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ヒストリー15 つづき②

邸宅内
 
小さな古屋。

《グレース視点》

古屋の裏で、ふたりが話をしている。
アイリとグレースだ。

アイリ『グレース、今日もご飯をありがとう。』

グレース『いえ、お気になさらないで下さい。
それよりも奥様、、』

アイリとグレースが、月の灯〔あか〕りに
照らされている。
時々、雲が月の邪魔をして、その灯〔あか〕り
を遮〔さえぎ〕る。

グレース『明日、ここを出て行くと
いうのは、本当ですか?』

アイリ『ええ、ほんとうよ。
グレースには伝えるつもりだったけど
先に言われちゃったわね。』

グレース『旦那様は、ここを出る事を
お許しになられたのでしょうか?』

アイリ『直接は了解もらったわけじゃないけど
許してくれたと思うわ。会話じゃなくて、
心で伝わってきたの。』

グレース『心・・ですか。』

グレースは、アイリとブラグが、
何を話したのか気になった。
気にはなったが、聞けない。
2人の中には、グレースが思いもしない
ような複雑な気持ちがある。

アイリ『もし、外に出られず、門番に
止められたとしても、レオにだけは
外の世界を見せてあげたい。
鳥かごの鳥じゃなく、羽ばたいてほしいから。』

アイリが微笑んだ。

グレース『私は、奥様とレオ様に
絶対に幸せになってもらいたい。
だから、もし門番に止められて外に
出れないようであれば、私が何とかします。』

アイリ『グレースは、そこまで
考えなくていいのよ。
気持ちだけで充分、嬉しいわ。
神が道を示してくれているのなら
必ず、外の世界に出られると思います。
全ては神のご意志。』

アイリは、目を閉じて、首からぶら下げた
菱形〔ひしがた〕のネックレスを優しく握りしめた。

グレース『奥様、そのネックレスは、、』

アイリ『ああ、これは、』

アイリの表情が柔らかくなった。

アイリ『私がここに来て、最初の誕生日に
あの人から、貰った〝母体神テトラ〟を
象徴する菱形〔ひしがた〕のネックレス。』

それは最下級身分であるアイリが
ネルソン家(上級身分)に認められた事を
意味する。信仰はもちろん、〝母体神〟の
名前すら、言葉にする事を禁じられたアイリに
ブラグからの暖かな贈り物。

グレース『まだ、持っておられたんですね。』

アイリ『人からの贈り物には、魂が宿ると
私は思っているの。
だから、どんな小さな物でも
どんなに大きな物でも
大事に、大切にしていきたい。』

グレース(これがアイリという人。
全てに〝純粋な愛〟を注〔そそ〕げる、優しくて
暖かい人。そこには何の曇りも存在しない。
私は、このアイリという人が、ほんとに
好きなんだろうなぁ。)

グレース『奥様、外に出て、どこに
行かれるのですか?』

アイリ『・・〝聖地デルフィ〟にある
〝ミアジン大聖堂〟へ行こうと思います。』

グレース『え?聖地へですか?』

アイリ『うん。聖地の〝ミアジン大聖堂〟へ
行き、神の声を聞きたいと思うの。
神の声が聞こえたなら、懺悔〔ざんげ〕すれば
罪が許されるといいます。
もし、レオが罪を持って生まれたのであれば
私は神に許しを乞〔こ〕います。』

グレース『でも、〝聖地デルフィ〟へ
レオ様を連れて行くのは、非常に危険
なのではないでしょうか?
あの、、その、、』

グレースは言葉に詰まった。

つづく。

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