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「天賦の才。」ショートストーリー

私の部屋の電話は普通の回線を使用していない。時間も空間も超えられるようにできている。人間が持っている携帯とやらは、私の好みではない。

「よくあんな代物を使うわね。鈍感すぎる氣もするけど。慣れとは怖いものね。」とつぶやいて私は電話をかける。電話の形をしているものだけど機能がくらべものにならない。

「あまみや。」

相手は待っていたかのように瞬時でこたえた。

「はい。ご無沙汰しています。Maliさん。」

「あまみや。あなたにとって、私の名前は相変わらず漢字ではないのね。」

「あなたは日本人ではないでしょう。それに地球人どころか人間でもない存在ですので。ただ欧州に永くいらしたのだから、アルファベットでお呼びしすることにしています。」

「あまみやだって、本当は雨宮という漢字ではないことは知っているけど。」

「名前は大事ですが、私の場合はあなたと違って名前に縛られたり、影響が内外に現れません。だから、どの漢字でも良いのです。」

「それで。何か。」

「少し声が聴きたかっただけ。あなた、私の部屋になかなか来ないのだもの。」

私は珍しく甘い声で言ってみる。

「Maliさん。その声を私につかわなくてもよいでしょう。それに、私はあなたに招待されないとその部屋には入れないものです。招待されていませんが。」

「あまみや」は、電話の向こうで笑っているような氣がする。

私の声は魔法とか魔術とか呼ばれる類のもので、相手を思うように動かせることも可能だが「あまみや」の場合は生まれつきの能力、天賦の才というものだ。

「あまみや」のその声を聴くたびに思う。どんな存在だって瞬時に落とせるし、癒すこともできるその声を武器としてつかったのなら、「あまみや」はかなり手ごわい私の敵になるのじゃないかしらと。

「私はMaliさんの敵にはなりませんよ。そろそろ、お仕事の時間でしょう。暇つぶしになりましたか。それではよろしくお伝えください。」と言って電話は切れた。私の心も読めるらしい。

それにしても、誰によろしくを伝えればいいのだろうと考えたとき、部屋のインターホンのチャイムがなった。クライアントが時間通りに訪れたのだ。






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