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「 モミジとリュウノヒゲ 」 (エッセイ・とんぼ) (小説) 倭人は、暢草(ちょうそう)を献じる29

< モミジとリュウノヒゲ > とんぼ

 子供達が登校した後、テレビで全国の天気予報をチェックしながらも頭では来年は辰年だなとまったく別のことを考えていた。
テーブルには一面や地元のニュースを読み終わった新聞を開いたまま、龍にまつわる色々な事をネット検索していると「リュウノヒゲ」の画像が目に入った。植物...。
あれ?これは我が家の庭でも年中青々と茂っている葉っぱではないかな。
一人胸が高鳴った。
リビングの椅子の中に膝を折曲げ座ったまま腕にぐっと力を入れて上半身を乗り出した。
ガラス越しに窓の外へ目をやると、ぱっと光が膨らんだような気がした。
冷えた地面から生える葉は凛々しい緑色で
うっすらと光りを放ち真っ直ぐに茂っている。
私は目を細めたり開いたりしながらマグカップ半分ほどまで飲んでいた
コーヒをもう一口だけ飲んでゆっくりと立ち上がった。
思わず勢いよく窓を開けると思っていたより冷たい空気に触れた。
さっき天気予報で今日は気温が上がるって言っていたから。
そっか、やっぱりもう冬だよね。と気を取りなおした。
用心深く一段降りて突っ掛けを履き十歩ほど先までジャリジャリと足音を鳴らしながら近づきストンと体を屈めた。
やっぱり。
君はリュウノヒゲ。
ほんと、龍の髭みたいだ。

君の名前はリュウノヒゲだったのか。
さわっさわっとかすれたような音が鳴る。
濃い草の匂いを両手に纏った。

真上にはあんなにも荘厳なグラデーションを愉しませてくれた紅葉の枝の葉が今日までにほとんど葉を落とし寂寞な庭の気配に寂しさも感じていたところだった。

モミジとリュウノヒゲ。
土に深く根差し互いに深い絆で結ばれていた。
鼻から胸に目一杯モミジとリュウの匂いを吸い込むと
私も絆で結ばれたような気がした。

私の眠った魂を呼び覚まそうとしているのか。

もうぐ君の年のようだし
夏の夕暮れにはいつもより心を込めて水撒きしますね。
ポストへ行く時、ゴミ出しする時、洗濯物を干す時、リビングでコーヒーを飲んでいる時、いつもより長い時間君を眺めていることにしますね。
当然返事はないに決まっているけど
さっきまで雲に隠れていた朝日がリュウノヒゲを照らす様に差し込み
あたりは一層緑濃く光り輝いた。

君の声が聞こえた気がしたよ。


♢ 誰もその所在を明らかにす者はいなかった。
  海の島々にひっそりと暮らす人々は
  いつしか「 倭人 」と呼ばれるようになった...。

🌿秋津先生の著書で、難しい漢字や言葉、興味を持った事などは
 辞書やネットなどで調べながらゆっくり読んでみて下さい。
 きっと新しい気づきがあり、より面白く読み進められると思います。

倭人は暢草を献じる 29
原作 秋津 廣行
   「 倭人王 」より
 
 昆迩こんじは、迷っていた。
喉のどまで出かかっているのであるが
言えないまま話を変えた...。

 「かつて、われ等は、大陸人から領地なき海人として、沿岸の湊を利用する特権が認められておりました。
周の二代目天子(てんし)、成王(せいおう)の時
わが知佳島の先祖、昆須(こんす)は、秋津洲に伝わる不老不死の草薬
千年に一度花咲かせるという暢草(ちようそう)を淮河の黥王(げいわん)の元に届けました。
黥王(げいわん)の先祖は、古くから淮河(わいが)沖の孤島に住み着いて、秋津洲の言葉を話し、自分のことを阿曽彦(あそひこ)と呼んで
代々に名を継がせておりました。
その黥王(げいわん)が
「これは、時を得た仙草(せんそう)である」として
直ちに、二代目周天子(しゅうてんし)に即位された成王(せいおう)へ
献上致しました。
この時、越裳(えつしょう)もまた白雉(はくち)を献じたことから
王は辺境の地からの贈物と大層喜び
「越裳(えつしょう)は白雉(はくち)を献じ、倭人(わじん)は暢草(ちょうそう)を献じる。」と歴史に記し、海人の中でも越人(えつじん)と
倭人(わじん)を特別に扱いました。
海人は、それぞれに姿、形、肌の色、言葉が違うのですが、誰もその所在を明らかにする者はいませんでしたから、越人以外の海人は、いつしか
倭人(わじん)と呼ばれるようになりました。

 
 昆迩(こんじ)は、遠回りではあったが、黒潮奄美(くろしおあまみ)族と周天子(しゅうてんし)との繋がりを話した

                             つづく 30









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