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“観客”から創造する小劇場演劇の新しいサイクル!!「カンゲキ大賞」の熱意と野望を中の人にお聞きしました…!

こんにちは。おちらしさんスタッフのしみちゃんです!

先日、結果発表を行った「おちらしさんアワード2023」では、たくさんのご投票をありがとうございました!!  発表にあたっても多くの反響をいただき、演劇・美術展ファン、そしてチラシファンの皆さまのパワーを今年もひしひしと感じています……!

さて現在、おちらしさんアワードと同じくファン投票のイベント、「カンゲキ大賞」をご存知ですか? 2022年版が初開催となり、現在は第2回の選考が行われている真っ最中です!!

こちらは小劇場大賞でもなく、演劇大賞でもなく「カンゲキ大賞」という名前であるように、投票はもちろん、企画の立ち上げから運営、表彰式に至るまで、すべてが観客の手によって行われています。しかも、大賞に選ばれた団体には、次回公演の劇場使用料の一部が贈呈されるんです!!

今回は「カンゲキ大賞」の運営メンバーである、仲瑞枝さん、Yu_Seさんにお話を伺ってきました!!

仲瑞枝
「カンゲキ大賞」発起人。ブランディングやアートディレクションなどの本業でのスキルを活かして、カンゲキ大賞における企画やデザインなどを担当。

Yu_Se
LINEを利用した投票システムの保守・運用など、エンジニアとしての知識を活かして投票システム部門の責任者を担当。


観客が“誰かにオススメしたい作品”を選ぶ「カンゲキ大賞」

しみちゃん 今日はよろしくお願いします! おちらしさんと同じく観客による投票イベントをされているとのことで、以前よりお話をお聞きしてみたいなと思っていました。「カンゲキ大賞」はどういったところから企画がスタートしたのでしょうか?

 「カンゲキ大賞」は、2021年夏ぐらいから準備をはじめて、「カンゲキ大賞委員会」として2022年に法人化をしました。その年の小劇場演劇からオススメしたい作品を選ぶという投票イベントも、同じ2022年にスタートしています。

しみちゃん 観客の集まりでありながら、法人化されているというのがまず驚きですよね。仲さんは発起人でいらっしゃいますが、どんな想いで始められましたか?

 「私たちが大好きな演劇は既に面白くて魅力がたくさんある。その魅力を伝える手助けしたい」ということと、「それによって新しい観客が劇場に足を運んで、日常の中に観劇の体験がある未来を作りたい」というビジョンで始めました。私は本業がデザインやブランディングを行う仕事なので、他にもステートメントやミッションなどをメンバーと3か月くらい考えて……。

しみちゃん すごいですね!!

 一度はもっと壮大な夢を描いたんですけど(笑)、私たちは単純に演劇のファンなので、観客という立ち位置でできることから考えていきました。

カンゲキ大賞の機関紙『Theatergoing』#001(2023年9月発行)

しみちゃん ファンから魅力を広めていくということですね。実はおちらしさんも2020年の8月号でスタートしてから、ほぼ100%と言っていいくらい口コミでサービスが大きくなっていて、熱い観客の皆さんからたくさんのお力をお借りしてきました。演劇ファンからムーブメントを起こしていくパワーというのは、とても大きいように感じます。

Yu_Se おちらしさんの場合、コロナ禍で劇場へなかなか行けないときであっても、観客の内側には熱量があったのでしょうね。

しみちゃん その通りだと思います。カンゲキ大賞の運営メンバーは、みなさん「観劇が好きなお客さん」なんですか?

 出入りがありつつ、10名ぐらいの運営メンバーは基本、演劇を観るのが好きなお客さんです。あとは元々は役者をやっていたり、劇団の制作をやっていたりと演劇に携わっていた人もいますが、やっぱり観客が多いですね。

Yu_Se 私も普段はエンジニアとして働いている観客で、2022年1月ぐらいにカンゲキ大賞の企画が立ち上がるということをSNSで知って、運営メンバーに応募しました。そのタイミングで入った人も結構多いです。

しみちゃん やっぱり月に何度も劇場へ足を運ぶような、シアターゴアーという感じの方が多いのでしょうか?

Yu_Se 意外とバラけていて、特定の劇団がすごく好きでよく行きますという人もいるし、私はどちらかというと小劇場から大きめなミュージカル作品まで、いろんな演劇をたくさん観たいタイプですね。

 年齢も20代から60代まで様々ですし、「観劇初心者です!」という人も、公演の情報やファン同士の繋がりを得たいという目的で参加している方も多いと思います。普段、運営のメンバーはオンライン上のツールでやり取りをしているので、私とYu_Seさんも直接会うのは今日が初めてです(笑)

しみちゃん 他にはなかなかない、とっても面白い集まりだと思います……! そんな運営の皆さんも含めた「観客」でオススメしたい作品を選ぶのがカンゲキ大賞なんですね。


小劇場は何とでもコラボできる柔軟な存在

しみちゃん 投票の対象を「小劇場」と区切っていること、投票する人が「小劇場」と思えばどんな作品でもOKという点もカンゲキ大賞ならではですよね。小劇場演劇ってどんな特徴があると思いますか?

Yu_Se 私の感覚ですが、小劇場演劇ってすごく曖昧で、何とでもコラボしやすいというか、音楽の要素を取り入れたり、お笑いの要素を取り入れたり、柔軟性や多様性がある芸術だと思うんです。大規模な演劇に比べてジャンルとして確立されていない、だからこそ裾野を広げられるポテンシャルのある舞台芸術だと感じます。

第2回「カンゲキ大賞」のノミネート12作品HPより

しみちゃん すごく面白い視点です。確かに他のカルチャーやエンタメの何とでも近くなれるし、混ぜられる。決まった形がないですよね。

 音楽が好きだったら、衣裳が好きだったらとか、演劇に入るきっかけってもう既にたくさんありますよね。その分、受け皿が大きすぎて、ひと言で形容しがたいから伝わりにくいっていうのもあると思うんですが、でもそのぐらい「小劇場」というイメージがひとりひとり異なるというのは面白いし、毎週、何十本も新作が観られるのはたぶん世界でも東京だけじゃないかな。規模やジャンルでも縛りを設けることは難しくて、選考規定を作る過程でも「何を小劇場演劇とするか線引きはできない」という結論になりました。

しみちゃん お二人は小劇場演劇をどこからお好きになったんですか?

Yu_Se 私は大学時代に音響のスタッフをやっていたことが、演劇との繋がりのスタートでした。学生のころは他の団体をなかなか観に行けなかったのですが、社会人になってから金銭的にも少し余裕ができて、「ちょっと観に行ってみようかな」と思ったときに出会った作品がすごく面白くて。そこから東京にはそういう団体がたくさんあるんだと知ったことがきっかけです。役者さんの一生懸命な姿には胸を打たれますし、感想をSNSで呟くとリアクションがもらえる近さも、どんどん小劇場が好きになっていった一因だと思います。

しみちゃん 私はどちらかというとグランドミュージカルや商業演劇から舞台が好きになって、小劇場も観るようになったタイプなんですが、コミュニティが強い印象はとてもあります。お客さん同士も、劇団との距離も、小劇場はとても近いですよね。

 私は演劇をやっていた経験はなく、子どものころからモノ作りにしか興味がなかったんです。映画を観たり、音楽を聴いたり、展覧会に行ったりというのとまったく同じ感覚で、週末の予定に観劇があるような感じ。小劇場が好きになったのは、高校・大学ぐらいのときにシベリア少女鉄道や大人計画の公演を観たのがきっかけですね。自分の記憶の中で、自分が体験したんじゃないかというぐらい持ち帰るものが多くて、引きの構図を観る大きな舞台とは違った没入感が小劇場ならではだと思います。今でも小さい劇場のほうが好きですね。


“選ぶ”からには信頼される団体でありたい

しみちゃん 私は今年初めて一般投票で「カンゲキ大賞」に参加したんですが、10章に渡る選考規定から投票システムまで、ものすごく精査されて整っていますよね。びっくりしました!

 立ち上げ時、組織づくりはもちろんですが選考規定作りは当時のメンバーと注力しました。例えば会員が100人、1000人と増えていっても破綻しないように選考規定は作っています。

しみちゃん そこを整えようと意識された理由はあるんですか?

 賞を行うにあたっての使命感と言うか、できるだけ清く正しくありたいという想いですね。大賞を1つ選ぶということはそれ以外を選ばないという功罪があると思うので、可能な限りはちゃんとやろうと。観劇者の団体なので、人一倍、骨組みはきちんと作る。それを分かりやすく伝えるようにしないと信用がついてこないと思っています。

しみちゃん 法人化もそういった背景があるわけですね。演劇ファンの人がこれだけの熱量を持って、実際に動かれているというのは、本当にすごいことだと思います。LINEアカウントを通した投票方法は、Yu_Seさんが作られたんですよね?

Yu_Se 投票システム自体は、第1回カンゲキ大賞で前任の方が開発したもので、第2回カンゲキ大賞では投票用の一時的なLINEアカウントから、公式LINEアカウントへ連携先を変更しました。その際、エンジニアとしての知識や技術が必要で、「カンゲキ大賞」としても注力した部分ですね。

 LINEだと電話番号に紐づいていて無作為に複数投票ができないので、クリーンにやろうとした結果、そうなりました。

しみちゃん 運営の皆さんのお仕事やスキルが生かされているとは、素晴らしいです! 観客の集まりだからこそ、それぞれの背景が異なって、演劇の外側にあるテクノロジーやアイデアまで持ち寄ることができるのだろうと感じます。一般投票と会員投票からノミネート10作品が選ばれて、さらに選考委員が最終選考を行うというプロセスについてはいかがですか?

 一般投票の上位3作品と会員選考の上位7作品、合計10作品がノミネートされます。それぞれの投票は絶対に混ざらないので完全に2階建ての構造です。そのせいかそれぞれ上位に来る作品の毛色が全然違うんですよ。一般投票は「そもそも小劇場演劇が好きな人って何人いるんだろう?」という分母を知りたい、統計的に一番大きいデータを知りたいという目的や、無料で参加できるのでこの投票に誘うことで小劇場を知ってもらうという宣伝の役割、そして何より大勢で楽しめるお祭りを作りたいという想いを込めて行なっています。

「カンゲキ大賞」の選考プロセスHPより

Yu_Se 昨年の第1回でも、一般投票は思っていたのとまったく違う団体や、自分は知らなかった団体も上位に入っていて、ほかの演劇賞とはまた違ったところに光が当たったように感じますね。予想外だったけれど、これもありだなと実感しました。

しみちゃん なるほど。「カンゲキ大賞」に投票することが、「私も演劇ファンだよ!」とか「こんな劇団があるよ!面白いよ!」と手を挙げることになるわけですね。

 劇団の主宰さん同士でも、「こんな作品をやっているんだ!今度観に行こう!」「観に来てください!」といった交流が生まれたと聞いています。

しみちゃん SNS上でも団体さんが「カンゲキ大賞」というお祭りに乗っかるような形で、盛り上がっているのがとても素敵だなと思いました!

第1回「カンゲキ大賞」授賞式の様子
大賞に選ばれたのは、
mediterranean lily and fever『7DAYS-特殊能力捜査班-』


観客が盛り上げ、広げていくプラットホームへ

しみちゃん 最終選考の討論会も、熱量の伝わってくるレポート記事がすごく面白かったです。演劇を好きな人だけが集まって、ここが良かったね、あれは○○だったねと10作品について批評的に話す機会ってなかなかないじゃないですか。

 選考委員は会員からの挙手制で、任期は1年です。去年は60代から大学生まで、男女比も半々の6名が務めていました。小劇場が好きな方から、もうちょっと大きな劇場でも観ている方まで、割と好みも満遍なくでしたね。いろいろな人のいろいろな観点での感想を、劇団の人に届けたいと思っているので、私見を述べる討論の機会を設けています。

第1回「カンゲキ大賞」最終選考会

しみちゃん 大賞が決まる最終選考での投票とは分けて、ということですね。海外だと劇場近くのパブで感想を話すような文化もありますし、劇評もたくさん出ていますけれど、そんなところにも通ずるなと思いました。

 様々な演劇の好みを持っている人たちが、それぞれに思う魅力を伝えていくことで広がっていくと思うんです。「カンゲキ大賞」の会員が小劇場界の観客の縮図といえるような、会員の中での多様性もどんどん増えてほしいし、みんなのオススメを持ち寄ってもっと盛り上がったらいいねという想いですかね。

Yu_Se 「カンゲキ大賞」の公式LINEでも、会員が観た公演やこれからのオススメを共有する投稿を最近始めました。演劇はアーカイブ性のないことが特性でもあるけれど、だからこそ波及しづらさもあって、「こんなに面白いけれどみんなは知らない」という部分を補えるプラットホームになれたらいいですよね。

 賞を行うという背骨ができるまでは、と第1回の賞選考終了までわざと控えていたのですが、昨年の11月には「シモキタ映像演劇祭」という公演の記録映像の上映会を行ったり、今年の2月にも誰でも参加ができる交流会を行ったり、そういったイベントも計画しています。「演劇と未来の観劇者との架け橋となる」というミッションを持って裾野を広げる活動をするという、目指しているところはずっと同じです。たぶんサッカーで言う、サポーターが担っている役割ですね。

しみちゃん スポーツはサポーター同士のコミュニケーションや交流が熱いですよね。いくら演劇が好きでもどうしても自分の好みや知っている範囲だけの話になりがちなので、「カンゲキ大賞」によって外からたくさんの刺激をもらえるというのは新たな出会いに繋がると思います。

 小劇場は役者さんや劇作家、演出家、スタッフの方々が育っていく根源でもあるのでそこを絶やしてはいけないと思いますし、小劇場演劇という代替のないエンターテインメントを盛り上げたいという仲間が増えて行ったら嬉しいです。将来的には「カンゲキ大賞」が全国規模になって、エリアごと支部ができたり、各地域間の交流が生まれたりしたら良いなとも思っています!


\いよいよ来月、2023年の大賞が決定/
「カンゲキ大賞」では会員・運営メンバーを募集中!!

大賞にはこだわりにこだわられたトロフィーも授与されます!!!

〈今後の「カンゲキ大賞」スケジュール〉
2024年3月1日 ノミネーション作品発表
2023年12月から行われた、一般選考、会員選考で上位となったノミネーション作品が発表されました!
4月中旬 最終選考会・結果発表
選考委員がノミネーション作品から大賞を決定。選考結果は選考会当日に、カンゲキ大賞ホームページおよびXアカウントで発表します。
●5月上旬 表彰式
大賞となった団体を表彰。正賞としてトロフィーが、副賞として次回公演の劇場利用料の一部、もしくは現金が贈呈されます。

詳しくは特設ページ・公式X(旧Twitter)をご覧ください!
特設ページ:https://kangeki-award.com/2nd-2023
公式X(@kangeki_award):https://twitter.com/kangeki_award


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