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例えばある朝いつものように

1.

「少しだけ昔の話になる」
そう僕は僕に言っていたら6月が言った
「そろそろ次のページを
歩き始める頃なんじゃないかい」
そんなふうにして僕の右手は夏の入り口に触れた


君はいつもよくわからない文字の
書かれた服やスリッパなんかを買う
よくある、どこにでもありそうな
いわゆるなんとなくオシャレに見える
そういうやつを

それが玄関に無造作に置かれている
朝は早いからきちんと並べることができないのだ
その横に燃えるゴミの袋が置いてある
「捨てて欲しいってことだよな」
そうわかるように置いてくれてある
優しい人なんだ

「こんにちは」
僕は下の階のおばさんに挨拶をした
おばさんとは目があったが声は帰ってこない
階段を降りきった時にふっと思った
「声がでていない」
とりあえずまずはゴミを捨てることが頭の中の
ほとんどを占めていた
そいつは自動的に1.2.3という手順を踏んで
決まりきった場所に収まった
ここにいられるのもあと少しだな
打ち捨てられた1969年のラブレター
それが転がる浜辺のような静けさがきた
同じところには誰も止まれはしない

その日は午後からの仕事だったので
少し早めにでて、カフェテラスで
コーヒーでも飲もうと思っていた
なればいいかなぐらいの気持ちの時は大抵うまくいく
その逆はまあ1勝3敗ぐらい悪くないが
少しかなしくなる

街はいろいろな人がまるで
餌を探す鳩のように歩いていた
典型的な月曜日の昼下がりという感じがして
僕は思わず口ずさんでみた
「少し間延びしたアフタヌーンティー
しかし素敵な夕暮れの前触れ」
電車の発車のベルがちょうど1番のサビの前できた
ちょうどいいタイミングとちょうどいいタイミングが
仕方ないに変わる前に僕は乗り込んだ
あとは少し揺れようか
それがサビの言葉にはふさわしい気がした

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