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「男子って可愛いなあ」の母性に目覚めた日


「男の子って可愛いよね」
「年下の男性が好き」
「なんか守ってあげたくなるのよね」
「風邪で弱っている姿がいい」

 年下男性好きの友人から、このようなセリフをよく聞く。
正直私は全く理解できない。
 いや、全く、ではないか。

 夫を見ていて、(ばかだなあ…)と思うことがあるのだが、決して蔑んいたり卑下にしているのではない。
この言葉の感情は、(少年のような心がかわいいな)も入っているからだ。

 男性の甘える姿を見て可愛いと思わなくもないが、「守ってあげたい」までは思えない。



 夫が体温計をもって、「37.1度だ。熱上がってきたなぁ…」と言っている姿を見ると、私は少し呆れた感情が湧いてしまう。
もちろん、「そうなの?!体調悪かったら寝てきなよ!」と声はかけるが、内心は(37.1度は熱じゃないです)と思っている。

 高熱を出した翌朝、彼はまた体温を測っている。36.8度。
「もう少しで治るな…」と夫は言っている。
 私は「そうだね。もう少し寝てきなよ」と言うが内心、(完治だよ。何度を目指してんだよ)と思っている。

 2時間おきに熱を測っている夫を見ながら(入院中の手術後の患者さんかよ)と思うのだが、黙って見守る。


 普段の夫は、
私がよく貧血になるため、食事面での栄養管理。
子どものオムツや、ティッシュなどのストック用品の管理。
お金の管理。
会社の飲み会管理。
旅行の飛行機やホテルの予約管理。
とにかく管理事が得意。

 私が「あれってやったけ?買ったっけ?」と聞いた時には、大抵終わっている。
つまり夫はしっかり者と呼ばれる分類の人だと思う。

 そのしっかり者の夫が、風邪の時は凄く弱体化する。

 私はギャップ萌に同意しているのだが、風邪の時の夫に対して、どうしても、ほんの少しだけ呆れてしまう。
 そして夫は、私が呆れながら夫を見ていることを多分察知している。
何かしら、にじみ出てしまっているらしい…。

 だが風邪以外でメンタルが落ちている時の夫に対しては、私の心持ちは少し違うみたいだ。

 夫が会社のプレゼンの大会のようなもので落選した時は、どうやって元気ずけようか私はあたふたした。
 頻尿の症状が出た時、そのうち治ると言って病院に行きたがらない夫を、半強制的に病院に行かせた。
 中型バイクの免許の試験を私は1回で受かってきたのだが、夫は落ちてしまった。その時の夫は、溶けてしまうんじゃないかってぐらい落ち込んでいた。男のプライドらしい。
私が何を言っても嫌味に聞こえてしまうから、笑い話にして気持ちが晴れるよう接した。
 だから、私は弱っている夫が嫌いという訳ではないらしい。

 風邪で弱っている時の、夫が嫌いなのだ。

 私は「弱っている男性を守ってあげたい」の感情があまりない。
 若い時の恋愛では相手に尽くす自分に酔っていた時期はあったものの、結局その気持ちは1週間ももたない。
この感情に早々に飽きてしまうのだ。
 自分の身を削り相手に尽くすことに違和感があるのだ。
 なぜ看護師の仕事をしているのか疑問を持ちながらも、職場に足を運んでいる。
白衣の天使と言われる看護師だ。母性的な印象をもっている人も多いと思う。
私の母性がないのは、"尽くすのは優しさではないと感じているからなのだ"と、言い訳はしっかり用意している。

 私の感情はこうなのだが、他の女性陣はどうなのだろう?
漫画やアニメ、ドラマの中には"弱っている男性を守ってあげたくなる女性"はそれなりに描かれているから、きっと弱っている男性に対して愛おしさが湧く感情を理解できる女性は多いのかな?
 弱い男性がモテるというよりは、優しさの塊のような男性に対し、愛しさが込み上がるのだろうか?
 それともこれはギャップ萌えを究極的に感じる女性が、普段は強がっている男性の弱い部分を見て、特別感から愛しくなるのだろうか?
 女性が男性に対し「守ってあげたい」はなぜ、いつから芽生えてきたのだろうか。
狩猟時代に女性が男性を守るなんて考えられないだろう。ただこれは身体的な意味だ。女性の「守ってあげたい」は、精神的な意味でということだろうから、また違うのか。

 ダメ男を好きになってしまう友人を何人か見たことがあるから、きっとこの「弱っている男の子可愛い」は女性特有で、存在するものなのだと思う。
 因みに私がダメ男にはまらないのは、ただ単に肉親の男どもがダメ男ばかりで、それをずっと見てきたから辟易しているってだけだ。
 弟が20歳の時、米の炊き方を知らないと聞いた時は怒りが湧いた。「ダメな大人じゃん!」とつい言ってしまった。弟には「だめでは…なくね?」と返答された。
 この愚弟を見て「私がやるからいいよ♡座って待っててね♡」と言える女性こそが母性に溢れた人なのだろう。多分。
 この「弱いもの可愛い。守ってあげたい」は赤ちゃんを守るために備えられた女性のシステムだと思うのだが、まんまと利用する男性は多数いるのだろう。

 母性について考えていたら、ふと、私には本当に母性を感じた瞬間は今まで全くなかったのだろうか?何か一度ぐらいはあったのでは?と記憶を遡ってみた。
そしたら、あったのだ。
 散々、母性が分からないと言った後に恐縮なのだが、きっと、あれは母性だったと思う。



 小学6年生の時。
 音楽室。
各テーブル6人程で椅子にかけて座っていた。
 確か、リコーダーの練習時間だった気がする。
楽譜を見ずに吹けるようになったら、先生のところへ行きテストをする。

 私はまだ先生のところでテストする程の自信はないから、反復練習していた。
 周りの子達は先生の所へ行き、テストを受ける列に並び始めている。
 私のテーブルの席には、気がついたら私と男の子の2人になっていた。
 少し焦る気持ちもあり、男の子を見る。
 この男の子とは、まあまあ仲が良かった。
だからなのか、なんだか違和感あるなあ。と感じ、眺めていた。いつもと何か違う気がする。
 男の子は大して練習をしていないのだが、でも遊んでいるわけでもない。
 そんな男の子を見ていたら、テストに焦る気持ちも遠ざかっていった。
「どうした?」
と、漏れるように言葉をかけていた。
男の子は少しうつむきながら
「なんでもない」
と言った。
黙って男の子を眺めていた。
ふいに男の子が顔をあげた。
私と目があった瞬間、男の子はポロポロ泣き出したのだ。
(げっ!)
と内心驚いていたのだが、
「〇〇くんと喧嘩して…」
と喋り出した時、

(か、かわいいなあ…)
と胸キュンしたのを覚えている。
喧嘩して怒るんじゃなくて、泣けてきちゃったのかあ。

 普段の私なら焦っている。だって周りから見たら明らかに私が泣かしたって絵面だったからだ。
 しかし生まれて初めて感じた胸キュン。いわゆる母性の目覚めによって、全く気にならなかった。
 母性に目覚めた私だったので、
「〇〇くん、呼んできてあげようか?」
とつい聞いていた。
 自分の男兄弟を見て、男の喧嘩に口を挟むと面倒くさくなることを学んでいたはずの私がだ。

 少し間をおいて、男の子は小さくうなずいた。
(か、かわええ〜)
惚れかけた。

 喧嘩相手の男の子に、「仲直りしたいんだって」と声をかけテーブルに連れて行った。
 泣きながら仲直りしている男の子が可愛くて仕方がなかった。

 この日初めて、「男の子って可愛いなあ」と感じた。
 もうリコーダーを吹いている場合ではなかった。
だって生まれて初めての母性という感情との出会いだったのだから。

 ここまで胸キュンしたはずなのに、なぜその後母性あふれる、「弱ってる男の子可愛い。守ってあげたい」思考にはならなかったのだろうか。
 今でも覚えているほどだから、私にとっては衝撃的な出来事だったはず。
 なぜ、風邪を引いた夫を、「可愛い。守ってあげたい」と思ってあげられないのだろうか。微塵も。

 きっと、これは私が看護師だからという理由にしておこうと思う。
看護師だから、ちょっとの風邪で騒ぎ回る夫にイライラしてしまうのだろう。
 かまってオーラに、心配してほしいオーラに、イライラしてしまうのだろう。
これが仕事中なら、優しくできる。
なぜならお金をもらっているから。

 きっとこれは練習なのだ。
 お互い年齢を重ねて病院に通うようになった時、お互いに優しさを与えあい、良い雰囲気で協力するための。
 いつか来る、その時のための練習なのだ。

 この日の胸キュン、母性を忘れてはいけない。

 私以外の女性達も、母性の目覚めを感じた日はきっとあるはず。
だから忘れた人は、思い出して欲しい。

 私は次、夫が風邪を引いた時はあの日の男の子を思い出し、初めて感じた女の母性の感情を呼び起こし、奮い立たせ、夫に優しくする努力をしようと思う。






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