デジタル製品パスポート(DPP)という欧州の世界戦略とNEXCHAIN
NEXCHAIN理事長の市川芳明です。
国際標準化の動向から、今後は日本でも対応が必要となるデジタル製品パスポート(DPP)について解説したいと思います。
欧州の新たな製品政策としてのDPP (Digital Product Passport)
製品政策(Product Policy)とは,欧州産業の国際競争力を高めるための政策のことを言います。欧州の経済産業省ともいえるDG GROW(成長総局)がDG ENV(環境総局)と共同で,欧州製品の市場競争力強化のための政策(法律改正や新設)を続々と仕掛けてきています。2020年にフォン・デア・ライエン新欧州委員長が率いる新しい欧州委員会が設立されてから,この動きが急激に活発化しています。
この新政策には二つの際立った特徴があります。一つはサステナビリティを前面に打ち出していることです。あからさまに欧州市場の公平性を失うような政策は各国から当然非難を受ける可能性が高いのですが,サステナビリティのため,つまりは大義名分のためとなると,これまでもWTOの提訴をことごとく免れてきました。
二つ目は,デジタル製品パスポート(DPP: Digital Product Passport)です。DPPは原則としてあらゆる製品を対象とし,EU域外を含むサプライチェーンに沿ったすべての生産・流通・加工拠点に関する詳細な一連の環境負荷情報や資源循環性に関わる情報を収納したデータパッケージのことです(図1参照)。
こうした情報を製品に取り付けた二次元バーコードやICチップで読み出せるようにすることと,CEマーキング(欧州市場で製品を販売するための必須のマーク。日本のJISマークのようなもの)がリンクすることを義務付けたのです。なぜ欧州域外の情報まで範囲に含まれるのかというと,欧州域内で販売される製品には,その源流にさかのぼって,鋼材採掘から域外でのサプライチェーン全体に欧州として責任があるという前提に立っているからです。特に製造プロセスにおける温室効果ガスの排出は国境を問いませんから,理屈は通っています。しかし,一方で,こういったライフサイクル問題を対象とすることは,輸入品と域内生産品の差別化のためにも,そして域内の法律が域外にまで影響力を及ぼすためにも,きわめて有効な戦略といえるでしょう。あくまで法的な義務が課されるのは欧州市場であっても,その評価範囲は日本や中国の製造拠点にまで及ぶという仕組みです。いち早く欧州企業が(中小企業を含めて)適応し,市場競争力を得るとともに,国際展開によりいずれは海外市場において優位化できる。もちろん欧州政府による域内企業への技術的支援策も同時に提供されています。また,欧州が強い標準化の分野(欧州標準化機関,国際標準化機構,国際電気標準会議,国際電気通信連合)でもDPPの標準化を活発に仕掛けています(図2参照)。
日本企業に求められる対策
図1に示した欧州側のGAIA-XやCATENA-Xは欧州政府や業界団体が欧州企業を支援する仕組みとして構築しつつあるシステムの一例です。欧州企業はこのような仕組みを活用してサプライチェーンで情報を伝達する準備を着々と進めています。当然,欧州企業はこの動きを活用して自社の市場優位性を確保すべく動いているはずです。欧州のサプライチェーンの一部である多くの日本企業もいまから急ピッチで準備を進めなければなりません。そのためには,まず自社のサプライチェーンに沿って,セキュアで改ざんが防止され,トレーサビリティが確保される方法でいかに低コストで情報連携するのか,その対応策をまず計画する必要があるでしょう。個々の企業や限られた業界団体でこのようなシステムを独自に構築することは合理的な解決策とは思えません。重複もあり,不整合も発生するからです。
そこでNEXCHAINの活用をお勧めします。業界横断的にどの企業も気軽にこのような情報伝達を実践に移すことができる中立的な団体はNEXCHAINのみではないかと思うからです。すでにサステナビリティに関する企業間の情報連携を検討する小委員会も開始しました。ぜひ多くの企業様にご参画をいただければと思います。
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