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無限の恩恵:太陽のエネルギーシステム

今回は最も身近な天体「太陽」に注目していきます。太陽は誰もが毎日目にしている最も身近な天体で、人類が誕生するよりも前から地球に無限の光と熱エネルギーを与え続けてきました。地球に生物が存在できるのも太陽の光があることが大前提と言えます。地球は「奇跡の惑星」とも呼ばれていますが、太陽も実はただの「燃えている星」ではなく非常に精密に調整された奇跡の星と言えます。今回は一歩進んだ太陽の仕組みついて解説していきます。


・太陽の基本スペック(Speculation, *1, *2, *3)
表面温度:約5800度K (ケルビン)(=約5500℃)
半径:約70万 km (キロメートル)(地球の約109倍)
体積:約141京(1.41x10^18) km^3 (立方キロメートル)(地球の約130万倍)
質量:約1.99x10^30 kg (キログラム)(地球の約33万倍)
平均密度:約1.4 g/cm^2(地球の0.26倍)
光度:約3.86x10^26 W (ワット)

こちらが大まかな太陽の基本情報です。ご存知の方も多いと思います。

・太陽の断面図
一般的にはあまり知られていませんが、太陽の内側も地球の内部と同様にいくつかの層に分かれています。Figure 3に描かれているように中心には太陽核(Core)があり、その外側には放射層(Radiative zone)、その外側には対流層(Convective zone)、そして表面の我々が見える部分が光球(Photosphere)と呼ばれています。


太陽核(Core)は中心部から太陽の半径の20%程までの領域を占め、その外側の放射層(Radiative zone)は中心から半径の20%〜70%ほどの領域を構成し、その外側にある対流層(Convective zone)は中心から半径の70%〜100%までの領域を構成します。太陽の表面を構成する光球(Photosphere)は厚さは太陽半径の0.1%もありませんが、それでも300〜600kmの厚さを持つ構造です。


・太陽の内部の温度
太陽表面の温度は約6000度というのはよく知られていますが、内部の温度はどのくらいになるでしょうか。太陽の中心から表面までの温度のグラフがFigure 4に示されていますが、太陽中心部の温度は1500万度以上で表面の1000倍以上高温になります(*4)。そしてグラフを見るとわかるように、10000度以下なのは太陽の表面のみで内部はほとんどが10万度以上の高温になっています。

・太陽内部の状態=第4の状態「プラズマ」
私たちが住む地球の環境は通常1気圧 [1 atm]、室温20度程度 [約300 K]というのが自然な状態です。地球上の一般的な物質の状態は「固体 (Solid)」、「液体 (Liquid)」、「気体 (Gaseous body)」の3つの状態のいずれかに当てはまります。これに対して太陽の内部は温度10000度以上、気圧も10000 atm以上の環境です。このような高温状態では原子の運動が激しすぎて原子核と電子がバラバラになってしまいます (Figure 5)。

このような状態は固体/液体/気体のどれにも当てはまらない第4の状態「プラズマ (Plasma)」と呼ばれます。非常に高温の状態や一定の条件下では物質はプラズマ状態となり光を放ちます。身の回りでは炎の内部や蛍光灯でその現象が見られ、自然現象ではオーロラがプラズマ発光現象として知られています。


・太陽はどのようにしてエネルギーを生み出しているのか?
太陽は核融合によってエネルギーを産生しているということはよく知られていると思いますが、その主な反応は陽子ー陽子連鎖反応(Proton-proton chain reaction, *5)と呼ばれています。実際にはFigure 6Aに示すように陽子(1H: 水素原子核:proton)と陽子が核融合を起こして重水素(2H: 1個の陽子と1個の中性子が結合した水素、Deuterium)が生成されます。このとき同時に1.442 MeV(メガ電子ボルト)のエネルギー(光子:photon)とニュートリノが放出されます。

さらに重水素(2H)は陽子と核融合してヘリウム-3(3He:通常のヘリウム4より中性子が一つ少ない)を生成し、5.494 MeVのエネルギーが放出されます(Figure 6A中段)。そしてヘリウム-3が2つ反応するとヘリウム原子核(4He)と2個の陽子(1H)が生成され、同時に12.86 MeVのエネルギーが放出されます。

このようにして4つの陽子から1つのヘリウム原子核が生成される核融合反応によってエネルギーが生み出されていきます。この反応が我々人類が太陽から得ているエネルギーの中心部分です。他にもエネルギーを産生する反応が多く存在しますが、ここでは主となる反応以外は省略しています。


・太陽は大爆発しないのか?
太陽が「核反応」でエネルギーを産生していると聞くと、「反応が一気に加速して大爆発を起こさないのか?」と考える人もいるかもしれません。そこで太陽の核反応のサイクルについて説明します。

Figure 6Bが太陽の核反応のサイクルです。図の上部のように「核融合が起こりエネルギーが産生される」とします。すると次のステップとして「温度の上昇/圧力の上昇」が起こります。それによって「太陽内部の体積膨張(Volume Expansion, Figure 6B bottom)」が起こります。そうすると膨張によって「温度の低下/圧力の低下」が起こります。すると「温度の低下」によって「核反応が抑えられる」という「負の調節(Negative Feedback)」が働きます。

このサイクルをまとめると「核反応が進むと膨張によって温度が下がり核反応が抑えられる」、「核反応が抑えられると膨張が少なく温度低下が抑えられ、核反応が進みやすくなる」という具合に「核反応が進みすぎると抑制も大きくなり、核反応が少ないと抑制が少なくなる(反応が進む)」という絶妙な調節機構が働いています。ですので“太陽は核反応制御システムによって安全に維持されている(安全機構1)”と言うことができます。


・太陽は燃え尽きてしまわないのか?
太陽が放出するエネルギー(382x10^24 J/s)は1秒間にガソリン 5000兆リットル以上に相当します。「それほどのエネルギーを毎秒放出していなら太陽のエネルギーが枯渇してしまうのでは?」と心配になる人もいるかもしれません。それについても解説していきます。

太陽の核反応率(Nuclear reaction rate)は実はそれほど高くない、と言えます。Figure 7Aに重水素(2H: Deuterium)や3重水素(3H: Tritium)の反応率と温度の関係のグラフを示しています。このグラフでは横軸(上辺)に温度が示されていますが、太陽中心部の温度は1500万K以上の高温といえどもこのグラフでは左端の低い部分に該当します。

グラフでは太陽の核融合で出てくる重水素や3重水素などの反応率が示されていますが、縦軸の「反応断面積 (cross-section)」を見ると“10^-32 (10のマイナス32乗)”を下回り、反応率は非常に低いということが分かります。実際は陽子(H: 水素原子核)が反応する割合は太陽中心部でも“毎秒10^18個に1個”ほどの割合になります。

太陽の中心部は1570万度K、圧力は2400億気圧という高温・高圧の環境なのになぜそれほど核反応率が低いのか、という点を説明します。Figure 7Bが陽子(水素原子核)が近づいた時の様子です。太陽内部の原子は“プラズマ状態 (*6)”であるため電子と原子核はバラバラで原子核もむき出しの状態で存在しています。そうすると陽子はプラスの電荷を持っているため、ある程度の距離に近づくと「電磁気力によって反発する力」が働くためぶつかることができません。“物質に作用する基本的な力”について詳しく知りたい方は過去の記事(*7)を参照してください。

以上のような核反応率から計算すると太陽の寿命はおよそ100億年と推定されています。誕生から約46億年とされていますが、枯渇する心配は全くなさそうです。このようにしてみると、「太陽は核融合の点から見ると反応率の低い温度帯で活動している」「太陽は低い反応率で高効率にエネルギーを産生している」「太陽は安全・省エネルギーの核融合炉」と言うこともできそうです。


・太陽核のエネルギーは強すぎて地球に害はないのか?
核融合反応の中心である太陽核(Solar core)では常に膨大なエネルギーが産生され続けています。ここで産生されるエネルギーはFigure 6Aにあるように1〜10MeV(10,000,000電子ボルト)の高エネルギーです。太陽光の中でエネルギーの強い紫外線(UV)のエネルギーが1〜10 eVほどなので中心部の光のエネルギーは100万倍以上強いことが分かります。もしこの強さの光が地球上に降り注いだら数日のうちに生命が絶滅するほどの強さです。この問題はどうなっているのでしょうか。

まず“プラズマ状態”ではFigure 5左のようにエネルギー(光:photon)は原子核や電子と干渉するためまっすぐに飛ぶことができません。中心部で発せられた光子(photon)が太陽半径の70万kmを横切って太陽の外側に出ようとする時、単純に直進した場合は約2秒で表面に到達することができます。しかし、実際はさまざまな粒子とぶつかり合ってランダムに方向が変わるのでFigure 8左のように表面にいつ到達できるかわかりません

ランダムに跳ね返るのでいつまで経っても表面に到達できない光子も存在すると考えられます。これをシミュレーションして、太陽中心部で発生した光子が太陽表面に到達するのに必要な時間を計算したものがFigure 8右のグラフになります (*8)。グラフの左端(太陽中心)からグラフ右端(太陽の外縁)に至るまでの時間が縦軸に示されています。これによると中心部の光が表面に到達するまでの時間は約20万年(!)かかると計算されています。これによって「太陽中心部の非常に強いエネルギーが直接表面に到達することはまずない」と言えます。

そして、もう一つの壁は太陽表面の「光球 (Photosphere)」という層が障壁になります。この層は先述のように温度は約6000Kと内部に比べると非常に低い温度に抑えられています (Figure 8左)。そして太陽の半径からすると0.1%にも満たないですが、厚さ300〜600kmもあり内部から来た高エネルギーの光子を遮るには十分な厚さです。このような機構によって「中心部の強力なエネルギーが外部に放出することを防ぎ」「地球に生命が存在できる適度な温度と光を提供する」ことが可能となっています。


・太陽の特徴まとめ
 ・表面は約6000度Kだが、中心部は1500万度K以上
 ・直径は地球の約100倍、質量は約33万倍
 ・主な反応は陽子ー陽子連鎖による核融合
 ・1つの核融合から1M(10^6)eV以上の高効率エネルギー生成
 ・核融合は「負の調節」によって安定(安全機構1)
 ・核融合的には「低温稼働」で安定(安全機構2)
 ・核反応率は非常に低い確率(省エネルギー機構)
 ・プラズマ状態で高エネルギーが直接外部に出て行かない(安全機構3)
 ・表面のPhotosphere層によってさらに強放射線を遮断(安全機構4)
 ・太陽の寿命は約100億年(超持続型燃料炉)

改めて太陽がエネルギーを生み出している仕組みを知ると、ただ燃えているだけでなく「核融合による高効率なエネルギー生成機構」「大爆発を起こさない安全機構」「100億年持続可能な省エネルギー機構」「地球の生命に安全な出力調節機構」が極めて緻密にバランスを保っていることが分かりました。


・人類の文明や文化における太陽の影響
これまでさまざまな文明が発見されてきましたがどの文明においても太陽が壁画や遺跡に描かれています。自然が中心であった古代文明において太陽の影響は今以上に大きかったと言えます。人工物が少なかった当時は目印となるものとして太陽の方角や太陽の高度などが場所や暦を決める重要な基準であったことが過去の資料からも分かります。そして太陽は占星術や他の占術においても重要な意味を持っていることは言うまでもありません。

・太陽が人類にもたらしたもの
文明的な影響以前に、太陽が無ければ赤外線が地球に届かず熱がありません。マイナス200度以下の極寒の星で生命が誕生していなかったでしょう。また、光も無いため昼も夜もない暗闇の惑星であっただろうと考えられます。それを言うと、そもそも太陽の重力が無ければ地球の材料となる物質が集まらず地球という惑星すら誕生していなかったことになります。それらを考慮すると、温度・光・大地・大気・あらゆる生命全てが太陽の存在のもとに維持されていることに気付きます。


・太陽の役割
これまで非常に科学的な視点で太陽の構造/核融合反応/安定して持続する仕組みなどを詳細に見てきました。太陽は宇宙誕生から星や銀河が形成される過程において純粋な自然現象で形成された恒星の一つです。純粋に宇宙物理学や量子力学の法則に従って形成された自然の天体です。しかしながら、核反応の安定性や恒常性、出力の制御、生命体に対する安全機構が偶然とは考えにくいほど緻密に制御されています。

科学的ではない視点から考えると、「太陽は生命体が生存できる環境を維持するために存在するのではないか?」と思えるくらい精巧な調和が取れています。もちろん、上のグラフで示したように「陽子同士の核反応」「光の性質」「気圧と熱の関係」等々全ては自然界の法則に従っています。しかし、「なぜその温度で核融合が起こるのか」「なぜ数千度で原子構造が保てなくなるのか」「なぜ電磁気力は重力より強いのか」「なぜ光に質量が無いか」「なぜ電子は陽子より小さいか」という点はこれ以上解明できない部分があります。

なぜなら「そういう自然界の法則になっているから」という部分はそれ以上解明しようがありません。では「その法則は誰が決めたのか?」「そのように宇宙を創造したのは誰なのか?」「この宇宙を創造した者がいるとしたら太陽を創りたかったのか、それとも人間を創りたかったのか?」という疑問が出てくるかもしれません。その疑問は科学の領域では扱えません。なぜなら「物質によって物質を解明する学問が形のあるものの学問、すなわち形而下学=科学」であるため形ができる前のことは扱えないからです。宇宙ができる前、すなわち「形ができる前、形のない領域」を扱う学問である形而上学(けいじじょうがく)の領域になります。

科学を基盤とした考え方では「まず最初に太陽ができて偶然地球が形成され奇跡的に生命が誕生して人類が繁栄した」というのが通説かもしれません。しかし、形而上学的な視点では「まず宇宙という土台を創り、太陽を創り、地球という舞台を用意して、最終的に人間を創った」という見方もできるかもしれません。そして奇跡的な地球や人類の誕生も「シナリオ通り」なのかもしれませんね。


いずれにしても太陽はあらゆる神話に登場し神格化されている存在です。寿命があるとはいえ、人類の時間から見ると永遠と言えるほど永く地球を見守り続け、無限と言えるほど膨大なエネルギーという恩恵を与え続けてきました。「常に心に太陽を持て」というのは18世紀のアメリカの著名人ベンジャミン=フランクリン (Benjamin Franklin, *9)の言葉で「困難を予期するな。決して起こらないかも知れぬことに心を悩ますな。常に心に太陽をもて。」ということを伝えています。瞑想においても常に心の中に太陽や神格化された存在達を想い描いているならば一切の悩みは燃やし尽くされ、前向きな気持ちを燃やし続けられるかもしれませんね。

(著者:野宮琢磨)

野宮琢磨 Takuma Nomiya  医師・医学博士
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用:
*1. The Sun-factsheet. NASA. https://nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/factsheet/sunfact.html
*2. Eddy, J. A. (1979). A new sun: the solar results from SKYLAB (Vol. 402). Scientific and Technical Information Office, National Aeronautics and Space Administration.
*3. 太陽–Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/太陽
*4. NASA. https://solarscience.msfc.nasa.gov/interior.shtml 
*5. Proton–proton chain - Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Proton–proton_chain 
*6. プラズマ- Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/プラズマ 
*7. 宇宙の創造・維持に不可欠な“4つの力” https://note.com/newlifemagazine/n/n90c2cc2fab80 
*8. Mitalas R, Sills KR. "On the photon diffusion time scale for the sun" http://adsabs.harvard.edu/full/1992ApJ...401..759M 
*9. ベンジャミン=フランクリン-Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ベンジャミン・フランクリン
画像引用:
*a. Image by Amy Chandra. https://www.pexels.com/photo/boat-on-ocean-789152/
*b. Image by Kelvinsong. https://en.wikipedia.org/wiki/File:Sun_poster.svg
*c. Image by Tosaka. https://commons.wikimedia.org/wiki/File:太陽内部の放射層と対流層.PNG
*d. https://solarscience.msfc.nasa.gov/images/cutaway.jpg
*e. https://solarscience.msfc.nasa.gov/images/Dalsgaard1_T_vs_r.jpg
*f. Image by Sarang. https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/85/Fusion_in_the_Sun.svg
*g. Moser, K. Gaussian Processes for Emission Tomography at ASDEX Upgrade Gauss Prozesse zur Emissions-Tomographie an ASDEX Upgrade.
*h. https://ma91c1an.files.wordpress.com/2015/04/shamash-2.jpg
*i. Image by rawpixel.com. https://www.freepik.com/free-vector/vectorized-sun-with-face-design-element_25255895.htm#fromView=search&page=1&position=18&uuid=741e3015-2879-4032-9565-4da716c2d09f
*j. https://ja.wikipedia.org/wiki/ファイル:Mengs,_Helios_als_Personifikation_des_Mittages.jpg
*k. https://www.wikidata.org/wiki/Q239847#/media/File:Mahavairocana.jpg
*l. https://en.wikipedia.org/wiki/Solar_deity#/media/File:Ra_Enthroned_in_the_Tomb_of_Roy.jpg
*m. https://www.windows2universe.org/mythology/tonatiuh.html#google_vignette
*n. Image by Bruno Scramgnon. https://www.pexels.com/photo/silhouette-photo-of-a-mountain-585759/
*o. https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/b4/The_Sun_by_the_Atmospheric_Imaging_Assembly_of_NASA%27s_Solar_Dynamics_Observatory_-_20100819.jpg

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