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記憶:蛍

 幼い頃、たくさんの蛍を見た記憶がある。

目の前に広がる星空のようで、夢のような光景だった。でも、もしかしたら夢だったのかもしれない。昔は広がる闇夜に数え切れないほどの光があった。今はもう、その淡く幻想的な光を見ることはほとんどない。見ることが出来たとしても、それはたった一つの光だけだ。蛍に関する1番新しい記憶は、たまたま家に入ってきた蛍を祖母が嬉しそうに見せてきた日の記憶だ。それも私が小学生か中学生の時のこと。

いつからいなくなってしまったのだろう。本当は私が幼い頃からいなかったのだろうか。だがあの日の光景は今でも鮮明に覚えているのだ。学友に話したことも、美術の時間で絵に書いて表したこともある。あの夏の夜のことは夢ではなく、確かに現実で起きたことだ。

もう一度、もう一度だけあの光景を見ることは出来ないのだろうか。蛍たちの儚い命の灯を。

私はこれから先、一縷の望みを抱いて夏の夜を過ごしていくのだろう。

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夏の思い出

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