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すみだ今昔さんぽ(中編)・・・楽員名鑑

新日本フィルハーモニー交響楽団のメンバーを、趣味やライフスタイルを通して紹介するnote。 2021年4月に入団したばかりのコントラバス奏者・原田遼太郎と墨田区の街を歩く、すみだ今昔さんぽ〈中編〉です!(前編はこちら
なんやかんやあったものの、無事に目的の江島杉山神社にたどり着いた2人。新日本フィルとも接点のある江戸時代の鍼灸師、杉山和一(わいち)さんについて、江島杉山神社宮司の田部さんにお聞きした、その続きからどうぞ。

天才鍼灸師、杉山和一さん

田部「今では主流になった管鍼法(かんしんほう)を編み出したり、世界初の視覚障がい者のための教育機関(※)を作ったり、和一さんの功績はもちろん素晴らしいんですけど、教え子たちもまた皆さん素晴らしくて、各地にその技術を広めてくださったんですね。
だから今でも、鍼の国家試験を受ける方が合格祈願に全国からいらっしゃいますよ。」

※杉山流鍼治導引稽古所という世界初の視覚障がい者教育施設が墨田区に作られたのは1680年前後。パリに同様の施設ができるのが、1784年のことなので、かなり早い段階で視覚障がい者の教育や社会進出に目を向けていたことが分かる。

腰野「今でもこちらに学校があるんですか?」

田部「もともと徳川綱吉公に頂いた3000坪くらいの土地(※)の中に、惣録屋敷(そうろくやしき)といって視覚障がい者の組合の事務局みたいなものがあったんです。それと一緒に、杉山流の稽古場を開いて鍼を教えていたんですけど、それを今から4年ほど前に復元して治療所を開きました。
研修生(資格をこれから取る生徒さんや、資格を取りたての方)も一緒になって、一般の方の治療もしていますね。」

※杉山和一さんはその腕前から徳川綱吉の施術も行っていたが、献身的な和一さんに感動した綱吉公は、褒美に何か欲しいものはないかと尋ねる。
「一つでよいから目が欲しい」と答えた和一さんに、綱吉公は”本所一つ目”という名の土地を与えた。という逸話が残っている。

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杉山鍼按治療所
〒130-0025 東京都墨田区千歳1-8-2 江島杉山神社内 杉山和一記念館2F
営業時間:10:00~17:00 (不定休)
詳細:http://www.sugiyamawaichi-hari9.jp/


芸術の神様、弁財天

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(古地図を見ながら)

田部「この神社のすぐ近くに隅田川が流れていますけど、隅田川の向こう岸は江戸で、当時はまだ橋がありませんでしたから”渡し”と呼ばれる船で行き来していました。その渡しの発着所が神社の近くにあったので、江戸からよく歌舞伎役者さんとか、花柳界の方々が、芸術の神様である弁財天様にお参りに来ていたようですね。」

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原田「私もよく公演で地方や知らない土地に行くと、弁財天を探してお参りしてます。ご利益にあやかろうと思って(笑)。
この神社は江ノ島神社の分社ですが、杉山和一さんと、弁財天である江ノ島神社とはどういったつながりがあるんですか?」

田部「色々な説があるんですが、目の不自由な方々の間で弁財天信仰が存在していたようなんですね。昔は目が不自由なことが理由で、希望する職にもつけなかったり、苦労が多かった。そういった方たちを弁財天様が救ってくださる、という信仰がどうやらあったみたいなんです。」

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田部「和一さんはある時有名な鍼の先生に『お前は不器用だからもう来なくていい』と破門されて落ち込んでいました。そしたらそこのお嬢さんに『江ノ島神社の弁財天にお願い事をすればきっとご利益があるから行ってみなさい』と言われて江ノ島神社に行った、と言い伝えられているんですけど……。
ここまでのお人が不器用というのは誤りなのでは、ということが研究されてる先生達の間では言われています。
教える側の先生も目が不自由でしたし、当時の鍼はガイドとなる筒を使わず直接肌に刺していましたから、なかなか難しかったみたいですが、和一さんの場合は、技術がありすぎてお前には教える事はもう無いということだったのでは、というのが最近の見方です。」

原田「西洋医学からしたら、鍼とかってかなりアナログというか、人間の”感覚”に頼る部分が大きいですよね。私たちよりずっと鋭い感覚を持っていらっしゃるんだろうなと思います。」

腰野「音楽界でも、目の不自由な方々はたくさん活躍されていますもんね。やっぱり感覚が違うんでしょうか。」

原田「見えるからこそ、聴こえるからこそ、邪心が生まれたり、考えなくてもいいことまで考えてしまったりする。和一さんのお話を伺いながら、音楽家としての覚悟を問われたような気がします。本日はありがとうございました。」


自分の感覚を研ぎ澄まして人々の治療を行っていた杉山和一さん。視覚障がい者が生きていく道を示し、術を授け、後世にまで残るシステムを構築した偉業は、この先も語り継がれることでしょう。

さて、後編は神社の散策と、
トリフォニーホールにいつもいる、あの”猫”が登場!?
お楽しみに!

江島杉山神社
JR両国駅西口より徒歩7分、都営新宿線森下駅A5出口より徒歩12分。
〒130-0025 東京都墨田区千歳1-8-2
詳細:http://www.ejimasugiyama.tokyo/

(文・腰野真那)


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腰野真那 (こしのまな/打楽器奏者)
群馬県出身。武蔵野音楽大学卒業。桐朋オーケストラ・アカデミー研修課程修了。2016年新日本フィルハーモニー交響楽団に打楽器奏者として入団。
これまで打楽器を久保昌一、関谷直子、坂本雄希、故・塚田吉幸、堀川正彦、松倉利之、宮崎泰二郎の各氏に師事。室内楽を中谷孝哉、吉原すみれの各氏に師事。現在オーケストラでの演奏を中心に、吹奏楽や室内楽、ソロでの演奏や後進の指導、司会者やライターとしても活動している。
好きな食べ物はチーズとラーメンとフィナンシェ。趣味はNHKの連続テレビ小説鑑賞。猫に目がない。
Twitter:@ManaKoshino

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