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「抹殺ノート。」/ショートストーリー

どうしてこの世は私を虐げるひとが多いのだろう。

私のなにが気に障るのだろう。
私のなにが気にいらないのだろう。
私のなにがイライラさせてしまうのだろう。

どんなに考えてもよくわからなかった。
いくつか思い当たることはあっても。
これこそが理不尽に扱われる理由なのかと考えると
どれも違う気がしてまたぐるぐると考えてしまうのだ。

結局。
何も正当な理由は存在しないことに至った。

だから。
殺すことにした。
まずは。
ノートに書いて整理することにした。
名前とそいつにどんな事をされたのか。
罵詈雑言を浴びせれたとか、ひとりだけ無視されたと書く。
名前がわからない時は。A 男性 初老。みたいに書く。
私はその時どんな感情を抱いたのか。
苦しかったとか、悲しかったとか、悔しかったと書く。
等々、ノートに書いていった。
とても細かくだ。

書いているうちになんだか楽しくなって。
いつかは相手を殺すのだから。
私の前から葬り去るのだから。

ひどい扱いをされるたびに、嫌な想いをするたびに。
あっという間にノート一冊、書き上げてしまった。

それでやっと。
私を正当な理由もなく虐げた人たちを殺すことができる。

私はそのノートをびりびりに破いて紙袋に捨てた。

破くそばから、どんどん記憶がなくなる。

そして。

私の記憶からすべてが消失された。


だれもこれで私を悩ませない。
みんな。
ころしてやった。

本当になんでも屋の『抹殺ノート』はすばらしい。
暗くて重くてどんよりとした私の身体が宙に浮くぐらい軽くなっている。
『抹殺ノート』の価格は秘密。
まあ。高くもなく安くもない。
本当は焼却したかったのだが。
アパート住まいではそれも叶わない。
『抹殺ノート』を捨てた紙袋はなんでも屋が回収してくれた。

何でも屋はつぶやきます。
ごみといってもいいんだけど。
これは資源ごみにちかいかな。
これを欲しがるひとでなしのお客様や。
大好物だという変態のお客様もいらっしゃるから。






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