見出し画像

<産後うつ>出産したらベランダから飛び降りそうになった。


いつもは日本画とアートセラピーの重なりについて書いているこのnoteですが、今日はちょっと毛色の違う記事です。

何でかというと、ライフイベントのトップ5に入る妊娠中だからです。不妊期間が長かった私にとって、新たな命を授かり、この世に生み出す、という奇跡を自分の人生で味わえることは夢のように幸せな経験です。

と、同時にひっそりと心の中で「怖い…」と思っている自分もいます。

出産目前の私が恐れていること、それは「私、ベランダから飛び降りたくなるんじゃないか」ってことです。

<目次>
1.妊産婦のメンタル状態
2.産後の実体験「ベランダが呼んでいる」
3.ベランダと私のその後
4.ベランダへの誘いを断つために
5.振り返り&エディンバラ産後うつ病自己質問(EPDS)

※妊娠出産は個人差の大きいプロセスです。こういう人もいるんだな、と私の体験談としてお読みいただければ、と思います。


1.妊産婦のメンタル状態

「それ」を思い出したきっかけは、主人と産後の暮らしについてすり合わせをしておくべく、様々な情報を集めていた時に出会ったこちらの記事でした。

以下、前田晃平さんの記事の抜粋です。


国立成育医療研究センターの調査で、2015~2016年に妊娠中や産後1年未満に死亡した妊産婦357例を調べたところ、死因の第1位は「自殺」で102例、うち、産後1年未満の自殺が92例ありました。

…ってことは、妊娠〜出産一年以内の死亡者のうち、28.6%が自殺

また別データで、2005〜2014年の東京都23区の妊産婦の異常死年別事例においては、「89例中、63例が自殺」と言うデータもあります。(東京都23区の妊産婦の異常死の実態調査(順天堂大学 竹田省、東京都監察医務院 引地和歌子、福永龍繁)より)

上記2つの引用とも、「産後うつ」との関連性が指摘されています。
「産後うつ」とは、このような状態を言うそうです。

産後3日以内にみられる悲しさや惨めさなどの感情はマタニティーブルーと呼ばれ、多くの母親が経験するものです。こうした感情はたいてい2週間以内に治まるため、あまり心配することはありません。
産後うつ病はこれよりも深刻な気分の変動です。産後うつ病になると症状が数週間から数カ月間続き、日常生活に支障が出ます。約10~15%の女性に発症します。極めてまれですが、産後うつ病よりもさらに重度である産後精神病が発生する場合もあります。(引用元:MSDマニュアル「産後うつ病」より)

発症トリガーとしては、産後ホルモンの変化、生活とライフステージの急激な変化、周囲のサポート不足、が主なものでしょうか。

発症リスクがピークに達するのは産褥期(出産後、体が妊娠前の状態に戻るまでの期間)で、発症率約10〜15%という数字は、かなり高い値ですよね。

発症のしやすさについては、「出産前後の性ホルモン変化が大きいケースほど、産後うつの発症が優位に見られる」と東北大学大学院医学系研究科、近畿大学東洋医学研究所の武田卓教授らのグループの研究結果報告があります。

画像1

(引用元:東北大学HP)
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/01/press20210119-01-sango.html


妊娠・出産による性ホルモンの変化なんて、自分じゃコントロールしようもない。

そしてこの性ホルモンは、胎児の成長に欠かせないもの。妊娠直後からホルモンが大きく変化するのに伴い、悪阻(つわり)も引き起こされるし、順調にメンタルやられます(自分比)。

謎のイライラ感や不安感も襲ってくるし、悪阻(つわり)で動きたくても動けない時間が多い中で、自己肯定感をキープするのは、ほ・ん・と・に至難の技。
「産休までお仕事している人もいるのに自分は…」
「どうして最低限の家事もできないんだろう…」
「今日も大したご飯を家族に作れなかった…」

そして、産後やってくる急激なホルモン変化がとどめとなり、産後うつ状態へ簡単に誘われてしまうのですよ。

私は長男の出産の時、これを痛感いたしました。曲がりなりにも心理職の端っこにいますので、メンタルケアの知識はある方ですが、まあ知識は知識でしかない、です。

そして第二子の妊娠期間もあとわずか、もういつでも出産してOKよ〜という時期に入った私は、記事を読んで「そうそう、そうだった!」と怖さを思い出した訳です。


2.産後の実体験「ベランダが呼んでいる」

5年前、長男を出産後の里帰り中から、感情が不安定だな、という自覚はありました。

例えば兄に「友人がお下がりあるんやって。タダやしもらっとき!」と言われ、足りていたベビーグッズだし不要と答えたんです。

にも関わらず、兄が「見て要らんかったら捨てたらええねんから!」とプッシュしてきただけで、「足りてるって言ってるのに何で伝わらないんだろう」と涙が溢れてしまったのです。(兄は元々こういう性格で悪気はないし、私も普段は慣れっこです)

兄に何か言われて泣くなんて、子どもの頃の兄弟喧嘩ぶりですよ。しかも泣くポイントでもない。でも悲しさがどうしても止められなくて、一人になってから号泣しました。「あ、自分で自分を制御できなくなってるな」と感じた一件でした。


そして産後2ヶ月目に、実家から自宅へ戻り、主人と私と長男の3人暮らしが始まります。神聖さすら覚える赤ん坊の輝いた存在に、毎日心が洗われるようで、1つ1つに感動しきりでした。

が、日が暮れると、その完璧な美しい世界が壊されるように感じたものです。
主な原因は、だいたい主人でした。

先に誤解がないように書きますが、主人は温和な性格で、愛妻家で息子を溺愛するイクメンなナイスガイです。そんな主人ですら、私を「ベランダから飛び降りたい」気持ちにさせるには十分だったのです。


それは、普段なら全く問題にならない日常会話が引き金になります。

夜の授乳を終えて、背中スイッチを発動させずに長男を寝かしつけできそうな時に、派手に「バタン!」とドアを閉めて帰宅する主人(育児あるある)。

部屋に入ってきた主人に、「ドアゆっくり閉めてって、いつも言ってるのに」と伝える私。この時点ではまだ大丈夫。

しかし、その返事が「うん、分かった、気をつけるね」以外だった場合、急激に自分を全否定された感覚が襲って来るのです。
主人が逆キレしたわけではないんですよ。「仕方ないやん、そういうドアの作りなんやから」とか「多少の生活音にも慣れさせないとあかんのちゃう?」とか、その程度の返事だったと思います。

しかし、心が敏感になっている産後の私には「お前のやってること、言ってることの価値なんて、これっぽちもないんだよっ!!」と同義語に聞こえるんですよ。すんごい変換機能。悪魔の変換機能と名付けましょう…。

産後メンタルの私としては、そんなキツい言葉を(言われてないけど)言われて、心に深い傷を負い、ダメージを受けてしまいます。
悪魔の変換機能を通して主人の言葉が聞こえてしまうからこそ、「ごめんね、大切な息子を今日も育ててくれてありがとうね」と言って欲しいと願っていたりします。

が、もちろん主人は、自分がそんな酷い言葉を言っているなんて=妻にはそう聞こえてしまっているなんて思いもしないですよね。

こうした行き違いが起こる前に、主人へ理解しやすいよう自分のメンタル状態を説明できればいいのですが、産後の脳は「赤ちゃんの生命を守るファースト」にトランスフォームされているので、冷静さ・理路整然さ・客観性なんかが全部どっかに行ってしまって、話せば話すほど伝わらない。

なんとか分かってもらおうと、私が涙目で「やっと寝そうだったのに」と言えば、「荷物で手が塞がってドアが抑えられなかったんだ」とか「風が強くて勝手に閉まっちゃって」とか主人が返事をするのです。まあ、普通の返事です。

でも悪魔の変換機能つきで会話している私にとって「そうだよね、寝つき悪い赤ちゃんなのにね、起こして悪かったね」以外の答えは、「お前のやってること、言ってることの価値なんて(以下同文)」なのです。

そして、さめざめと泣き始めた妻がどうして欲しいのかよく分からず、そっとその場を離れる主人。

ホルモンガタガタな私の脳内では「もうダメだ、この人とは分かり合えない」と極論に行き着き、「私が一生懸命やっている子育てなんて意味ないんだ」「私みたいな無能な母親は居ない方がいいんだ」と思い始め、

「消えてしまいたい」と胸を締め付けられるような、抱えきれない孤独感と辛さでどうしようもなくいっぱいになってしまう。

飛躍するにも無理がありすぎな思考回路ですが、これが産後メンタルです。少なくとも私の場合はそうでした。


そして。

ふと目を窓に向けると、ベランダの向こうへ吸い込まれそうになるんです。
かぐや姫を迎えに来た月の光のごとく、飛び降りることが救済に感じるんです。
スッと足元が持っていかれそうな不思議な吸引力。抗えない魔法のようでした。

本当に自分はそうしたいんじゃない、心の中でアラームが鳴ります。側にある暖かく愛しすぎる命と離れたくない。

それでも「よし!」と踏み出す意思を持たなくても、「あれ?」と気づいたら体が宙に浮いているんじゃないか、と手遅れになる恐怖を何度も味わいました。

そんな時は、絶対立ち上がらないぞ、とソファと体を離さないように意識しながら、命綱のように長男の顔を見つめて、じっとその感覚が無くなるまで耐えていました。

今でもあの吸引力を思い出すと、ゾッとします。
「妊娠〜出産一年以内の死亡者のうち、28.6%が自殺」という統計の中に、自分も入っていた可能性もあると分かるから。


3.ベランダと私のその後

ホルモンバランスが落ち着いた頃に、この話をしましたが、主人は全くピンと来ていない表情をしていました。そりゃそうだ。

主人からしたら「普通の会話をしただけで、自分の妻がベランダから飛び降りそうになっている」なんて夢にも思っていなかったと思います。

その後、私の状態はというと、産後うつ発症リスクがピークに達する産褥期(出産後、体が妊娠前の状態に戻るまでの期間)〜産後3ヶ月を何とか宙に浮かずに切り抜け、産後5、6ヶ月には仕事復帰できるくらいに心身が回復していました。

回復要因としては、長男との生活に慣れ、スキマ時間で睡眠を取れるようになったこと、お散歩で日光を浴びてセロトニン分泌が促されたこと、産後ホルモンが通常値に戻ってきたこと、などが大きいと思います。(うつ状態改善に有効な項目と似ていますね)

なお、私の場合は「消えてしまいたい」という希死念慮が大きかったですが、「産後うつ」には、気分の落ち込み、食欲不振、不眠、不安感、子どもがかわいいと思えない、など様々な症状があり、各症状の出かたも強さもその人それぞれです。


4.ベランダへの誘いを断つために

さて。そんな訳で第二子出産予定日が迫った私は、ホルモンの乱高下に見舞われる前に、あの怖さを記録しておくべく、このnoteを書いています。

そして、脳が産後トランスフォームを起こす前に、主人に「こうなりまっせ!」と説明しておくつもりです。あの例えようのない孤独感を、ベランダに誘われる恐怖を、共有すべき人はまずパートナーである主人だと思うからです。

今ならきっと他人も理解しやすいように話せる…はず!!今度こそ、夫婦の力で、あの悪魔の変換機能に打ち勝とうぞ!

マタニティーブルーを経験した人ほど、産後うつに繋がりやすいそうなので、産後すぐ〜2週間がマジで勝負どころです。

発症にはホルモン変化が大きく関与するため、長男の時そうだったからと言って、第二子の産後も同じ状態になるとは限らないのですがね。(というか、できれば再経験したくないよー)


5.振り返り&「エディンバラ産後うつ病自己質問(EPDS)」

振り返って思うことは、「産んでから、すぐ元気に動ける人もいれば、死にたくなるほど心も体も大変な人もいるんだ」と産前から知っておけたらよかったな、ということです。

そして、その産褥期の状態の広い振り幅のどこに自分が当てはまるかは、体質やホルモン変化の影響で選びようがないんだ、ということも。

そうすれば、もう少し自分に甘くできただろうし、周囲にも相談しやすかったと思います。

いやー、しかし。
産前の両親学級でもマタニティ・ブルーズや産後うつのキーワードは聞いたものの、こんなにも深刻で辛いとは…。

発症後に「自分で冷静に状況判断して、適切な窓口を探して、コンタクトを取って、なんてムリ!」というのが私の体感です。起こってから、困ってからでは手遅れ。実際、何かケアやクリニックに頼るという発想が浮かばないまま耐えてしまいました。

産前の知識として、産院などで配布される出産準備リストに「すぐ心理ケアにかかれるよう、産前からリストアップしておきましょう」の一文と、
産後うつの深刻化の予防のため、「周産期メンタルケアに特化したクリニック・窓口一覧」を添付するのはどうでしょうか?!
全国の産院・産科の皆様どうぞご検討お願いします。


最後に現時点での自治体の対応について。

産後1ヶ月を目安に、保健士さんが自宅を訪問してくださる「新生児訪問」があります(コロナ禍だと実施していないかな?)。
そして、産後うつのリスクを抱えていないか問診や質問票でスクリーニングする取り組みを行っています。

が、私のように局地的な気分の落ち込みしかないケースだと、その時点ではニコニコ対応できちゃいます。そういや、久々に社会に触れた喜びでテンション上がった記憶あるなあ…。

また、「新生児を守らなきゃ」と言う危機意識が高まっている産後のデリケートな時期、初対面の人を家に上げるだけでも緊張するので、本音で話せないって方も多いのでは、と想像します。

「もしかしてこれ、産後うつ?」と思いつつ、誰にも言えないあなたがいたら。スクリーニングに使用される「エディンバラ産後うつ病自己質問(EPDS)」を添付したので、そっと見てみて下さい。

あなたが弱いわけでも、悪いわけでも、出来ないわけでもない。たまたまホルモン変化が大きかったせいだ、と思っていい。同じ辛さを持った人が、この世界のどこかにいる。一人でいるようで一人じゃないから。
一緒に乗り切れますように。











ありがとうございます。サポートは、日本画の心理的効果の研究に使わせていただきます。自然物由来の日本画材と、精神道の性質を備える日本画法。これらが融合した日本画はアートセラピーとなり得る、と言う仮説検証の為の研究です(まじめ)。