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宇宙の始まり:“宇宙創造のアルケミー”

今回も、我々の理解を遥かに超える宇宙の神秘に想いを巡らせる「宇宙瞑想」をやっていきましょう。以前、ハッブル氏の研究をきっかけに「宇宙は膨張し続けている」、「宇宙には始まりがあり、有限の空間である」と考えられていることを紹介しました(*1, *2)。今回はその宇宙の始まりはどのような様子であったのか、科学的/形而上学的に考えていこうと思います。宇宙の創造の過程を知りたい人には有益な情報となるでしょう。

まず現代科学においては宇宙の歴史は図1のように考えられています(*3)。左側に宇宙の始まりであるビッグバンが示され、そこから宇宙は高温高圧の状態で急激な膨張(インフレーション)を起こします。そして時間と共に宇宙が冷却され、宇宙の塵が集まり、様々な星や銀河を形成して図の右端に約137億年後の現在の宇宙が描かれています。今回は著名な物理学者であるジョナサン=オールデイ博士の著書"Quarks, Leptons and the Big Bang"(*4)に従って宇宙の誕生期の様子を想像していきます。

宇宙の誕生期の状態を知る前に我々の現状の世界では物質がどのような形態で存在しているかをおさらいします。我々の生活できる環境(常温:約20℃=293K、1気圧)では図2の左に示すように、あらゆる物質は「分子」として原子同士が結合して存在しています。そして「原子」は中性子や陽子からなる原子核とその周囲を回る電子から成っています(図2中)。そして原子核を構成する陽子や中性子は最小単位ではなく「素粒子(クォーク, *5)」の組み合わせで構成されています(図2右)。これが私達が生活できる環境における物質の安定した形態です。

・宇宙の誕生:0秒〜10^-43秒後
最初に何かをきっかけに(科学的には不明ですが)宇宙の誕生=ビッグバンが起こります。宇宙誕生より約10^-43秒後の状態について説明します。この10^-43秒後というのは約1プランク時間(5.391x10^-44秒, *6)後の宇宙のことです。この数値は“これ以上分割できない宇宙で最も小さな時間の単位”と考えられており、“なぜこれ以上時間を分割できないか”については過去の記事“時間と空間は量子化できるか?”という記事をおさらいしてみてください(*7)。また、10の何十乗という数に苦手意識がある方は“数の瞑想(*8)”という記事で頭のウォーミングアップをしてみると良いと思います。

本題に戻って、このときの宇宙は爆発的に誕生した直後なので、その温度も10^33K以上と途方もない温度でした。太陽の表面温度が約6000度(6×10^3K)なので太陽の温度の1兆倍×1兆倍×100万倍以上の温度です。このような高温高圧の状態では物質は図2のような原子構造すら保つことはできません。陽子や中性子も形を保つことができず、さらに細かい素粒子(クォーク)がバラバラの状態で存在しています(図3)。この時の宇宙に存在できたものは単体の素粒子、電子、ニュートリノやそれらの反物質といったものが主体で、これらが衝突してエネルギーとなったり、またはエネルギーから生成されている状態でした。

しかし、“全ての素粒子と全ての反物質が全く同数”であった場合、全てが対消滅して±0になってしまいますが、“反物質10億個に対して、物質の方が10億+1個と僅かに多かった”ため、現在の物質的宇宙が出来上がったと考えられています。

・宇宙の初期状態(2)10^-35秒後
次にビッグバンから10^-35秒後になると宇宙の温度が少し下がってきて素粒子同士が結びつくことが可能な温度に近づいてきます。ただし、まだ宇宙の密度が高く素粒子同士の距離が近すぎるため、結合してはすぐに分解するという状態が続きます。図4のように、素粒子同士が一時的に結合して陽子/反陽子/中性子/反中性子といった物質を形成しますが、これらはまたすぐに衝突して光子のエネルギーを放出し消滅します。反対に光子のエネルギーから陽子や反陽子といった物質が生成される反応も生じています。

図4に示す通り、陽子+反陽子←→光子2個の反応で平衡が保たれていますが、ここでも計算上は光子10億個に対して1個の陽子が過剰に生成され、現在の物質宇宙が形成されていると推測されています。

・宇宙の初期状態(3)10^-5秒後〜1.09秒後
ビッグバンから10^-5秒後〜1.09秒後までの説明に移ります。この時期になると物質と反物質の反応はほぼ終わり、先程説明したように“僅かに超過した物質”が残って物質的宇宙の主体となります。なので反陽子/反中性子/反(陽)電子/反ニュートリノといった反物質はもう残っていません。そして、この時の宇宙の温度は約100億度(K)なので素粒子同士が安定して結合し、陽子や中性子として存在することが可能です。ここまで他の物質と激しく相互作用を繰り返していたニュートリノも温度の低下によって現状のような“殆ど他の物質と相互作用しない”性質へと変化します。

・宇宙の初期状態(4)3.2分後〜30万年後
ビッグバンから約3.2分後、宇宙の温度がまた少し低下し、バラバラに存在していた陽子や中性子が結合し始めます。図6に示す通り、陽子(p)と中性子(n)が反応して重水素(2H)、三重水素(3H)、ヘリウム原子核(3He/4He)といった原子核が合成され始めます。この時に存在した陽子と中性子の割合が87:13、これらを材料に安定な水素原子核(p)と安定なヘリウム原子核(2p2n)を合成すると水素原子核:He原子核の割合が74:26となり、現在宇宙に存在する割合とほぼ同程度になります。ただし、この時点では宇宙の温度は数億度〜数万度と高温でまだ原子核と電子は結びついておらず、それぞれがバラバラに飛散している状態=“プラズマ状態”(*9)であり、それが約30万年ほど続いたと考えられています。

・宇宙の初期状態(5)約30万〜38万年後:大きな転機
ここまで宇宙は1万度を超える超高温状態であり、宇宙は図7左のように原子核/電子/光子などがバラバラに存在しているプラズマ状態でした。この状態では光子は自由電子と相互作用を起こしてしまい、まっすぐ飛ぶことができません。光は粒子の中で乱反射して遠くまで到達できない状態であり、蛍光灯や太陽の内部と同じような状態で「光の乱反射によって何も見えない状態」であったと考えられます。つまり、「宇宙全体が太陽のようであり光しかない状態」でした。

しかしこの時期に宇宙に大きな転機が訪れます。宇宙の温度が低下し約3000Kになった頃、もう太陽の表面温度約6000Kよりも十分に低温の状態となりプラズマ状態から「原子核と電子が結合した状態」へと相転移します。図7右に示すようにそれまで飛散していた自由電子が原子核に捕捉され、光子と相互作用しにくくなりより遠くへ光が到達するようになります。もしその時宇宙を見ることができたならば、「光の乱反射で何も見えない状態」から「原子が安定した状態になり宇宙が晴れ渡って見える状態」へと劇的に変化したと考えられます。この時初めて「光と闇が分離した状態」になったと言えます。このときの状況を宇宙科学の用語では“宇宙の晴れ上がり(clear up of the Universe)*10”と呼んでいます。

そしてここから原子同士が集まり、宇宙の塵から星が生まれ、恒星が誕生し、銀河が形成され、137億年経った現在の宇宙が形成されたと考えられています(図1)。

・“原初の光”の痕跡
宇宙誕生からしばらくの間は宇宙の中は光で満たされていて影を造り出すような固形の物質は存在しない状態でした。ビッグバンから30〜38万年後に前述のように“宇宙の晴れ上がり”が起こり、ここで初めて光と闇という概念が生じたとも言えます。このとき、全宇宙に行き渡っていた光子は一度に解放され、全方位へ拡散することになります。そして、この“原初の光”は驚くべきことに約137億年経った現代においても観測することができます。宇宙の膨張とともに光の波長は伸び、当時の3000Kという温度ではなく現在は絶対温度3Kという非常に低い温度で全方位から観測される“宇宙背景放射(Cosmic Microwave Background)*11, *12(図8)”という形で捉えられ、現在でも研究が進んでいます。

・旧約聖書における宇宙の始まり
私自身は宗教家でも何でもありませんが、ユダヤ教の聖典である旧約聖書の「創世記(*13, *14)」の冒頭部に世界創造の描写があるのでそれを以下に引用します。

「1 はじめに神は天と地とを創造された。
In the beginning God created the heavens and the earth.
2 地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。
Now the earth was formless and void, and darkness was over the surface of the deep. And the Spirit of God was hovering over the surface of the waters.
The First Day
3 神は「光あれ」と言われた。すると光があった。
And God said, “Let there be light,” and there was light.
4 神はその光を見て、良しとされた。神はその光とやみとを分けられた。
And God saw that the light was good, and He separated the light from the darkness.
5 神は光を昼と名づけ、やみを夜と名づけられた。
God called the light “day,” and the darkness He called “night.”
夕となり、また朝となった。第一日である
And there was evening, and there was morning—the first day.」
引用ここまで。創世記 第1章冒頭部 (*13, *14)

この聖書の冒頭部によると第3節に書かれているように「光あれ(FIAT LUX)」と神様が言って光が創られた、となっています。そして第4節にあるように、その後に「光と闇を分けた」という順序になっています。こうして見ると、初めから光があったわけではなく、闇があったわけでもなく、両方同時に存在していたわけでもなかった。何も無いところから「まず光が創られ」、そして「光と闇が分けられた」という順序で光と闇の世界が創られています。

この紀元前から伝わる旧約聖書が作られた時代は科学は全く発達しておらず、「地面は平ら」「太陽が地球の周りを回る」「宇宙は永遠不変」と信じられていた頃です。今は誰も疑わないですが「ビッグバン理論」「宇宙誕生説」というのは実はごく最近の科学によって裏付けられてきた理論です(*15, *2)。科学の歴史を振り返ると、創世記冒頭第3・第4節のたった2行ですが、これまで人類が研究を重ね続けて辿り着いた最新理論とよく整合するのには感銘を受けます。光を創造する前にも記述がありますが、「天と地」とは単純な「空と大地」ではないかもしれません。但しここは科学的検証が不可能な領域、形而上学的な領域かもしれないので今ここでは触れません。

・宇宙創造の化学錬成(アルケミー)の経緯

「ビッグバン」が起こるための何らかの前段階(科学的に未解明)
莫大なエネルギーの爆発(ビッグバン)とともに現宇宙の時空そのものを生成
超高温下で物質と反物質の大量生成と消滅
わずかな非対称性から物質のみを生成
宇宙冷却とともに水素・ヘリウム原子核等を合成
さらに冷却され原子核と電子が結合
「“原子”の生成」と同時に「光の解放/闇の生成」が成される

この宇宙が創造される初期の過程を“極めてシンプルに/とても分かりやすく/創造者に無礼なほど単純に”記述すると上のようになると思われます。他の科学者達もそうであると思いますが自然科学を理解すればするほど、万物の存在の仕組み、その緻密さと奥深さに感銘を受けます。人類の知能では何千年もかけてその一部を理解するのがやっと、というところです。もしこの宇宙の理を創った創造主がいるならば人類の知能では到底足元にも及ばない“全てを知り全てに能う”存在に畏敬の念を抱かずにはいられません(絵:ミケランジェロ)。

私も当時はそうでしたが、昔学校で覚えたように「スイ(H)、へー(He)、リー(Li)、べ(Be)、、、」と丸暗記することと、自身の頭で知識と経験を統合し物事の本質を理解するのでは脳の活性化する部位や“感動/気付き/アハ体験(*16)”に必ず違いが出てくるでしょう。“知らないことを理解しようとすること”、“疑問を探求し続けること”、“自発的に興味が湧き考えてしまうこと”、これらも能動瞑想という瞑想法の一種です。学びや瞑想を続けていくことによって、脳/意識/自分の環境に変化を起こしていきましょう。

(著者:野宮琢磨)

野宮琢磨 医学博士, 瞑想・形而上学ガイド
Takuma Nomiya, MD, PhD, Meditation/Metaphysics Guide
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用/参考文献:

*1. Hubble E. A Relation between Distance and Radial Velocity among Extra-Galactic Nebulae, Proceedings of the National Academy of Sciences, vol. 15, no. 3, pp. 168-173, 1929. https://doi.org/10.1073/pnas.15.3.168
*2. 宇宙瞑想:“宇宙は永遠か?”について考える
https://note.com/newlifemagazine/n/n4985749ff8b6
*3. The Big Bang and expansion of the universe
https://www.jpl.nasa.gov/infographics/the-big-bang-and-expansion-of-the-universe
*4. Jonathan Allday, "Quarks, Leptons and the Big Bang" Second Ed., The King’s School, Canterbury, Institute of Physics Publishing Bristol and Philadelphia, 2002
*5. 素粒子−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/素粒子
*6. プランク時間−Wikpiedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/プランク時間
*7. “時間と空間は量子化できるか?”
https://note.com/newlifemagazine/n/ndab571fd44c3
*8.「数」の瞑想 
https://note.com/newlifemagazine/n/n0671628d60c7
*9. プラズマ−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/プラズマ
*10. 宇宙の晴れ上がり– Wikipedia.
https://ja.wikipedia.org/wiki/宇宙の晴れ上がり
*11. Planck and the cosmic microwave background. The European Space Agency. https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/Planck/Planck_and_the_cosmic_microwave_background
*12. 宇宙マイクロ波背景放射–Wikipedia. 
https://ja.wikipedia.org/wiki/宇宙マイクロ波背景放射
*13. 創世記 第1章
https://www.wordproject.org/bibles/jp/01/1.htm
*14. Bible-Genesis 1
https://biblehub.com/genesis/1.htm
*15. ビッグバン–Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ビッグバン 
*16. アハ体験– Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/アハ体験 
画像引用:
*a. https://www.pngwing.com
*b. https://pt.wikipedia.org/wiki/Ficheiro:Water_molecule_3D.svg
*c. https://ja.wikipedia.org/wiki/ファイル:Blausen_0615_Lithium_Atom.png 
*d. https://en.wikipedia.org/wiki/Quark
*e. Image by geralt in Pixabay. https://pixabay.com/illustrations/abstract-background-template-5286683/

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