来られている気がしたんです。私は大人になって他のことで何かを埋めたいと考えるようになりました。その違いが大きかったように今思います。