女衒
女衒さんは色々な仕事を斡旋してくれる。
大阪の中心部。
商店街のドン突き、決して綺麗ではなく人通りも少ないそのお店、セクキャバ。
入店してみると、やはり“雑居ビルの一部屋”という汚さだった。
入店して暫くした頃、ご新規様のご指名を頂いた。
入り口に一番近い席、そこに車椅子に乗った彼が居た。
直ぐにその障がいは重度だと解かり、正直動揺した。
ん?ごめんなさい。もう一度お願いします!
何度も聞き返した。
これですか?お茶?お絞りですか?
何度も間違った。
次は指名はもらえない、店にすら来てくれないかもしれない…。
1週間ほどして、指名された席に向かうと彼が居た。
安堵と不安、複雑な心境だった。
やはり何度も聞き返す、そんな自分に苛立つ。
気分を害したかも知れない…今度こそ次はない、そう覚悟した。
お見送りを終え店に戻ろうとした時、介助の方が走ってこちらに向かってきた。そして
『彼が聞きそびれたみたいで…「どうしてキーホードを使おうとしないのか?」と。』
テーブルにはいつも、会話をするための音声キーボードが置かれていた。
返答に戸惑う私に
『彼はきっと嬉しいのだと思います。キーボードだと、目を見て会話してもらえませんから』
何故かボロボロと涙がこぼれた。
私は、無機質なキャッチボールがしたいわけではない。
自分でも解らないが、人肌を感じたかったのかも知れない。
それからは躊躇なく色々な話をした。
勿論“ならでは”の接客もしたが、時事問題などで軽く言い合いになることもあった。
思いがけず、楽しみが出来たのだ。
彼の悩みに、性処理問題というものがあった。
彼の場合、一日に数時間しか車椅子に乗れず、無理をするとすぐ体調を崩すのだという。
30代の男性なのだ、いつ煩悶の波に襲われてもおかしくない。
だが自慰行為もできず、かといって簡単に外出も出来ない。
“障がい者専用風俗”も増えているとはいえ、良い対応をしてもらえなかったり
程度によっては断られる事もあるというのだ。
身体的にも経済的にも負担が少なく、安心して人肌を感じられる…
そんな日が来るだろうか。
辞めて10年以上経つ。
店も無くなってしまったが、彼はどうしているのかと未だに気になっている。
またいつか、言い合えないかな…と。
女衒さんは時に、良い経験と有り難い出逢いをもたらしてくれる。
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