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瞑想による心肺機能の向上

これまでは、炎症や高血圧、不安障害などにおける瞑想の効果(*1~*3)を紹介してきましたが、今回は心拍や呼吸に対する瞑想の効果を紹介します。
研究論文は“Cardiorespiratory synchronization during Zen meditation.(禅瞑想中の心肺同期: *4)”というタイトルで日本の禅瞑想を用いたドイツの大学から2005年に発表されたものを紹介します。

一般的に知られることとして、我々は日頃いろいろ考えたり緊張したり不安を感じたりすると、心拍数が上がり呼吸も早くなり自律神経にも影響を及ぼします。この極端な例が“過換気症候群”というもので、精神的不安→心拍数・呼吸数増加→過換気による血液アルカリ化→呼吸苦・しびれ感等→さらに不安で呼吸促迫、という悪循環が起こる病態で場合によっては救急車で運ばれます。反対に落ち着いてリラックスした状態の人は心臓の拍動も呼吸もゆっくりと安定したリズム保っていることが多いです。

我々の日常生活でも焦った時や慌てている時は「落ち着いて。ゆっくり深呼吸して。」と相手や自分に言い聞かせることはよくあります。このように精神状態と心肺機能はとても密接な関係があります。“不安や焦り”と反対に“祈りや悟り”の状態は心肺に良い効果をもたらすという説があります。ある研究では“ロザリオの祈り(*5)”や“「オーム(OM)」というマントラ(真言*6)”を唱えることで心肺機能が調節されるというデータも得られています(*7)。また、慢性心不全患者においては呼吸数が6回/分の状態が最も動脈血酸素飽和度(SaO2)が高いということが研究で示されており(*8)、「10秒に1回のゆっくりとした呼吸が安静時の心肺機能を効率よく発揮できる」ということを裏付ける研究が複数あります(*9, *10)。

このように“ゆっくりとした呼吸が心肺機能に良い効果をもたらす”、“祈りやマントラが心肺機能を調節する”ということからも、 “瞑想も心肺機能に良い効果をもたらすのでは”と考えるのは自然なことであり今回の研究に結びついていると考えられます。

この研究には9人の被験者が参加しました(女性4人、喫煙者3人、平均年齢:43±7歳、いずれも心血管疾患なし)。 このうち2人の被験者は瞑想に関して一定の経験がありましたが、他のすべての被験者は瞑想の経験がありませんでした。
実験手順の期間は約50分で以下の6つのパートに分けられました:
(1)安静な状態で椅子に座る(S: Sitting, 約10分)。(瞑想ではなく普通に座る)
(2)メンタルタスク(T: mental Task, 暗算を行う:6分)。
(3)禅瞑想(MZ: Zen Meditation, 約10分)。(できるだけ考えず”ただ在る”)
(4)歩行瞑想(経行/きんひん*11:MK: Kinhin Meditation, 約7分)(瞑想意識状態でゆっくりと歩く)
(5)2度目の座禅瞑想(約7分)((3)と同じように瞑想する)
(6)最後に安静で椅子に座る(約10分)。(瞑想ではなく普通に座る)
このような手順で実験は行われ、被験者の呼吸や心拍数が細かく測定されました。
図1が心拍と呼吸のグラフの一例です。上段はただ安静にしている時で、呼吸と心拍の同期はほとんど見られず心肺の同期を表す係数γ(ガンマ)値(0<γ<1)は0.14と低い値です。図1下段は瞑想時で心肺がよく同期している状態で、同期の係数γ値は0.92と高い値です。γ値は同期が完全に不一致のとき「0」、完全に同期していると「1」という値になります。

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こうして得られた実験結果が図2のようになりました。
心拍数は禅瞑想中に最低(68.2拍/分)、歩行(経行)瞑想中に最高(77.5拍/分)、安静座位と暗算中は中程度の心拍数を示しました(S:72.8拍/分、T:75.9拍/分)(図2A)。
呼吸数では、安静座位および暗算中は正常レベル(S:16.2呼吸/分、T:16.6呼吸/分、成人の正常呼吸数12〜20呼吸/分)でしたが、2回の瞑想では呼吸数が大幅に減少しました(MZ:8.4呼吸/分、MK:6.1呼吸/分)(図2B)。
すべての被験者において、心肺相互作用を示すγ値(図2C)は、実験開始時の安静座位(S)中に最も非同期化されました(γ= 0.23)。 暗算(T)中に、同期の程度はすべての被験者で中間レベル(γ= 0.40)に増加しました。 禅瞑想(MZ)または歩行瞑想(MK)を実践すると、同期の程度が高レベルに増加しました(MZ:γ= 0.77、MK:γ= 0.80)。

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これらの結果を見ると、禅瞑想や歩行瞑想(経行)中は呼吸数が顕著に低下しており安静時(S)や精神活動時(T)の半分かそれ以下に低下しており、統計学的にも明らかです(p=0.000)。そして、先に述べたように「最も心肺機能のパフォーマンスが高くなる呼吸数6回/分(*8〜*10)」に近づいていることが分かります。
さらに心肺同期を表すγ値も安静時(S)や暗算時(T)に比べ禅瞑想(MZ)や歩行瞑想時(MK)に高く、“瞑想によって高度の心肺同期が得られた状態”になっていることが分かります。

また、次のデータでは心拍数のパラメータについて解析しています(図3)
この結果を見ると心拍数の低周波数帯域の成分(図3B)において瞑想時(MZ)と歩行瞑想時(MK)の成分が増加していることが分かります。低周波数帯域/高周波数帯域(LF/HF)バランス(図3C)も瞑想時(MZ・MK)において有意に上昇しています。LF/HFバランスに関しては慎重な解釈が必要とされていますが、この結果は明らかに10回/分以下の“ゆっくりとした呼吸”の影響が心拍に表れていると解釈されています。

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そして呼吸性洞性不整脈(RSA : respiratory sinus arrythmia)も瞑想時(MZ・MK )において増加しています(図3D)。RSAとは病的な不整脈ではなく、健常な人に見られる現象です。ゆっくり息を吸い込んだ時の脈とゆっくり息を吐いているときの脈を比べてみると、ほとんどの人は吐いている時の脈の方が遅いはずです。このような“呼吸の影響による心拍数のゆらぎ”を呼吸性洞性不整脈と言います。ただし、呼吸が浅く不規則で何かをしているときはこの現象は顕著ではなく、大きく深呼吸を規則正しく繰り返すほど顕著になります。図3Dにおいて禅瞑想/歩行瞑想中にこの現象が顕著になっているのも“呼吸と心拍が高度に同期している”ことを表しています。

今回の研究結果をまとめると、以下のことが言えると思われます。
・瞑想(禅・経行)によって呼吸数が明らかに少なくなった(約16回/分→6回/分)。 →1回の呼吸が長く深く(理想の呼吸数に)なった
・瞑想時に呼吸と心拍数の同期を示すγ値が明らかに高くなった。
 →心拍と呼吸がよく同期している。
・瞑想時、心拍数の低周波数帯域の増加、呼吸性洞性不整脈(RSA)の影響が増大。 →ゆっくりとした呼吸による心肺同期の増強が示された。
・瞑想初心者も熟練者も関係なく効果が得られた。
このように瞑想は座位でも歩行時でもゆっくりした呼吸をもたらし心肺同期を促進することが分かりました。また、健常者だけではなく慢性心不全の人にとっても心肺機能を向上させる良い効果が期待できます。

今回は、さらにMAX瞑想システム(*13)という瞑想法を簡単に紹介します。
この瞑想法もこれまで紹介してきた瞑想法と共通点もありますが、さらに洗練された4つのシンプルな手順として一般にも浸透してきているようです。この瞑想法は次の4つのステップで構成されています。・リラクゼーション
まずは全身の筋肉を弛緩させ、力を抜いてリラックスします。以前紹介したヨーガ・ニードラ(*12)にも通じるように、リラックス・脱力は瞑想の基本です。力が入ってしまっているのに気付いたら力を抜いていきましょう。
そして呼吸は“できるだけ深く”、“できるだけゆっくりと”するように心がけましょう。上に挙げた研究結果からも"ゆっくりした呼吸”がどれだけ心肺に良い効果をもたらすかは示されている通りです。十分な時間をとって瞑想の下地となる呼吸法とリラクゼーションで精神を整えましょう。
・流出(受動瞑想)
このステップではあらゆる雑念を洗い流していきます。上の禅瞑想のように、あらゆる雑念・煩悩・思考・感情・執着といった概念を取り去っていきます。明鏡止水の如く何も考えず、あらゆる思念に惑わされず"ただそこに在る”という境地に至ることが大事です。悪いことばかりではなく楽しいことや良い思い出も全ては“思念”であり、それを捨てることが肝要です。焦らずに雑念が出てこなくなるまでこの状態を維持します。
・流入(能動瞑想)
このステップでは先の流出とは一転して、大自然や宇宙のエネルギーを思い描き、自分をそれで満たしていきます。それにより究極の力の源と繋がる意識が目覚めていきます。大いなる力の源は宇宙、天界、または自分自身の中に存在するといわれます。以前紹介した”超越瞑想(*2)”と通じる部分があるかもしれません。自己に内在する万能性に目覚め、あらゆるものを創造していきましょう。
・全托(ぜんたく)
前のステップで全ての源と繋がったら、今度はそれを手放します。祈りや願望と執着は紙一重です。手放せないものは執着となり煩悩となりあなたを悩ませ続けます。不安を感じたり恐怖を感じたり、嫉妬や欲望など何かに感情を動かされるのはそれを手放せていないからです。あなたがその紐をつかんでいるからそれに引っ張られ振り回されるという事実に気づくことが大事です。全てを手放し天の意志に托します。宇宙と意識を一体化させるというのも一つのやり方です。日常で起こる出来事がいかに些細なことか気づくことができます。
十分な時間が経過したらゆっくりと自分の身体に意識を戻して瞑想を終了します。

時間は厳密に決められてませんが、1時間程度でも十分に精神的にも身体的にも瞑想の効果が得られると思われます。筆者もこの瞑想を体験・実践しておりその効果を体感しています。ストレスの解消や身体の健康のためにもぜひ毎日瞑想習慣を取り入れてみましょう。

(著者:野宮琢磨)

著者プロフィール

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野宮琢磨 Takuma Nomiya  医師・医学博士
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用/参考文献
*1. 身体的炎症に対するストレスと瞑想の影響
https://note.com/newlifemagazine/n/n2744a1695749
*2. “高血圧は瞑想で改善する”という医学研究
https://note.com/newlifemagazine/n/n12e335a385c6
*3. 不安や心配に対する瞑想の効果
https://note.com/newlifemagazine/n/n3af4e70c0bdd
*4. Cysarz D, Büssing A, Cardiorespiratory synchronization during Zen meditation. European Journal of Applied Physiology 2005 95(1): 88-95
*5. ロザリオ https://ja.wikipedia.org/wiki/ロザリオ
*6. オーム(OM) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%A0_(%E8%81%96%E9%9F%B3)https://ja.wikipedia.org/wiki/オーム_(聖音)
*7. Bernardi L, et al. (2001) Effect of rosary prayer and yoga mantras on autonomic cardiovascular rhythms: comparative study. BMJ 323: 1446-9
*8. Bernardi L, et al. (1998) Effect of breathing rate on oxygen saturation and exercise performance in chronic heart failure. Lancet 351:1308–1311
*9. Berntson GG, et al. (1993) Respiratory sinus arrhythmia: autonomic origins, physiological mechanisms, and psychophysiological implications. Psychophysiology 30: 183-96
*10. Stark R, et al. (2000) Effects of paced respiration on heart period and heart period variability. Psychophysiology 37: 302-9
*11. 経行(きんひん・きょうぎょう)https://ja.wikipedia.org/wiki/経行
*12. リラクゼーション瞑想と脳内物質ドーパミンについて
https://note.com/newlifemagazine/n/n67caa776ea39
*13. MAX瞑想システム™️
https://www.youtube.com/watch?v=Vds5-q-4FE4https://www.facebook.com/groups/max.meditation/hashtags

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