「家族になろうよ」アナウンサーが取材した、保護犬・保護猫の命をつなぐ人たち
みなさんこんにちは!アナウンサーの瀬田宙大です。
6年前から、糸井重里さんと馬場典子さんと一緒に「家族になろうよ ~犬と猫と私たちの未来~」という番組の司会を担当しています。この番組は、飼い主のいない保護犬や保護猫を紹介し、新しい飼い主=家族との出会いをお手伝いするものです。
回を重ねるうち、私にはある思いが募っていきました。
それは、自分の足で保護犬・保護猫についてのリアルな声を聞きに行きたいということ。
保護に取り組む人たちや犬や猫を引き取った人たちの生の声から、番組をより多くの人に届けるヒントが見つかるかもしれないと考えたからです。
「家族になろうよ~犬と猫と私たちの未来~」とは?
みなさんは「家族になろうよ」という番組をご存じでしょうか。
とーーーってもシンプルに説明しますと、全国の団体で保護されている犬や猫を可能な限り丁寧に、たくさん、ありのまま紹介する番組です。
私たちが最も心がけているのは、わんちゃん・ねこちゃんファースト!
環境の変化に敏感な猫は、保護団体の施設などから紹介。
ビデオ通話をつなぎ、保護している人にチャームポイントや性格、飼う上での注意点などを伝えてもらいます。
一方、保護犬は獣医師が体調確認を行ったうえで、スタジオでご紹介しています。
番組の一番の特徴は、生放送であること。
そのため、いろいろなことが起きます。ご機嫌ななめで姿を現さない猫や、スヤスヤと眠る犬もちらほら。
でも、それでいいし、それがいいんです。テレビ向けに作られた姿ではなく、ありのまま、各家庭にいるときのような自然な姿をご紹介できるので!
とはいえ、それでは紹介ができないのでホームページを充実させています。すべての犬や猫の写真やチャームポイント、保護している団体名などを掲載しています。
番組MCは、愛犬家で保護活動にも詳しい糸井重里さん。
そして、スタジオに集まった保護犬のチャームポイントや、飼ううえでの注意点などを伝える “わんちゃんリポーター”は、馬場典子さんが担っています。
(「家族になろうよ」第1~8弾の詳細はこちらをご覧ください!)
この5年あまりの放送で紹介した保護犬・保護猫はおよそ380匹。
このうち300匹あまりの犬や猫に、新しい飼い主が見つかっています。(2024年2月16日現在)
こうして番組を担当していますが、もともと私は保護犬・保護猫について無知でした。そのまま接点を持つことなく過ごしていたら、ともすると「人に懐きにくいのではないか」「引き取り手のいないかわいそうな犬や猫」などといった考えで止まっていたかもしれません。
それが変わったのが2015年、犬を飼い始めたことでした。
自然と保護犬や保護猫の情報に関心を持つようになり、保護に取り組む人たちや保護犬を引き取った人たちと話す機会も増えていきました。
そして、保護犬や保護猫のことを知れば知るほどモヤモヤや違和感は膨らんでいきました。
もちろん、飼い主の入院や死別などやむをえない理由で飼えなくなってしまった場合もあると思いますが、中には、無責任なケースがあるためです。
そんなときでした。
「あさイチ」リポーター時代に一緒に働いていたプロデューサーやディレクターが中心となり「家族になろうよ」を立ち上げたのです。
私の問題意識を知っていたかどうかはわかりませんが、少なくとも犬を大切に思い、一緒に家族として暮らしていることなどが司会担当につながったのではないかなと考えています。
以来、気がつけばほぼすべての放送回に携わっていることから、番組への思い入れはひとしおです。
回を重ねるにつれ、私は「もっと実情を知りたい」という思いがおさえられなくなりました。
これまで番組を進行しながら、私がもし、保護犬や保護猫を取り巻く状況や、保護された犬や猫を引き取ったご家族の思いをもっとたくさん聞くことができていれば、番組をご覧のみなさんにお伝えできる情報や思いがもっとあったのではないかと感じたからです。
そこで、ご理解くださった2つの場所を取材しました。
“家族になる”と決めた理由と壁
まず最初に知りたかったのは、犬や猫を受け入れた家族の気持ちです。
飼うことを決めるうえで、なにを第一に考えたのか、どんな不安があり、どう解決したのか。
そんな私の疑問に答えてくださったのは、早坂さんご一家です。
早坂さんが家族に迎えたのは、2021年の「家族になろうよ」で紹介されたオスの「ごま大福」。
飼育放棄されていたところを、NPO法人日本動物生命尊重の会A.L.I.Sが保護し、ホームページで新しい飼い主を募集していました。A.L.I.Sは、引き取り手がなかなか見つからず、殺処分の対象になりやすい雑種の成犬を多く保護している団体です。
早坂さんが保護犬を迎える上で、最も重視していたのが自分たちのライフスタイルと犬が合うかどうかという点です。ズレがあるとお互いに不幸になると考えていたからです。
その点、「ごま大福はわが家にピッタリ!」と強く感じる情報がホームページの紹介文に書かれていました。
「自然が好きで、アウトドアを一緒に楽しんでくれる家族を希望する」というものです。
実は、早坂さん一家もキャンプや登山によく出かけるなどアウトドア好きだったのです。
また、英之さんは、犬を飼うことが2人の娘の心の成長に繋がってほしいと考えていました。当時、子どもたちは小学2年生と小学5年生。犬と良い関係を築き、一緒に生活する時間も長く取れるので、ぴったりなタイミングだったといいます。
長女の沙也葉さんは「話題の中心がごま大福になりました。親子だけではなく、ごま大福の家族という対等の関係も生まれたと思います」と、この1年半ほどの変化を教えてくれました。
しかし、不安がなかったわけではありませんでした。
ごま大福は家の中ではおとなしく、おだやかに過ごす一方で、散歩中に人や犬に興味を示し、はしゃいで近づこうとする習性がありました。
体重18kgと力も強く、飼う際には、リードコントロールが重要なポイントでした。
妻のいづみさんは子育てをしながら犬の面倒までみられるのかや、犬を飼ったことがない自分が、力の強い犬をリードでコントロールできるのかなど心配があったと振り返ります。
ただ、自分以外は飼うことに前向きだったことや、面会で触れ合ったごま大福があまりにかわいかったことから、保護団体やドッグトレーナーに犬とのつきあい方を教えてもらうことにしました。
その結果、困ったら相談できるという安心感が芽生えていったといいます。
いづみさんは、ペットショップやブリーダーから犬を迎えたことがないため、単純な比較はできないとしながらも、
「保護団体のスタッフさんが、それぞれの犬を日頃からすごくよく見てらっしゃって、性格や特徴を丁寧に教えてくれました。また、ごま大福と家族になった後も話しやすく、預かりボランティアの方々も含めて、頼る先が最初から複数あると感じられたことが、初めて犬を飼う私にとってはとても良かったと思います」と話していました。
一方、最初に「ごま大福をわが家に迎えたい」と言い出した英之さん。
保護活動への関心は日々高まっていて、テレビなどで「保護犬」というキーワードが聞こえると前のめりで見てしまうそうです。
これからも家族で思い出を増やしながら、いずれは「預かりボランティア」など、自分たちにもできることに取り組んでみたいと考えています。
今回、早坂さんご家族に取材したことで、紹介している犬や猫の性格や、どんなライフスタイルの方に向いているのかという情報を、より丁寧にお伝えする重要性を感じました。
また、保護団体は犬や猫だけではなく、引き取りを希望する家族の幸せな未来も願い、飼い主の不安に寄りそってくれることも折に触れて紹介したいと感じました。
大福餅に似ていることから、保護団体のスタッフに付けられた“ごま大福”という名前。
その名前を早坂さんが変えなかった背景には、「これまで、ごま大福に関わってくれた人たちの思いも一緒に引き継いでいきたい」という思いが働いていたんだろうな~と、ひとりホクホクした気持ちで帰路につきました。
命をつなぐ人たち
もうひとつ取材に向かったのは、札幌市で開かれた合同譲渡会です。会場は、市の動物愛護管理センター「あいまる さっぽろ」。
この施設では、飼い主の入院や死別などやむをえない理由で飼えなくなった犬と猫を引き取って保護し、新たな飼い主が見つかるまでの飼育や譲渡などを行います。人も動物も幸せに暮らすことができる地域を実現するために新たに造られました。
施設には、譲渡の件数を増やそうと、健康管理に力を入れ、レントゲン室や運動スペースなどがあります。殺処分の設備はありません。
ここを訪れた1月20日、施設で保護している80匹あまりの猫と、北海道長沼町を拠点に活動する認定NPO法人「HOKKAIDOしっぽの会」の19匹の猫の合同譲渡会が行われました。
しっぽの会は20年近く保護活動を行っており、第1弾と第8弾の「家族になろうよ」にも参加しています。
しっぽの会では、飼い主のいない猫を増やさないようにするために、2010年「飼い主のいない猫基金」を創設。去勢・不妊手術の費用を一部助成するなど、保護活動をする人たちを支援することで殺処分を減らそうと取り組んできました。この日は、その基金を活用した猫が参加していました。
訪れた多くの人がじっくり、1時間以上にわたり譲渡会場に滞在。
来場者のみなさんにお話を伺うと、「保護している方たちの愛情がよく伝わってきた」という感想が多く聞こえてきました。
譲渡会場のうち、しっぽの会の猫のケージの様子を少しご紹介しましょう。
カラフルでわかりやすい紹介文に、おしゃれな首輪が印象的です。さらに見てみましょう。
それぞれの猫を保護しているみなさんは、
「いまは緊張しているが、ふだんはソファーやベッドで寝ていることが多い」など、書かれていない情報を来場者に伝えていました。
会場でお話を伺っていると、姉妹で保護活動をしているという葛西由美子さんと温子さんに出会いました。
保護主になって6年あまり。これまでに保護や譲渡に関わった猫はのべ60匹おり、現在も12匹を保護しています。
ふたりは、「“譲渡して終わりではない関係”を新しい飼い主と築いていきたい」と言います。
そこで行っているのが、みずからが保護・譲渡した猫に限り、新しい飼い主が長期間の出張や旅行でやむなく家を空ける際は、猫を無償で預かること。
その理由について姉の由美子さんは
「猫は環境の変化にストレスを感じやすいため、もともと保護していた私たちの家で一時的に預かる方が、猫も飼い主のみなさんも安心してもらえるかなと思って始めました」と話し、
妹の温子さんは「正直、私たちも久しぶりに会えてうれしいんですよね。みんな幸せそうで」と笑顔を見せていました。
もう二度と不幸にはさせない
4時間行われた今回の譲渡会。その場で申し込みがあったのは1件でした。
しっぽの会の代表を務める上杉由希子さんは
「数よりも、幸せに“生”を全うできるようにすることが重要」と強調します。
「私たちの団体は、譲渡条件をかなり厳しく設定しています。安易な譲渡は人間も犬も猫も不幸になりかねません。飼いきれないほど増えてしまったことによって起きる多頭飼育崩壊や、病気を放置されてしまうなど飼育放棄されたケース。ゴミ置き場に捨てられていたという例もあります。
それでも、多くの人が関わり、救われ、つないできた命です。二度と不幸になるようなことはあってはならないんです。それを防ぐためにも、家庭訪問などを行い、責任を持って引き受けてくださる方にだけお譲りするしかないんです」
保護団体からの譲渡を希望する際、人によっては“厳しい”“細かい”と感じるかもしれませんが、それは保護している命を大切に思っていることの裏返しです。「二度と不幸にしたくない」という強い思いが根底にあると、改めて取材で感じました。
環境省が公表している犬や猫の殺処分数は減少傾向にあります。
番組初回、2018年の放送で紹介した殺処分数は55,998匹(平成28年度)でしたが、最新のデータでは11,906匹(令和4年度)と、過去最も少なくなっています。
その背景には、取材した団体をはじめ、保護に取り組む人たちの懸命な努力や啓発活動があることを、丁寧に、何度も番組の中で言葉にしていかなければならないと強く思いました。
MC糸井重里さんと馬場典子さんの思い
みなさんの思いに触れたことで、番組開始当初からMCを担当する糸井重里さんや馬場典子さんにも、どんな“思い”で番組に関わっているのか改めて聞いてみたくなりました。
まずお話を伺ったのは、馬場典子さん。
毎回、やさしく寄りそうような語りで保護犬の性格や特徴を紹介しています。ほとんどメモを見ることなく、スッと名前と情報が出てくるプロの仕事に驚かされます。
そのことをご本人に伝えると
「番組を制作するみなさんも団体のみなさんも、お話しをすればするほど、かわいいだけではない、ありのままの姿を伝えることに重きをおいていることが伝わってきます。私はそれを代弁しているだけです。それに、自然とそれぞれのわんちゃんが導いてくれるんです」と話していました。
馬場さんはいつも気がつくとスタジオ入りしています。向かう先はバックヤードにある保護犬の待機スペースです。取材をしながら、それぞれの犬とのコミュニケーションをとっています。
どんな性格なのか。どんな飼い主と暮らすと幸せになれるのか。病気や障害はあるのかなど、特徴や知っておいてほしいことなどを保護団体のみなさんから聞き取っています。
こうして知った、それぞれの犬の「個性」。
仮に通院や投薬などのケアが必要であっても、前向きに伝えるようにしているといいます。
その理由を尋ねると、
「保護している団体のみなさんや新しい家族として引き取る人への誠意であり、犬への愛情表現、尊厳を守ることでもあると考えているんです。犬も飼い主も保護団体のみなさんも、みんなが安心して新しい生活が始まることを願ってのことです」と話していました。
いつも馬場さんは犬と仲良くなります。
本人は「犬に好かれやすいので~」と謙遜しますが、「幸せになろうね」と願う心が犬にも伝わっているからこそ自然と距離が近くなり、あの空気、あの言葉が生まれるんだろうなと改めて感じました。
つづいて、糸井重里さんのもとへ。
糸井さんは、犬や猫にとっての暮らしが良くなることは、人間の社会も豊かになること、という考えのもと活動されています。
犬猫仲間をつくるほか、迷い犬や猫の捜索に役立つアプリの企画・監修、保護活動の応援などを行っています。
糸井さんは、番組開始からの5年あまりを振り返って、
「最近、ムードが変わってきたよね」と話します。
「よく出かける料理店で自然と保護犬や保護団体の話になったり、悲惨さを強調した保護犬や保護猫の紹介が減ってきていたり、ポジティブなアプローチが増えたように感じる。僕たちの番組も、ポジティブとかネガティブに寄らないで落ち着いて見ていられる番組だから、そのお手伝いをできればと。札幌から放送した前回の、譲渡会からの中継なんてまるで『行楽地』だったもんね。あの様子を見せられたのは、その変化の“論より証拠”にすごくなってる」
この話を聞きながら、「そういうことか!」と頭がクリアになりました。
保護の現状を伝えることは確かに必要ですが、「かわいそう」という印象が過剰に伝わってしまうと、バイアスのかかった、誤った認識を広げることになります。
それが最近減ったこと自体が、社会の大きな変化であると。
確かにそうですね!
こうした社会の変化や、少しずつ前に進んでいるポイントを放送で言語化してくれるのが、糸井さんがこの番組に欠かせないMCであるゆえんなんですよね。
こうして糸井さんとゆっくり「家族になろうよ」について話をしながら、私たちの番組の立ち位置が改めて明確になってきました。
毎回、3~4つの保護団体のみなさんが保護犬を連れてスタジオに集まります。
糸井さんは、その人たちに「応援してますよ、っていうのが伝わるといいな」と思っているのだそうです。
「保護活動に取り組む人たちがいるからこそ、救われている命があるんだよね。番組を見ている人も『自分の代わりにやってもらっている』と感じている人がいるんじゃないかな」と、出演を続けるひとつの理由を教えてくれました。
今回取材していたとき、番組に対してこんな声をいただきました。しっぽの会の上杉さんからは「大げさにではなく、真摯に、ありのまま保護活動や保護犬・保護猫のことを伝え続けている点がいいし、励まされています」と言っていただきました。
また、保護犬を家族に迎えた早坂さんからは「みなさんの番組も広い意味で“保護活動”なのかもしれませんね」と声をかけていただきました。
こうした声を踏まえ、馬場さんや糸井さんと改めてお話ししたことで、私たちの番組は、保護に取り組む人たちの土台をちょっと下支えする応援番組でもあるんだなと再確認する時間になりました。
番組が必要ない社会へ
今回、取材を通じて出演者一同、同じことを考えていることがわかりました。それは、「この番組が必要ない社会」を期待しているということです。
もちろんこの番組を通じて、あたたかい気持ちを抱いたり、癒やされたり、時には葛藤を共有したりすることで、全国のみなさんとつながる大切な時間だということは言うまでもありません。
一方で、それぞれができることを積み重ねていった先に、犬と猫と私たちの“新しい未来”があるとも考えています。
そんな熱い思いを、番組に関わる全員が心に灯していることも、この取材を通じて知ることができました。
とはいえ、現時点では、「家族になろうよ」がやるべきことはまだまだあります。
社会の変化が見えるようになるまでは、私も司会者という役割を最大限に発揮できるよう、これからも取材を続けていきたいと思っています。みなさんのもとにお邪魔した際には、その時々に抱えているリアルをぜひ教えてください。
NHKアナウンサー 瀬田宙大