仁吾巴 妍 niaha ken

ひとと記憶について、無心に庭をみつめるネコの真似して、ずっと考えています。

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マガジン

  • 応募作品 白の連還

    2024年度創作大賞応募作品

  • 【奇譚】赤の連還

    第七感連環奇譚・赤をめぐる記憶の乱脈・トアレグの小女にのめり込んでいった愛の顛末

  • 【奇譚】白の連還

    第七感連環ミステリー・白をめぐる記憶の乱脈

  • ハコの画集

    ハコが気ままに描いた記憶の断片

  • 記憶のはなし

    ひとは、記憶があって、はじめて、人として生きていけます。記憶は、そのひとの、存在の履歴であり、証です。もし、記憶がなくなったら、ひとは、どうなるのでしょうか?…そのことを、ずっと、考えています。

最近の記事

     白の連還(全記事合体)

  あらすじ その年、正月寒波の到来で豪雪にみまわれた北アルプス後立山連峰白馬山系の一角にある避難小屋に、表層雪崩で複数の登山者がとじこめられた。中に彫銀の白蛇を心棒に巻きつけたピッケルを肌身離さず山行する浜坂の医師、現代社会の実相をファインダー越し抉りだしてみせようと意気込む報道カメラマンの卵、大好きな山の生活と実益を両立させようと山岳メディア業界に飛び込んだ女監督、赴任地アルジェリアから一時帰国中の若い商社マンの四人がまじっていた。長逗

    •      白の連還 第1話 

              白い犬  いい気になってつい最初に話さなければならない羽目に陥ってしまったわけですが、はたしてなにを話していいものやら実はよく分からなくて、戸惑っているのが正直なところです。  私は東京都内のある地区で小さな病院を営んでいる医者です。科目は産婦人科ですが、大なり小なり、治療は全分野に係わらざるをえません。いってみれば、地区住民の小さいときからのかかりつけの医者、といったところでしょうか。  ところで、毎日おおぜいいらっしゃる患者さんを通していえることは、

      •      白の連還 終章

                白い蛇  豪雪に翻弄された冬山シーズンもおわり、四月十日の山開きの祭事も無事終え、山岳スキー愛好家の来訪を待ち望む白馬山系の一角で、年末年始に多発した表層雪崩が原因とみられる遭難事故の現場が発見された。場所は、天狗原から蓮華温泉に下る沢筋の一角で、壊れた避難小屋の中から、年長者の男性一人、長髪の若い男性一人、大腿骨に添え木を施した若い男性一人、そして、五十代の女性一人の計四人の遺体が発見された、と地元紙が報じた。  同記事には、すでに着手ずみの身元調査に触

        •      白の連還 第4話

                  白い男  きのうのハナシをきいていて、おもったんですけど、女監督さんとボクと、なんとなく、どこかでつながってるっていうか、因縁があるっていうか、不思議なんですよね、ハナシの中身が。とくに、ダッカ・ハイジャック事件のあたりから、どこかでリンクしているみたいな気がして、ならないんですよ。  どんな風に、て、きかれても、あまり、とっかかりがない、というか、みなさんとは、関係ないコトなんで、説明にこまっちゃうんですけれど。でも、どうしますかね、ウン、そうっすね、こ

             白の連還(全記事合体)

        マガジン

        • 応募作品 白の連還
          7本
        • 【奇譚】赤の連還
          12本
        • 【奇譚】白の連還
          7本
        • ハコの画集
          5本
        • 記憶のはなし
          8本
        • Histoire de la Mémoire
          8本

        記事

               白の連還 第3話

                  白い氷  まず、どうなんでしょう、ハナシをしなければいけない本人が、いきなり質問することからはじめたりしたら、みなさんにムッとされてしまって、あとが続かなくなってしまうかもしれませんけれど、でも、正直、わたしには、機会さえあれば、いつか、だれかに、話そうと思っていた隠し事が一つあって、それが、いまだにチャンスがなくて、だれにも打ち明けることができなくて、今の今までやり過ごしてきてしまいました。そのせいか、いつも喉のおくに、なにかグリグリしたものが詰まっていて

               白の連還 第3話

               白の連還 第2話

                  白い女  よわったなぁ、オレ、ハナシがへたなんだよな、生まれつき。だからこうやって写真屋、やってんだよ、しかたなく。ハナシがうまけりゃ、もっとましな仕事やってたよ、いまごろはさぁ。  いったい、ぜんたい、だれがこんなこと、思いついたんだ。いい迷惑だぜ、はっきりいって。もっとも、反対しなかったオレにも、えらそうにいえた義理はないんだけどね。  さて、グチってたってはじまらないや。なにを話せばいいのか決めなきゃね。とりあえず、自分のハナシでもしてみるか。  

               白の連還 第2話

                白の連還 序章

                  あらすじ その年、正月寒波の到来で豪雪にみまわれた北アルプス後立山連峰白馬山系の一角にある避難小屋に、表層雪崩で複数の登山者がとじこめられた。中に彫銀の白蛇を心棒に巻きつけたピッケルを肌身離さず山行する浜坂の医師、現代社会の実相をファインダー越し抉りだしてみせようと意気込む報道カメラマンの卵、大好きな山の生活と実益を両立させようと山岳メディア業界に飛び込んだ女監督、赴任地アルジェリアから一時帰国中の若い商社マンの四人がまじっていた。長逗留を見込んだ医師の提案で

                白の連還 序章

          【奇譚】赤の連還 14 赤い嫉妬

          赤の連還 14 赤い嫉妬  マグレブに限らず、アフリカ人の行動原理には、まず家族、という考えがある。生きる根幹には家族愛がある、ということだ。  よく、時間にルーズだと、かれらを批判する声をきく。十分やニ十分の遅れは、遅刻のうちに入らない。二、三時間遅れても、ニコニコしながらやってくる。そして、平然として、こういうのだ。 「子供が熱を出して医者に連れて行ってた、だから、時間に間に合わなかった、わたしのせいじゃない」  ここで、たいていの場合、ムカッとくるのだが、そのうち

          【奇譚】赤の連還 14 赤い嫉妬

          【奇譚】赤の連還 13 赤いターバン

          赤の連還 13 赤いターバン  いまからおもえば、連隊長宅で、夫君の革命的な戦死を礼賛したオレのことを、団長は、かなり覚めた目で、ながめていた。あれは、いつだったか、宿舎の食堂で、欧州文化のルーツが話題にのぼったとき、知ったかぶりで自説を披露するオレを見ていた、あのときと同じ、冷ややかな目付きだった。  おもうに、マドリガーレの洗礼を受けて以来、心の奥に隠されていた、城東区の精気あふれる市井の記憶が、無意識の堰を突破して、外に噴き出したのだろう。その有様を目のあたりにした直

          【奇譚】赤の連還 13 赤いターバン

          【奇譚】白の連還 第6話 白い記憶

          白の連還 第6話 白い記憶  JR芦屋駅を濱川におりてしばらく南下したところに、近隣では由緒あるとみなが知る古刹があった。父が逝ったとき、菩提寺は嵐山にあったが、葬儀一式の調達と参列客の足のことを考え、この寺に告別式執り行いの受けいれをたのんで承諾してもらった。また菩提の塔頭からは、臨済の導師と雲水を招いて経を読んでもらうことにした。  はたして、葬送の儀式は滞りなく終わったが、数日後、この古刹の住職から連絡があった。寺男が、鐘楼の脇に見慣れない頭陀袋が一つおいてあるのを見

          【奇譚】白の連還 第6話 白い記憶

          【奇譚】赤の連還 12 赤い殺意

          赤の連還 12 赤い殺意  そうなんだ、アルジェ到着の日、あの、シディ・フレッジの海をながめながら、アイツは、団長は、ずっと沖の、向こうの、エーゲ海の島々で、たったいま、アキレウスとか、ギリシャ連合軍とか、ヘレナとか、トロイアとか、ホメロスの謳いあげる数々の戦を率いる勇者どもが、血しぶきで朱に染まった総身を投げ出し、戦ってるんだとおもうと、ワクワク、ゾクゾクする、たまらない、などと、嬉々とした様子で、はなしたのだ。  変わったヤツだ…オレは、少々、苛立った。目の前にあるの

          【奇譚】赤の連還 12 赤い殺意

          【奇譚】白の連還 第5話 白い蛇

           年明けて一月五日、白馬村の地元紙が、二面下段の山岳情報欄で、次のように伝えた。          白の連還 第5話 白い蛇 「一月四日、午後五時ごろ、白馬山麓にある民宿小谷の里に、愛媛県在住の妻から、下山したはずの夫から連絡がないので、遭難したのではないかと心配している、捜索願いはどこへ出せばよいか、との問い合わせがあった。同民宿には、似たような問い合わせが全国各地からすでに五件きており、おかしいとおもった経営者が、長野県警大町警察著に届け出たという。連絡を受け、同署は

          【奇譚】白の連還 第5話 白い蛇

          【奇譚】赤の連還 11 赤い花弁

          赤の連還 11 赤い花弁  …そういえば、他に、いろいろ変わったところのあるひとだった。サハラ現場への出発の日、まさか、移動の当日まで、部屋からいなくなることはないだろう、そう思って、打合せ通り、週末の早朝、エル・マナールに迎えに行った。  出発の三十分前にホテルに着いたが、幸い、一行三人は、すでにフロント前で待っていた。営業と技術は、作業服に身を固め、ヘルメットを小脇に抱えてトランクに腰掛けている。いつでも現場にいけるぞ、というスタイルだ。足元を見ると、編みあげの安全靴ま

          【奇譚】赤の連還 11 赤い花弁

          【奇譚】赤の連還 10 赤いバスタオル

          赤の連還 10 赤いバスタオル  ホッシンの知略で、急場をしのいだ三人だったが、元の鞘に収まったわけではなかった。  オレは、即、レイラを首にした。小女に感じる愛おしさに変わりはなかったが、裏切られた怨念の裏側に、それを封印した。小女は、だから、オレを裏切っただけの存在として、記憶野に残すことにした。  その兄のホッシンも、オレを裏切っただけの少女の、単なる親戚の一人だった。記憶に値する存在ではない。したがって、オレの記憶からは、機械的に排除した。  こうしてオレは、きれい

          【奇譚】赤の連還 10 赤いバスタオル

          【奇譚】赤の連還 9 赤い貫頭衣

          赤の連還 9 赤い貫頭衣  また雨期が近づいた。レイラがきてから四度目の雨期だった。  オレから大金をうけとり、胴に巻きつけて持ち帰った日から、レイラは一度も姿をみせなかった。あの次の日に手術を受け、二、三日大事をふんで休養したとしても、一週間もすれば元気になるはずなのに、もう十日もたった。だが、いまだに姿をみせないばかりか、なんの連絡もよこさない。 「いったい、どうしたというのだ」  あの日、銀行の帰りに、スークでレイラに服を買った。カビリーの山岳民族が着る、伝統的な

          【奇譚】赤の連還 9 赤い貫頭衣

          【奇譚】白の連還 第4話 白い男

           その年の冬は大荒れに荒れた。正月寒波を迎え豪雪下にある白馬山系の、標高一八〇〇メートルの分岐点にある避難小屋に、表層雪崩をかいくぐって辿りついた大勢の登山家が、偶然、閉じ込められることになった。   さきの見えない逗留生活は人を不安にさせる。過度のストレスを心配した医師が、毎晩、ひとりづつ、話をすることを提案した。 前夜の話をおえた助監督が、その夜の語り部として、左脚に添え木をした若い商社マンを指名した。  かれは、観念でもしていたのか、すぐ両手で上体を起こすと、折れ

          【奇譚】白の連還 第4話 白い男