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王さまの本棚 59冊目

『家守綺譚』

梨木香歩作/新潮社刊

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まず。『家守』は、葡萄酒じゃなくて葡萄でした。葡萄酒は『風立ちぬ』でした。

で、黄泉竈食ひについて。
『家守』でも、『風立ちぬ』でも、あの世とこの世の境目において、「食べ物」をすすめられるシーンがあります。『家守』では明らかに黄泉竈食ひをモチーフとしています。

『風立ちぬ』では、二郎が夢の中で菜穂子に出会い、ボロボロの精神の中カタルシスを得るシーンがあります。そこでカプローニが『いいワインがあるんだ。』と言って二郎を誘います。わたしにはこのカプローニが、悪魔メフィストフェレスに思えたのです。
夢というのは現実とあの世のあわい、死者であるカプローニがすすめるワインというのは、これはもう、黄泉竈食ひではないでしょうか。
ただ、ここでカプローニは『君は生きねばならん。』とも言っています。つまり、死人の精神となった二郎に黄泉竈食ひの食物たる霊酒を与えることによって、なんとかかんとか生きていくことを促していると考えられます。

まあ辻褄は適当ですが、そんな可能性もあるよね、ということで、言いたいのは、そんな突拍子もない可能性もすべてひっくるめて物語を終焉に持っていく圧倒的な筆力に感服した!と言いたいのです。

肝心の『家守』ですが、こちらはすごく繊細で、まさに『綺譚』。見ての通り「奇譚」と掛けていて(たぶん)、すこし妖しげなものを、在るものとして受け入れ、暮らしていくということを魅力的に、うつくしい筆致で描いています。たまらん。

『風立ちぬ』の話が長くなりましたが、『家守綺譚』、すばらしい本であります。文庫も、その小さいサイズがかわいらしいのですが、ハードカバーもお値段1400円の割に上等な装丁なので、どちらでも~!
(カネの話をして締める)(うつくしくない)

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