ブラックホールとクエーサー:暗黒が光に転じる
前回は太陽の構造について詳しく解説し、太陽がいかに安全に効率良く地球や人類に恩恵をもたらしているかを紹介しました(*1)。今回はその太陽をはるかに超える天体がどのような変化を遂げるかを科学的そして形而上学的に見ていきます。
・形而上学(けいじじょうがく)と科学の関連性
「形而上学は“形のない世界の学問”であるから形(物質)に基づく科学(形而下学)とは全く別物では?」と考えるのはやや尚早です。形而上学には「As above, so below (上なる如く、下もまた然り)」という言葉があります(*2)。これは対なるもの(極大と極小/外側と内側/上と下、など)は一致するという形而上学における法則(The Principle of Correspondence)を表しています。
これは「形のない世界」と「形のある世界」は合致する、ということも意味しています。つまり「見える世界」を理解することによって「見えない世界」を浮かび上がらせることができるようになります。それは過去の記事でも「見える星の動きから見えないダークマターを浮かび上がらせたり(*3)」、「現代の電磁波(Cosmic Microwave Background)から137億年前の宇宙の姿を浮かび上がらせたり(*4)」した科学の手法にも通じます。
ですので「科学」に関心がある人も「形而上学」に関心がある人も「同じ現象をそれぞれの視点で見ているだけ」に過ぎないかもしれません。そのような視点で今回の記事を読んでみると面白いかもしれません。
・太陽のような恒星の終末形:白色矮星
話題を太陽に戻すと、太陽質量の8倍程度までの恒星は最終的に周囲に物質を放出して「惑星状星雲」を作り、核の部分は「白色矮星 (はくしょくわいせい:White Dwarf, Figure 3)」という天体になります(*5)。これは恒星の燃え残りのようなもので、徐々にその光度を下げて活性が落ちていきます。「老いた星」と言ってもいいかもしれません。宇宙にある恒星の大部分はこのような経路をたどります。
・太陽の8倍〜30倍ほどの恒星の終末:中性子星
そして太陽の8倍〜30倍ほどの質量の恒星が終末を迎えると、自重に耐えられなくなった星は重力崩壊を起こし大爆発(超新星爆発:Super Nova)を起こします。陽子/電子/中性子で構成されていた原子は重力に耐えられずに陽子と電子が結合して全て中性子でできた中性子星になります。ちなみに中性子星の密度は1cm*1cm*1cmの角砂糖サイズで10億トンという想像を絶する重さです。
・太陽質量の30倍以上の恒星の終末形:ブラックホール
星が大きくなり自重に耐えられなくなると原子が構造を保てずに超新星爆発を起こしますが、さらに重力が強い場合は中性子の構造さえも崩壊し、さらに中心部に落ち込んでいくことになります。その結果、「光さえ抜け出すことができない強力な重力場」が形成されます。これがよく知られている“ブラックホール (Black Hole)”です。目安として太陽質量の30倍以上と言われていますが、最小のブラックホールは太陽質量の3倍程度のものから存在していると考えられています (*6)。
Figure 5はCGによるイメージですが、ブラックホールはこのように銀河が散らばる背景の中に暗黒が浮かび上がるように見えます。全ての光を吸収するため、ブラックホールの向こう側にある星々の光はこちらに届きません。そしてBHの近くを通る光も吸収してしまうため、実際の大きさよりも広範囲の暗黒空間ができます。
・大質量のブラックホール
では太陽の100万倍以上の質量のブラックホールはどう見えるでしょうか。太陽の100万倍以上の質量の天体はそう近くにはありません。近年の発見では我々太陽系の存在する天の川銀河(Milky way Galaxy)の中心のいて座A*(いてざエースター, Saggitarius A*)に存在する超大質量ブラックホールが知られています (*7, Figure 6)。その質量は何と太陽の370万倍です。ここまで巨大な質量だと銀河の星々を引きつけ回転の中心軸のような役割を果たしています。
Figure 6はイベントホライゾン=テレスコープという地球規模のプロジェクトによって撮影されたいて座A*の画像です。この中心の黒く抜けている部分がブラックホールの本体部分です。ブラックホールから光が出てこれないために、中心部分がドーナツの穴のように見えています。このいて座A*の画像を見るとブラックホールの周りに光るリングがあります。ブラックホールの周りを囲むように存在するこのリングは一体何なのでしょうか。
Figure 7に示されるように、このリングは“降着円盤(こうちゃくえんばん、Accretion disk, *8)”と呼ばれる構造です。ブラックホールに物質が吸い寄せられる時、例えるとお風呂の栓を抜いて水が流れるときに渦を巻くように、BHに吸い寄せられる物質が渦となり、その渦が円盤を形成します。
さらに吸い寄せられた物質は中心に近づくにつれて速度が速くなります。これらの物質は激しく衝突し、物質同士が摩擦を生じて熱や光を放出し始めます。これが巨大ブラックホールの周囲に見えるリング状の光の正体と言えます。
・太陽の1億倍以上の超巨大ブラックホールの変容
基本的にブラックホールはFigure 5のように暗黒のはずです。光さえ抜け出せないほどの強大な重力であるため、ブラックホールの大きさ以上に周囲の光も吸収してしまいます。太陽の1億倍以上の質量のブラックホールを想像すると、“とてつもなく巨大な暗黒”を想像します。
しかし実際にそのような天体があるならばどのように見えるでしょうか。太陽の1億倍以上のブラックホールの周囲はFigure 8のようになります。あまりにも巨大な重力のため、降着円盤も巨大になります。そして巨大な重力で加速された物質は衝突と摩擦で熱を帯び、さらに激しく運動するととてつもなく強力な光と放射線を放つようになります。
円盤から放射される光は超巨大な重力や回転する遠心力によって3次元的な構造となります(Figure 8右)。そして大きな車輪のような構造で回転します。この大きさは星のレベルを超えていて垂直方向のビームは10万光年(=天の川銀河の直径)以上となることもある巨大構造です。この巨大天体は「クエーサー (Quasar, *9)」あるいは活動銀河核と呼ばれています。
Figure 9が実際のクエーサーの画像です (*10)。クエーサーは先に述べたように実際は超巨大質量のブラックホールです。しかし画像のように見た目は明るく光る恒星のように見えます。このクエーサーは最近発見された天体で距離は120億光年離れた場所にあると考えられています。
そしてその明るさは何と、太陽の500兆倍とされ、その中心には太陽の170億倍の質量のブラックホールがあると考えられています。このクエーサーの放射エネルギーは2x10の41乗 ワット(20×1億×1億×1億×1億×1億ワット)です。このようなクエーサーは宇宙で最も明るく輝く天体とされています。
まとめ
・我々の太陽はいずれ白色矮星になる
・太陽の8〜30倍の質量の恒星は中性子星となる
・太陽の約30倍以上の恒星はブラックホール(BH)となる
・太陽の数十〜数百倍の重さのBHは暗黒で直接見れない
・太陽の数百万倍のBHでは周囲に降着円盤が見られる
・太陽の数億倍以上のBHでは巨大な降着円盤が強い光を放射する
・超巨大BHと周囲の光を放つ構造はクエーサーと呼ばれる
・最新のクエーサーの明るさは太陽の500兆倍(!)
・宇宙一明るい光を放つ天体の中心は実は超巨大BHである
・増大し続ける暗黒
ブラックホールは基本的にあらゆる物質を吸収し続けます。そしてその質量はどんどん大きくなっていき、さらに光が抜け出せない範囲を広げていきます。ブラックホールとブラックホールが衝突してもさらに大きなブラックホールとなるだけです。我々の想像ではブラックホールが巨大になればなるほど暗黒が広がり、いずれは宇宙もブラックホールに飲み込まれるという終末が考えられます。しかし実際はどうでしょうか。
・暗黒が光に転じる
巨大化したブラックホールの周りには光(降着円盤)が現れてきます。暗黒の重力がさらに巨大になると降着円盤の物質にも速度とエネルギーが与えられ、より強く光を発します。そして暗黒の質量以上に強力な光を発生させます。最終的に暗黒は光に包まれ、宇宙一強い光を放つようになります。
宇宙には均衡があり、光と闇の相互関係は常に変動しています。どちらかだけで宇宙が支配されることはありません。光が強くなり優勢になると、ある時点で闇が逆転し優勢になります。しかし闇が優勢で支配的になったとしても、それを覆い尽くす強力な光が新たに生み出されます。これは形のある自然物理の世界も、形のない形而上学の世界でも同じ法則が成立すると言えます。全ての状況は常に変化し続け留まっているものはありません。二つの世界/二つの極性をよく認知し、物理次元の世界と形而上学的世界の理解を深めつつ、世界に光がもたらされることを瞑想していきましょう。
(著者:野宮琢磨)
野宮琢磨 Takuma Nomiya 医師・医学博士
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。
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