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新宿駅南口

最近、意図的に何もしないということをよくしている。やろうと思ってできることじゃないんだけど、サークルの運営を終えてしばらく経った今、そういう時間と余裕ができた。端的に言えば暇だってことだ。予定をぎっしりと詰めてしまいがちな私にとってはこれが新鮮なことで、"大学生のうちに色んな状況を経験してみようキャンペーン"の一環として意識して行っている節がある。暇だから何でもできる大学生活とか言って、これまであれもこれもやりすぎていた。やらなきゃいけないという強迫観念にとらわれていたし、何かしらの用事で忙しくしているだけで自分自身が保たれていた。自分は必要とされている存在だと感じることができていた。確かに、バイトもサークルも飲み会も留学も大学生のうちにしかできないことかもしれないけど、本当に今しかできないことって、こうして暇を謳歌することなのかな、なんて思う。  

今日も夜まで特に用事がなかったので、特に目覚ましもかけずに10時頃起き上がった。シャワーを浴びて、昨日の夕飯の残りのカレーを食べた。午後7時46分、ここは新宿。雨に濡れた街は輝いてどこか綺麗だ。この街に詰まった高校時代の感情で少し胸が苦しくなるけれど、新しいビル、新しい風景が今日も世界を更新している。  

ギターを弾きながら歌う女の子と、4人のお客さん。ギターを背負った女の子が通りかかり、足を止める。それに気付いたシンガーが微笑む。少し先を歩くと、また別の女の子がライブを始めるタイミングを伺ってスマホをいじっている。そのまた隣、一番端で歌う女の子にはまだお客さんがいない。彼女たちの歌はいつかもっと羽ばたくことができるだろうか。少し涙が出そうになるのを抑えて、私は通り過ぎた。  

拗ねる男に、なだめる女。キャッチのお兄さんと、仕事帰りのサラリーマン達。この街の一部としての自分は、クローゼットの端に追いやられたTシャツみたいに情けないけど、なんだか心地がよかったりもするんだ。明日どうなるかすら分からないけどとにかく頑張る、って君は笑いながら言ってた。その綺麗な心に飲み込まれそうな私は、幸せな新宿の記憶を今日更新した。

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