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私たちの生活をダイレクトに変える仕事、それが「行政」だ。公共と伴走するNEWPEACE thinktankの意義

ここ数年を振り返っても、このコロナ禍ほど「政治」に注目が集まったことは無かったのではないでしょうか。

国家間の方針や対策の違いに始まり、都道府県ごとに異なる施策、地方自治体の意思表明……私たちの生活と政治は切り離せないものであることを、否が応でも感じざるを得ませんでした。

そして、政治家の発言ひとつにもSNSが反応するなど、確実な変化が起きている領域でもあります。

2020年、NEWPEACEが新たに立ち上げたNEWPEACE thinktankは、まさにこれらの「公共」にアプローチするチームです。自治体、中央省庁、政治家、国際機関、財団などを対象に、クリエイティブとビジョニングを武器に、彼らと伴走しています。

2021年には富山県の経済振興策を話し合う「成長戦略会議」に参加し、ビジョン策定を行うなど、地方自治体とのタッグも強化し、さらに動きを加速させています。

ビジョン策定やコミュニケーション戦略の立案・実装、政策提言まで幅広く担当する増沢諒は、議員秘書などを務めた後に、NEWPEACEへジョイン。彼が思う「政治や行政」との関わり方、生活者のために変えるべきところなど、その考えを聞いてみました。

「地方自治から変えていくことがカギ」といった増沢の考えを通じて、コロナ渦ですこし身近になった政治のことが、さらに手触りのあるものへと変わっていけば幸いです。

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増沢 諒(ますざわ・りょう)
早稲田大学、東京工業大学 大学院修了。ネット選挙運動の解禁を目指す「ONE VOICE CAMPAIGN」を皮切りに政治の世界へ。 政治家秘書、選挙情報ポータルサイト「選挙ドットコム」を経てNEWPEACEにジョイン。自治体、中央省庁、政治家、国際機関等のビジョン策定/コミュニケーション戦略の立案・実装、政策提言などを行う。


「政治」だけではなく「行政」から社会を変えていく


──NEWPEACE thinktankの主な仕事を教えてください。

NEWPEACE thinktankは、ビジョニング・カンパニーであるNEWPEACEの中でも、パブリック・セクター(自治体、中央省庁、政治家、国際機関、財団、NPOなど)のビジョニングをお手伝いしているチームです。

(※)ビジョニングとは
ミッションやパーパスなど企業の“社会的意志”を体現したアクション。それらを一貫性を持って展開することでブランドは創られていく、という新たなブランディング手法。アクションとは、事業開発から組織変革、広告やPR/IRなど全ての企業活動を指しており、様々なイシューに立ち向かう中で自社の社会的意志を反映させることで、VUCA/SNS時代にブランドを形成していく。

ビジョニングによって社会を前進させることがNEWPEACEの仕事ですが、社会を変えるには公共や政治的文脈から関わらなければいけない部分も必ずあります。そこで、一般企業ではなく官公庁や政治・行政の領域でのビジョニングを担うのがNEWPEACE thinktankであり、僕の仕事です

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──「日本の政治をよくする」ことはいろんな人や団体が取り組んでいるようです。それらと、NEWPEACE thinktankの違いはどこにあると思いますか?

「政治を変える」よりも「社会を変える」を目的にしていること。だから、より僕らの実生活に影響力のある「行政」にアプローチしています。

そもそも、「政治」と「行政」ってまったく違うんです。

三権分立の考えに則ると、政治(国会、立法)とは、基本的には取り扱うテーマに対して意思決定する組織です。対して行政とは、それを実行し運用する組織のこと。

たとえば、2020年7月からレジ袋を有料化します、と決めるのが政治(国会)。それにしたがってルールを作って実施するのが行政。このケースだと経済産業省や環境省、それぞれの地方自治体などが動きます。

行政が動くと、僕たちの生活にダイレクトに影響が出ます。ゴミの収集も、保育園や学校教育も、喫煙のルールも、すべて行政の範囲です。実際に社会を動かしている行政のビジョニングを支援することで「社会は変えられる」ことを証明する。それが僕たちNEWPEACE thinktankのミッションです。

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僕自身は、学生時代に地元の長野市で国会議員事務所のインターンをしたり、社会人になってからも区議会議員の秘書を務めたりと、どちらかというと「政治」が好きだったんです。市議会議員になろうとも思っていたのですが、インターン先の議員の方から「まずは社会を知りなさい」と。

ITベンチャーに勤務をする傍ら、NEWPEACE代表の高木と知り合って「ネット選挙解禁」のキャンペーンに携わると、やっぱり政治や行政は面白いなって。それで大学院と政治家秘書を並行した後に、選挙ドットコムの運営会社を経て、NEWPEACEに加わりました。


行政最大の課題である「不信感」への向き合い方

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──増沢さんから見て、いまの行政の課題とは何でしょうか。

「社会は結局変わらない、変えられない」と多くの人があきらめ、行政や官公庁に対して不信感を抱いている現状です。この不信感の大きな原因は、国がつくるルールと実生活がズレていることにあるのではないかと考えています。

「国がいろいろやっているのは知っているけど、それで私たちの生活は良くなったかな?」

そう疑問に感じる人は少なくないはずです。国や自治体の施策で自分の実生活が豊かになる、改善されるという体験がそもそも少ない。言い換えると、政治や行政に対してリアリティが無いんですね。

さらに言うと、昔に比べて豊かになった現代では「政治」として扱う大きなトピックやテーマって、ほとんどないんです

かつての池田勇人の「所得倍増計画」や田中角栄の「日本列島改造論」※のような、政治主導で「この国を変える」みたいなテーマは、現代ではほぼありません。

なぜなら日本という国はすでに先進国であり、一定水準の豊かさを保っていて、平和だからです。

(※)
所得倍増計画とは:
第58~60代内閣総理大臣・池田勇人が1960年代に掲げた政策。「10年間で国民総生産を倍増させ、生活水準を西欧先進国並みに到達させる」という成長目標を打ち出し、減税、社会保障、公共投資を柱に、高度経済成長を強く後押しした。

日本列島改造論とは:
第64~65第内閣総理大臣・田中角栄が1970年代に掲げた政策。地方への工業分散、新地方都市の建設、高速道路・新幹線などの整備を柱とした。

一方で、実生活での問題はどんどん増え続けています。働き方、産業、家族が多様化し、国が一括で管理できなくなってきた結果、国が作るルールと実社会とが大きくズレてきています

実は30年くらい前まで、国の施策は実社会とうまくリンクしていました。昔はいまより多くの企業が経団連や労働組合に所属していたので、国は経団連や労働組合の代表と話をして施策を決めれば、生活者の意向と大きくズレることもなかった。

しかし、今はフリーランスやベンチャーも増え、経団連や労働組合だけでは生活者の意見を汲み上げられなくなっています。国も誰に意見を聞いていいのかわからず、実生活のスピードに法律が追いついていない状態が続いています。


──実生活の多様化に、国の制度づくりが追いついていないということでしょうか?

そうです。たとえば厚生労働省の公的年金(厚生年金)の「モデル世帯」を見るとすごく象徴的ですよ。

モデル世帯って「将来、年金をどれくらいもらえるか」を試算するときに仮で設定される世帯※のことなんですが、これがいまだに「4人家族で、夫は正社員でボーナスもあって定年まで働き、妻は専業主婦」みたいな感じで……。もちろん共働き世帯や単身世帯に対応した試算もされていますが、最もよく使用される「モデル世帯」がこれではちょっと参考にしづらくないですか。

こうした社会の実態とルールの乖離が、政治や行政への不信感を生んでいると思っています。だからこそ、行政の重要度が高まってきているんです。「何をやるか」を議論する政治ではなく、目の前の現状と向き合って「どうやるか」を考え、実行する行政こそが今、変わらなくてはいけない。


行政の性質を知り、できることから始めればいい

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──行政は実生活とルールの乖離に気づけていないのでしょうか。

いや、気づいていると思います。気づいているけれど、やり方がわからなくて焦っている、のほうが近いかな。

行政って、前例の踏襲というか、常にアップデートしかできないんですよ。間違ったらリスタートする、ということが体質的に難しくできている。難しい言葉で「無謬性(むびゅうせい)」っていうんですけど、理論や判断に誤りがない前提で物事を進めていくんです。

つまり、結果的に間違っていたことを認めたり、「失敗しました」と言えなかったりする文化が、どうしても起きてくるんです。だから、やめる決断が難しいし、新しいことも苦手。これが行政の性質です。

組織面でも、一括採用の総合職がほとんどで、ジョブローテーションしているから専門性が磨かれにくい。中途採用枠も限られていて、組織としても変わりづらいんですね。そういった行政のルールを急に、大きく変えるのは非常に難しく、現実的ではありません。

でも、行政って、僕たちがいま直面する課題を解決するための最高権力であり、それ専門の機関なんですよ。最強で、超すごいシステムじゃないですか。

社会を変えるための制度や座組は整っているのに、アウトプットが実態とズレているなら修正すればいい。今あるルールの枠組みの中で歩みをそろえて、少しずつ変えていけばいいんです。

──NEWPEACE thinktankとしては、どのようにアプローチしますか。

僕は真剣に目の前の課題に取り組む公務員の方々を間近で見てきて、彼らの頭のよさや熱意を本当に尊敬しているし、それがうまく伝わっていない現状にもどかしさを感じています。

彼らに寄り添いながら戦略的に変化していきたい。行政内のルールや法律を急に変えろなんて無茶な提案はしませんし、制度上必要ならたとえ、めんどうでおカタい書類でもちゃんと書いて提出しています。

一時的にやり方をねじ曲げて変化を起こすことは一見希望の特大ホームランに見えますが、失敗するリスクも高く、再現性もありません。少しずつ着実にヒットを打ち続けることのほうが、長い目で見たときにメリットがあると思っています。


社会は、地方から変わっていく

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──行政や公務員にアプローチすることで社会を変えていく。その具体的な方法とは何でしょうか。

まずは「つくりかた」と「伝えかた」を変えることです。

NEWPEACE thinktankは行政と一緒にルールをつくるところから入ることもあるし、行政がつくった良い制度を市民へ伝えることを担う場合もあります。

たとえば今は、経産省と一緒にスタートアップ企業向けの支援制度づくりとPRをお手伝いしています。僕らがいろんな企業や起業家から課題と求めるものをヒアリングし、あるべき支援制度を定例的にミーティングで提案します。最終的には行政らしい難しい文体にまとめ、50ページ以上のレポートも出しました(笑)。

同時に、これからは行政のひとつである「地方自治」から変えていくことがカギだと思っています。

地方自治は今、すごく面白い時代です。日本各地で有能な知事や市長が次々と現れています。特に最近はコロナ禍もあり、各地方の取り組みが比較されやすくなりました。

たとえば、以前にNEWPEACEのnoteでも「活躍が注目される自治体」として挙げましたが、大阪府四條畷市の東修平市長、茨城県つくば市の五十嵐立青市長、兵庫県神戸市の久元喜造市長……挙げればキリがありませんが、彼らは冷静な判断、迅速な行動、SNSなども活用した明確な説明で着実に実績をつくり、市民からの信頼を得てきています。

──各地方では社会変革が実現できている中で、なぜ国全体では変われないのでしょうか。

抱えている課題は各地域によってそれぞれなので、国が一括でどうにかするのは難しくなっているんですよね。

また、知事や市長など地方自治の長は、内閣総理大臣と違って市民が直接投票して選ばれます。そのため、知事や市長はその地域の「政治」と「行政」の両方を司ることができるんです。

つまり、「何をやるか」の意思決定から「どうやるか」の細かいプロセスまで一挙に担っているので、実現可能性を高められるんですね。

これが地方自治が重要である理由のひとつです。国自体ががらりと変わるのは難しいけれど、地方自治がしっかり成果を出して生活者に信頼されることで、「政治」への不信感も払しょくできると思っています。

僕自身も昔は国会議員のほうがかっこいいなと思って、憧れていました。でもある日、宮崎県日南市の﨑田市長にお会いしたときに言われたことにすごく心動かされたんですよ。

「日本全体を変えようと思ったとき、国会議員になるのもひとつの手。でも自分は市長になるほうが絶対にいいと考えている。なぜなら日本の自治体のどこかでうまくいったなら、その手法は全国でコピーされる。地方で成功事例を出すことは、いずれ日本全体を変えるきっかけになる」

だからこそNEWPEACE thinktankは今、地方自治体とのタッグも強化しています。

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──話せる範囲で、具体的な取り組みを教えていただけますか。

2021年から、富山県の経済振興策を話し合う「成長戦略会議」に参加し、富山県のビジョン策定をお手伝いしています

「成長戦略会議」は富山県の新田八朗知事が2020年秋の知事選で公約に掲げたプロジェクトで、経営者や起業家などが会議メンバーに選ばれている新たな取り組みです。「出前館」の中村利江前会長や、特別委員としてヤフーCSO(最高戦略責任者)の安宅和人氏なども参加される中で、NEWPEACE代表の高木も委員に選出いただき、戦略の大枠につながるビジョンの策定を行っています。

会議初回のテーマも「地方都市のビジョン」でしたね。この会議は月1回程度開かれ、2021年6月にも中間とりまとめをします。早ければ、来年度の6月補正予算案に反映されることになっています。

他にも、とある自治体の観光PRをお手伝いしていて、観光施策のビジョンやキャッチコピーをつくっています。

通常、観光PRは総合広告代理店と地方自治体でタッグを組むことが多いのですが、地元の市民たちが置いてけぼりになる光景もよく見られます。

決まったものを後から見て、「ああ、自分たちの街のキャッチコピーってこれなんだ、知らなかった」と……これは望ましくないですよね。

僕たちNEWPEACE thinktankはビジョンやキャッチコピーをつくる段階からワークショップを開いて、市民の皆さんとお会いすることを大切にしています。地元の方から地元の良いところを出し合ってもらい、それを徐々に言語化して案をつくっていくんです。

ワークショップは、行政と市民がお互いに顔の見える環境をつくる意味でも、すぐれた手法です。行政って基本的に「黒子」で、表に出てこないんですよね。そんな「顔が見えない」ことも市民の不信感の一因です。逆に、地方公務員は電話や投書など匿名で叩かれやすい職業なので市民を怖がっています。これでは双方に信頼が生まれにくい。

一緒に取り組むことで官民の境界線が溶け、信頼が生まれたら、地元に愛着と自信を持ってPRできますよね。


生活者に興味を「持たせる」のが仕事

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──政治や行政をよくするために、私たち生活者にできることはあるのでしょうか。

「町にもっと興味を持とう」とか一般的には言われますが、僕は興味を持たせることも含めて行政がやるべきだと思っています。

僕が個人的にすごくいやなのは、政治や行政について知らないほうが悪い、みたいな風潮です。

政治や行政って、みんなわからないじゃないですか。僕だって未だにわからないことが多いです。それなのに、たとえばアーティストの方のSNSに「あなたはアーティストだから政治のことはわからないと思いますが……」なんてコメントがついたりする。

でも、政治や行政についてわかりやすく伝えることは官公庁の仕事です。彼らは公務員としてお金をもらってやっているんですから。生活者が時間や労力をつかって政治を理解しなければいけない義務はないでしょう。

ただ、官公庁の人たちは“政策をつくるプロ”です。つくるものの内容は基本的には良いものなのに、それがうまく伝わっていない。彼らはテクノロジーやクリエイティブはどうしても苦手なところがあるので、僕たちNEWPEACE thinktankが「何を、どう伝えるか」でサポートし、生活者へ届きやすくすることはできると考えています。

もし、皆さんが普段の生活で「改善してほしい」「ここが課題だ」と思ったら、ぜひ行政の窓口へ意見メールを送ったり、選挙中に演説している政治家へ話しかけてみてください。それだけでもとても価値があります。

知事や市長へメールをするのも効果的ですよ。彼らにすれば市民から敬遠される経験のほうが多いので、丁寧に、親身に対応してくれるはずです。

──特に、今の若い世代は政治に興味を持てていない、とよく言われますが……。

いやいや、無理でしょう。「興味を持つ」って、そもそも負担が大きくないですか? みんなそんなに暇じゃないし、僕だって興味のないことに時間を割こうとは思いません。

よく投票率が話題になりますけど、そもそも高齢者がなぜ投票に行くかって、自分の生活にダイレクトに影響するからなんですよね。年金だとか、病院に行ったときの負担額だとか、シルバーパスだとか。

投票に行くのは「興味の有無」ではなく、自身の生活と密接にリンクしているから。政治や行政にリアリティがあるんですよね。

だから、政治や行政にリアリティが持てれば、若者だって自然と投票するようになります。実際、大阪元府知事の橋本徹さんは子育てや学校教育に注力したんですよね。そうしたことも1つの理由となって、大阪市長選挙で「30代のお母さん世代」の投票率が上がったんです。

忙しい経営者やベンチャーの社長さんにも投票に行かない方はいます。それは投票に行く時間に自分のビジネスを進めたほうが社会が変わるという信念があるから。それはそれで認められるべきだし、いいと思うんです。投票って「権利」ですから。

要は、若者に限らず、生活者が政治や行政に興味を持たないといけない義務や理由はないんですよね。持たなくたっていいんです。別に興味ないけど、政治や行政はいいことやってくれてる、って伝わる状況を目指したいですね。

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公共と民間の境界線を溶かし、一歩ずつアクションすること。官民がゆるやかに信頼しあえば、社会はきっと変えられる。

NEWPEACE thinktankは新たな官民融合の型を広げ、社会変革のポジティブな連鎖を巻き起こしていきます。

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