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量子の最新研究と因果律の崩壊?

前回は“量子”と“意識”が無関係とは言えない実証実験を紹介しました(*1)。最近量子力学への関心も高いので今回も取り上げますが、これまで分かっている量子の不思議な性質をおさらいすると、まず量子(光子や電子といった物質の最小単位)は“粒子の性質”と“波の性質”を両方保持している“二重性”という性質があります(図1)。

・光子はこれ以上分解できない1個(量子)に分離できる。
・光子を1つのスリットに1個ずつ照射すると粒子として振る舞う(図1A)。
・光子を2つのスリットに照射すると、1個の光子が2つのスリットを同時に通過したかのように振る舞う(波動性:図1B)。
・さらに、“光子がどちらのスリットを通ったのか観測しようとする”と波動性は消失して粒子として振る舞う(図1C)。

このように、まず「光は粒子か?波か?」という論争に始まり、古典物理の概念を壊して「光は粒子でもあり波でもある」という二重性に関して議論は収束していきました(*2)。ただし、「1個の光子がどちらを通過したのか?」を観測しようとすると波の性質が消える、という奇妙な現象が起こります(*3, *4)。

これに関しては「機械的に観測すること」が量子の性質を変えるのか、それとも「観測しようとする人間の意識」が量子の性質を変えるのか、それともまた別の要因が影響しているのか、多くの議論を呼びました。これに対して近年、「人の意識が量子の性質に変化を与えるか」という実験が行われました(図2、*5)。

この実験の概要は以下のとおりです。
・1500人以上参加して二重スリットの実験装置に意識を向けた(図2A)。
・人間の意識が向けられるとその時間に合わせて変化が現れた(図2B)。
・人間の意識で量子の波形グラフ全体に変化が現れた(図2C)。
・人ではなくコンピュータのモニタリングでは変化が出なかった(図2B/C)。
・参加者は数キロ〜数千キロ離れていても距離に関係なく変化は現れた。

と、このような結果が示され“光子の性質が変化を起こす”現象に対して“人間の意識”が距離を無視して影響を与えることが科学的にも立証されました。瞑想をテーマとするこの連載記事で量子力学を扱うのもこのように「“量子”や“意識”にはまだ未知の可能性がある」からです。

しかしまだ疑問は尽きません。量子が二重スリットを通過して“どの段階で性質が変化するのか”はまだ分かっていません。何故かというと“経路を観測すると性質が変化してしまう”からです。

図3の装置で見ると、一個の電子が射出され(粒子性)、二重スリットを通過して投影面に一つの点として捕捉されます(粒子性)。スリットからの透過線が重ならない場合(図3A)は1個の量子が片方のスリットを通過し投影像もそのまま干渉縞(しま)の無い均一なバンドが見られます。スリットからの透過線が投影面で重なる場合(図3B)は1個の量子が波のように二つのスリットを同時に通ったような干渉縞が現れます(波動性)。二つのスリットからの透過線がクロスして焦点が合わない場合(図3C)は粒子のように干渉縞が無く投影されます。

ここである研究チームは「どの段階で量子が粒子のように振る舞ったり波のように振る舞ったり変わるのか?」という疑問を解明するために次のような研究を考案しました(図4)。まず最初の段階(図4A)では1個ずつ電子が射出されますが、各スリットからの透過線は重ならないので“粒子”としてスリットの形のまま投影像が現れます。ここでスリット裏の回折装置を用いて一切構造を変えずに透過線を重ね合わせます(図4B)。“粒子の性質”を示した電子を“そのまま重ねていったら”一体どのような投影像が現れるのでしょうか?また、重なった状態から“さらに透過線がお互いに通り過ぎていったら”どのような投影像が現れるのでしょうか?

このような研究を実現したのが日本の理研の研究グループです。論文タイトルは「Electron interference experiment with optically zero propagation distance for V-shaped double slit(V字型二重スリットの伝搬距離が光学的にゼロの電子干渉実験)*6」で2021年とつい最近発表された研究です。二重スリット実験は1800年代から議論されていましたが今も現在進行形で研究されていて未だ全てが解明されていない領域です。この研究チームが実際に開発した装置が図5のようになります。

用いた粒子は電子で、電子線バイプリズムという機構で構造を動かさずに電子の飛程を回折させることが可能です。図5右の(a),(b),(c)が図3のA, B, Cと同じような原理を示していて、このように投影像を任意に動かすことができます。そしてこの装置はこれまでのような平行な二重スリットではなく、“V字型二重スリット”を採用しています(図6左上)。

このV字型二重スリットを使用することで、スリットの投影像が全体に重なっていくのではなく、部分的に重なりが生じます(図6下)。これによって、“まだ重なってない部分”/“ちょうど重なっている部分”/“通り過ぎて重なってない部分”の投影像を同時に観測することが可能になっています(但し、どちらのスリットを通ったかは観測してません)。

ちなみにスリットの間隔は1μm(図6左上)と極小ですが、電子の古典サイズ(電子は量子物理学的には大きさを定義できないので目安のため古典サイズと呼ぶ*7)は10-9μmのオーダーなので十分に離れています。例えると電子の大きさを直径1cmのパチンコ玉サイズと仮定すると、このスリット間の距離は約10,000km、およそ東京〜ロンドン間の距離に例えられます。これ程離れた距離を「1個の量子が同時に通過してくる」現象が起こるので、量子の性質とは当時の古典物理学者達にとってはいかに受け入れ難く奇想天外なものであったか想像に難くありません。

本題の研究結果は図7のようになりました。図7右にちょうどV字スリットの投影像が重なって“X”のようになっている状態の拡大図がありますが、この図を見て分かるように「重なった部分のみ干渉縞が浮かび上がり」「重なっていない部分は均一な粒子の分布」のようになっています。

この図7cの見え方が実際にどのように電子が分布しているか精密にカウント数を解析したものが図8になります。スリットの重なった干渉縞が現れている部分(図8#1)のグラフを見るとやはりグラフでも“波の性質”として干渉による規則的な縞模様が出現していることが分かります。対照的に全く重なってない部分(図8#3, #4)は波の性質は見られず“粒子の性質”として均一に散布されたような分布になっているのがグラフ#3, #4でも示されています。

面白いのは“スリットが重なる部分と重ならない部分の境界の部分(図8#2)”のグラフです。グラフにおいても“重なる部分は波の性質”、“重ならない部分は粒子の性質”というように明瞭に分かれています。もちろん、ここに記録された電子の1個1個は「全て同じ条件で」発射されたものです。

この実験の条件を改めてまとめると以下のようになります。
・電子は1個の粒子として1個ずつ全く同じ条件で射出されている。
・投影面でも電子は1個の粒子として着弾点が記録される。
・スリット投影面の間隔を調節した後は計測中は何も動かしていない。
・V字スリットで重なる部分/重ならない部分が同時に計測できる。

そして実験の結果をまとめると以下のような現象が観察されました。
・重ならない(片側のスリットからのみ到達できる)部分は粒子の性質を示した。
・重なる(両方のスリットから到達できる)部分は波の性質を示した。
・スリット手前の条件が常に同じでも投影部分によって性質が変化した。
・同じスリットの投影像でも重なるかどうかで明確に異なる性質を示した。
・投影像の重なる場所が移動すると干渉縞模様も正確に一致して移動した。

最終的に研究著者らは次のように結論づけています。
・発射された量子の投影部分(到達地点)に到達する経路が二つあって特定できない場合、量子は2箇所を同時に通過した波としての性質を示す。
・発射された量子の到達経路が1つしかないまたは1つに特定される場合、量子はその経路を通過した粒子としての性質を示す。

ただし、これ以上のことについては研究著者らも深くは言及していません。今回の理研チームの最新の研究結果でも分かるのはここまでで、現状ではこれ以上のことは言えないからです。

しかし、この結果から以下のような疑問が生じます。
・電子は到達地点が重なるかどうかを知り得るのか?
・出発地点では電子は到達地点を知らずに出発しているはずである。
・同じスリットでも到達地点が重なるかは場所によって違うはずである。
・到達地点から出発地点への情報のフィードバックは無いはずである。
・なのになぜ非常に正確に波と粒子の性質を使い分けるのか?
・全く同じ飛程で“重なる時”と“重ならない時”に出発した電子はどこから性質が変わるのか?

電子の因果律から見ると、
・到達地点まで制限されない2つの経路があるならば波として振る舞う。
・到達地点まで1つの経路しかないなら粒子として振る舞う(観測者が「どちらかを通るはず」という意識で制限された場合は1つの経路しかない粒子として振る舞う)。

という難解ですがシンプルな法則で首尾一貫しています。

ただし人間の常識から来る因果律で考えると、
・同じ条件だが量子の性質が到達点によって明らかに変化している(図8#2等)
・性質が「変化」するにはその「原因」が存在する。
・その「原因」は「到達地点が2つの投影像に重なるかどうか」である。
・2つの投影像は回折できるので「重なるかどうか」は到達するまで分からない。
・しかし変化するための分岐点は「手前のスリット通過時点以前」である。
・手前のスリット通過時点で既に「波/粒子」の選択は起こっていることになる。
・疑問Q:分岐条件(到達地点)の手前のスリットで既に選択が行われている?

というように、人間の因果律という考え方からすると現時点ではどうしても説明のつかない部分が生じてきます。かつて「時間と空間は絶対に揺るぎないもの」と思われていた常識をアインシュタインの相対性理論が覆したように、我々が持つ「因果の法則、事の順序」というものも絶対的なものではないかもしれません。

これまでも「時間と空間は絶対である(実際は絶対ではない)」「物質の状態は1つである(実際は同時に二つの状態を保持する場合もある)」「量子は1個が1つのスリットを通るはず(実際は1個が2つのスリットを同時に通ることも起こる)」「人の意識と物質は科学的に関係しない(実際は意識で物質が変化することも示された)」というように、我々の未熟な概念や常識が全て思い込みであり錯覚であることを科学が示してきました。しかしながら、まだ我々が考えている自然界の法則や因果律は古い概念が作り出した錯覚である可能性があります。今回の最先端の科学実験でも分かったことは「自然界の真の法則は我々の概念を遥かに超えた領域にある」ことを垣間見たに過ぎません。

我々は、我々が考えている常識をさらに打ち壊さなければならないかもしれません。「我々が普段見ている世界はどこまで虚像でどこまで現実なのか?」という点にも改めて意識を向ける必要がありそうです。「二重スリットを通過する量子に意識を向けるかどうかでその結果が変化する(*1)」ように、「我々の身の回りの世界に意識を向けるかどうかで起こる現象が変わる」かもしれません。多くの瞑想メソッドは“自己の内面”、“外界”、“宇宙意識”、“究極の真理”というように精神を高次元の領域へと昇華していきます。このような科学的な探究も突き詰めて考えることで“究極の真理に対する瞑想”と同じ効果が得られると思います。また次回は我々の概念を打ち壊す研究を紹介したいと思います。

(著者:野宮琢磨)

野宮琢磨 Takuma Nomiya  医師・医学博士
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用文献/参考文献
*1. 「意識」が物質を変えることを証明:二重スリット世界規模実験https://note.com/newlifemagazine/n/n19342d9a4f56
*2. 単一フォトンによるヤングの干渉実験(浜松ホトニクス/1982年)https://www.youtube.com/watch?v=ImknFucHS_c
*3. 二重スリット実験
https://www.youtube.com/watch?v=vnJre6NzlOQ 
*4. 谷村省吾:干渉と識別の相補性--不確定性関係との関わりを巡る論争小史. 数理科学(サイエンス社)2009 年 2 月号 (Vol.47-2, No.548) pp.14-21
*5. Radin, D. Michel, L., Delorme, A. (2016). Psychophysical modulation of fringe visibility in a distant double-slit optical system. Physics Essays. 29 (1), 14-22. https://doi.org/10.4006/0836-1398-29.1.014
*6. Harada K, et al. Electron interference experiment with optically zero propagation distance for V-shaped double slit. Applied Physics Express 14, 022006 (2021), https://doi.org/10.35848/1882-0786/abd91e 
*7. 電子 -Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E5%AD%90 
画像引用
*いらすとや https://www.irasutoya.com

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