「異常気象と農業問題」ならびに「西武・そごうのM&A問題」の本質とは何か
9月に入っても暑い日々が続きそうですね。
今夏、日本の平均気温は、
過去126年の気象統計史上で、過去最高だそうです。
さらには、大火事、大型台風など世界各地で異常気象に起因した様々な災害が起こっています。
世界中の人々が真剣に「CO2排出を抑えなければならない」という意識が高まる中で、9月1日、2日の注目したのは、食料専門家による代替肉摂取を訴える記事でした。
「畜産業は世界の温暖化ガス排出量の最大20%を占めている。
世界資源研究所(WRI)によると、食用の鶏肉1カロリーを生産するためには、ニワトリ1羽に9カロリーの大豆やその他の農作物を与えなければならない。
この非効率さは二重の問題を含む。
アジアでは家畜に与えられる大豆のかなりの部分がブラジルやアルゼンチン、パラグアイから輸入される。
日本や中国、韓国など100カ国以上が、今後7年間で停止すると公約した森林破壊に拍車をかけている。
(中略)
1.5度の目標を達成するためにアジア諸国が代替タンパク質をどれほど多様化しなければならないかを計算した。
アジアのタンパク質システムの脱炭素化には遅くとも2030年までに畜産をピークから減らし、同時に植物や微生物、動物の培養細胞から作られる肉や乳製品、卵などの代替タンパク質の開発を加速させる必要があると結論づけた。代替タンパク質は60年までに全タンパク質の生産量の半分以上を占める必要がある。」
はたして、80億人を超えた世界人口が2060年には100億人を突破する人々の食料をいかに確保すればよいのか。
さらに、農業従事者の高齢化が進み、滋賀県の面積に相当する耕作放棄地を抱えて、いかに新しい農業の仕組み・担い手づくりを創ればよいのか。
まったなしの農業政策、新食品ビジネスを打ち出す必要が迫られていますね。
もう一つ、
西武・そごうのM&Aについて、日経新聞は、念入りに取り上げています。
大きな問題点は、西武・そごうの組合員、豊島区、西武鉄道、テナント進出するルイ・ヴィトンから、何よりも消費者などステークホルダーからみると、セブン&アイの旧経営陣に引き続き、経営権譲渡先の米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループの新経営陣がいかに事業改革していくのか、コンセプトが見えてこないことです。
過去にも「セブン&アイの鈴木敏文会長は総合生活企業へ転身を狙ったが、結果的に成果が見えないM&A(合併・買収)だった。
そごう・西武幹部は
「どんなメリットがあるのかさっぱり分からなかった」と振り返る。」の
記事が目立ちました。
カリスマ経営者の鈴木敏文氏にして、どんな新しいデパートにしたいのか、明確に打ち出せませんでした。今回も聞こえてきませんね。
フォートレスのパートナーであるヨドバシが「1階と地下1階の売り場はほしかったが、メインは百貨店に譲った」などと、敷地のレイアウトを気にしている声しか聞こえてこないのでは、お客様は見向きしてくれなくなるのでは、不安ですね。
秋葉原のヨドバシの経営が良好なのは、商品・サービスありきではなく、「何でも揃う電気街・サブカルチャーの聖地」である秋葉原の街のコンセプトに順応しているからではないでしょうか。
1969年にオープンした池袋西武・パルコは、
「訪れる人々を楽しませ、テナントを成功に導く、先見的、独創的、かつホスピタリティあふれる商業空間の創造」をぶち上げて、いままでの池袋のイメージを一新して“池袋の顔”になり、三越、伊勢丹、高島屋を抜いて売上日本一になりました。
今回も、コンセプトの違いがビジネスの将来性を左右することになりそうですね。
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【食品・農業】
Asiaを読むアジア、温暖化対策に代替肉摂取グッドフード研究所 ライアン・ヒューリング氏
2023/9/2付 日本経済新聞 朝刊
アジア諸国がより持続可能なエネルギー生産と輸送に移行できたとしても、特に危険な排出源である食肉の生産方法に取り組まない限り、多くの国は自国の気候変動目標を達成できないだろう。
<引用>
食肉が生態系に大きな影響を及ぼすことはすでに知られている。
畜産業は世界の温暖化ガス排出量の最大20%を占めている。
世界資源研究所(WRI)によると、食用の鶏肉1カロリーを生産するためには、ニワトリ1羽に9カロリーの大豆やその他の農作物を与えなければならない。
この非効率さは二重の問題を含む。
アジアでは家畜に与えられる大豆のかなりの部分がブラジルやアルゼンチン、パラグアイから輸入される。
日本や中国、韓国など100カ国以上が、今後7年間で停止すると公約した
森林破壊に拍車をかけている。
シンガポールを拠点に機関投資家と地場企業との間で持続可能な開発について対話を促すコンサルティング会社、アジア・リサーチ・アンド・エンゲージメント(ARE)は、1.5度の目標を達成するためにアジア諸国が代替タンパク質をどれほど多様化しなければならないかを計算した。
AREは、アジアのタンパク質システムの脱炭素化には遅くとも
2030年までに畜産をピークから減らし、同時に植物や微生物、動物の培養細胞から作られる肉や乳製品、卵などの代替タンパク質の開発を加速させる必要があると結論づけた。
代替タンパク質は60年までに全タンパク質の生産量の半分以上を占める必要がある。
具体的な移行速度は国によって異なる。
例えば
韓国は脱炭素化の目標達成には25年にも畜産と森林破壊の拡大を止めなくてはならない。インドネシアやインド、パキスタンのような新興国は人口が急増しているため、60年までに総タンパク質のそれぞれ60%、85%、90%を
非動物由来にしなければいけない。
中国も世界最大の食肉市場であることから大仕事が必要だ。
60年までに中国で消費される全タンパク質の25%が植物由来になり、さらに25%が発酵由来のタンパク質や動物細胞から直接培養した肉になれば、中国は排出目標の達成に大きく近づく。
他の国でも同様の組み合わせが必要となり、発展途上国では植物由来の食品が比較的大きな割合を占めるようになる。
AREの分析によると、中国が気候変動目標の達成に向けタンパク質の供給手法を変えるためには、20~60年の間に約7300億ドル(約106兆円)の設備投資が欠かせない。
中国政府は今年の年次農業政策声明で、「植物、動物、微生物の開発を含む多様な食料供給システム」の構築を呼びかけている。
インドネシアやベトナム、マレーシアなど、食肉消費量が増加傾向にある国でも大規模な投資が必要になるだろう。
気候変動に関連したあらゆる事柄と同様に、個々の国や地域、大陸が単独で世界の問題を解決することはできない。代替タンパク質を通してアジアの食料供給を改善させることは、地球温暖化を1.5度以内に抑えるための行程表のひとつだ。
関連英文はNikkei Asiaサイト(https://asia.nikkei.com)に。原文は8月16日付。
【流通小売】ヨドバシ、そごう・西武主要3店に出店 都心需要に的
労使しこり、再建に影 高級ブランドが難色
2023/9/1付 日本経済新聞 朝刊
1日付でそごう・西武を買収するフォートレス・インベストメント・グループと組み、ヨドバシは西武池袋本店とそごう千葉店の別館にあたる「ジュンヌ館」へ出店する計画だ。
西武渋谷店(東京・渋谷)への出店も検討する。
出店時期や規模は今後詰めるが、西武池袋本店では低層階の一部と中層階以上に家電売り場を設ける考えだ。
ヨドバシはそごう・西武の主要な売り場に入り、経営再建と自らの成長の両立を狙う。
ヨドバシは都市部の駅前立地を軸に全国で24店舗を展開する。
売上高規模でヤマダデンキやビックカメラに次ぐ3位に入る。
人口が減るなか、効率良く集客でき、インバウンド(訪日外国人客)を
見込める都市部での競争力強化が課題だった。
セブン&アイの誤算 ステークホルダー経営、高い壁
2023/9/1付 日本経済新聞 朝刊
<引用>
(中略)
アクティビスト(物言う株主)などの活発な動きは日本にも押し寄せる一方、世界的な人手不足の中で働き手の発言力は高まり摩擦が起きやすい。
ひとつの活路として新しい企業形態の制度を広げる必要もあるだろう。
取締役らが社会的責任や公益に積極的に取り組むよう明示する試みだ。
米国では導入州が広がる
「パブリック・ベネフィット・コーポレーション」がある。フランスでは「使命を果たす会社」という法的な仕組みが19年にスタートした。
今回のそごう・西武売却では、地域の顔としてターミナル駅施設の将来が焦点となった。百貨店に限らず、交通インフラや独自の技術力を持つ製造業など価値ある企業や従業員、技術は日本の各地にある。
例えば
従来の株式会社とは違うかたちで、従業員や地域の代表者らの声をもっと
経営に反映するステークホルダー経営の枠組みを模索する必要もあるだろう。今回のそごう・西武騒動から浮かび上がる学びのひとつだ。
(編集委員 鈴木哲也)
<社説>そごう・西武ストが投じたM&Aの課題
2023/9/2付 日本経済新聞 朝刊
<全文掲載>
そごう・西武の労働組合が西武池袋本店(東京・豊島)でストライキを決行した。親会社のセブン&アイ・ホールディングスは1日、労使の対立が続く状況のまま、そごう・西武の売却に踏み切るなど異例の展開となった。
雇用維持と事業継続に関する労使の話し合いが不調に終わり、買い物を楽しむ消費者や取引先を巻き込む残念な結果になった。M&A(合併・買収)を巡り、株主以外のステークホルダー(利害関係者)に対し、これまで以上に丁寧な説明責任を果たすことが欠かせないことを示したといえる。
セブンはコンビニエンスストア事業へ投資を集中するため、2022年11月に米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループにそごう・西武を売却することで合意した。23年2月完了の予定だったが、元社員らの訴訟が相次ぎ延期を繰り返していた。
セブンがそごう・西武を買収したのは06年。
消費者が利用しやすいグループを目指したのが理由だ。
しかしリストラが中心で成長させることはできなかった。
このためフォートレスと事業パートナーであるヨドバシホールディングスに任せた方が百貨店にとっても最善策と判断した。
今後の戦略を考えると売却は間違っていない。
しかしその後の反発は全く想定できていなかった。
地元の豊島区長や池袋本店の不動産の一部を保有する西武ホールディングスが街の多様性が失われることに懸念を示した。
百貨店事業は街の顔でもあり、住民にとっての価値は大きい。
事前の説明などが足りず、批判を高めてしまった。
社員への配慮も不足していた。
確かにそごう・西武は財務基盤が脆弱で、
セブンの信用力がこれまでの事業継続を可能にした。
しかし
百貨店市場が縮小し、旗艦店の池袋本店が縮むことへ社員は危機感を高め、スト決行の事態を招いた。
組合側も売却そのものに反対しているわけではない。早期に社員に丁寧な説明をしていれば、状況は違っていたかもしれない。
今後も小売業に限らずM&Aは増えるだろう。
日本企業が活力を高めるうえでM&Aは重要な経営の選択肢であり、経済全体の活性化にもつながる。
事業再編を円滑に進めるためには、人的資産やステークホルダーへの配慮が企業価値の向上に欠かせないことを改めて肝に銘じる必要がある。
そごう・西武のストを教訓にしたい。
そごう・西武、実質8500万円 セブン&アイ、売却で特損1331億円
2023/9/2付 日本経済新聞 朝刊
<引用>
譲渡契約ではそごう・西武の企業価値は約2200億円となった。
基本合意時から300億円程度引き下げた。そごう・西武は約3000億円の有利子負債を抱えており、セブン&アイは自らの貸付金のうち916億円を債権放棄した。残る約2000億円の負債を差し引き、運転資本の調整などの結果、株式価値は8500万円となった。
売却に伴う特損計上でセブン&アイの24年2月期の連結純利益は
前期比18%減の2300億円になる見通し。
1%増の2850億円と過去最高を見込んでいた従来予想を550億円引き下げた。
営業利益は4%増の5250億円、売上高にあたる営業収益は2%減の11兆5270億円とそれぞれ120億円、3730億円上方修正した。
フォートレス、初労使協議 池袋本店スト、増収を抑制
2023/9/2付 日本経済新聞 朝刊
<引用>
都内で開かれたそごう・西武の経営陣と労組による協議にフォートレス首脳が参加した。協議では株式譲渡に伴う経営体制の変更について説明があった。そごう・西武の今後の事業計画や懸案となっている雇用維持のテーマについては議論が及ばなかったもようだ。
そごう・西武労組の寺岡泰博中央執行委員長は
「(親会社がフォートレスに変わっても)可能な限り百貨店の仕事ができる環境での雇用維持を求める」考えを示している。
LVMH社長、「売り場変えず」 池袋撤退に否定的
2023/9/2付 日本経済新聞 朝刊
そごう・西武、看板頼みの代償 甘い見通し「ダブル再建」に幕 「新たな百貨店」へ生みの苦しみ
2023/9/2付 日本経済新聞 朝刊
<引用>
そごうと西武百貨店。
後発の百貨店を水島広雄氏、堤清二氏というカリスマ経営者が導いた点で共通するが、拡大経営で過剰負債に陥り、1990年代には経営再建モードに入った。そごうは2000年に民事再生法の適用を申請し、西武百も03年に私的整理となる。
この2社を統合し、
二段構えの「ダブル再建」を目指したのが22年に亡くなった和田繁明氏だ。
ミレニアムリテイリング(現そごう・西武)を03年に発足したが、デフレ経済など逆風が続くなか、信用力を高めるには後ろ盾が必要とセブン&アイへの売却を決める。
「日本の消費者は欧米に比べ所得差が小さい。百貨店のユーザーもコンビニに行くわけで、十分な相乗効果がある」。
当時、セブン&アイの鈴木敏文会長は総合生活企業へ転身を狙ったが、結果的に成果が見えないM&A(合併・買収)だった。そごう・西武幹部は「どんなメリットがあるのかさっぱり分からなかった」と振り返る。
(中略)
百貨店ビジネスは希少価値と先端性を持つ商品が武器で、ある意味で無駄な品ぞろえを維持できることが成長の条件になる。
リストラばかりの守りの経営では、そごう・西武を再建させるよりも、問題の先送りだったようにみえる。
最強の小売りグループといわれたセブン&アイの評判は落ち、そごう・西武の社員はやり場のない思いに打ちひしがれる。
お互いに重いツケだけが残ってしまった。優勝劣敗が進み、成長なき百貨店業界の厳しい現実でもある。
同時にバブル処理の後遺症を引きずり、停滞感から抜け出せない日本経済の姿に重なってみえる。
巨額の財政赤字を含め、改革の先送りはろくな結果をもたらさない。
そごう・西武は買収ファンドと連携するヨドバシカメラという新たな「経営者」を迎える格好だ。恐らく双方の関係は不信感から始まるだろう。
ただ、かつて西武百貨店は、時代を先取りするファッションや広告宣伝によって従来型の百貨店モデルを否定する存在でもあった。
今回のストや買収を、新世界に出発するための生みの苦しみととらえたいところだ。
(編集委員 中村直文)
以上
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