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#21 メンタル不調を克服するためには?認知の歪みを治せる?【ニューロ横丁7軒目:メンタルヘルス③】

 社会人として働く上で、もしメンタルが不調になってしまったら、その後はもう働くことはできなくなってしまうのでしょうか?

 一度メンタルが弱ってしまうと「一生そのままだ」「働けなくなってしまう」と、思われがちですが、実はそれもスティグマの1つです。

 実際は、本人の症状が軽くなれば働くことができ、例えメンタルの問題を遺伝的に、環境的に抱えてしまっても、社会復帰は可能であるという話をしていきたいと思います。

今のままではメンタル不調の人が職場復帰は難しい?

 これまでも何度かお話をしてきましたが、メンタルに問題を抱えやすい人は、とても優秀な人が多いです。だからこそ不調になりやすいという、サラブレットのような一面を持っていますが、そのような彼らが「病んでしまったら一生終わり」という社会は、働く彼らも優秀な人材を失う会社も、双方もったいないと思います。そこに、医学やテクノロジーが、役に立つことができると良いですよね。

 例えば鬱などで一度休職をすると、症状の重さによっては会社にとって、生産性が下がってしまいます。しかし裏を返せば、症状が改善すれば、生産性は戻ってきます。先ほども述べたように、彼らは元のレベルが高い人たちのため、症状を改善させる取り組みは、社会にとっても有意義なことだと思いませんか?「天才だから何もやりません〜」というような人よりも、メンタル不調の人を復活させる方が、何倍も生産性が上がるような気もします。

 「復職支援プログラム」という、職場復帰に向けたリハビリテーションを行う機関があるのですが、これには効果がある、効果は少ないと様々な意見が出ています。政府としての取り組みもあるのですが、これを導入している日本の企業は4分の1ほどで、メンタル不調の人を、もう一度職場復帰させるような体制が整っていると言えるような状況ではないと感じます。

 また、復職支援プログラム自体も、「なぜメンタル不調になってしまったのか」というような、原因分析がメインで、それを行うことにエビデンスや効果があるのかということが、そもそもの問題として挙げられます。メンタル不調の人たちが社会復帰を果たすのに、制度として、まだまだ改善できる点が数多くありそうなのが現状です。

ネガティブ思考を断ち切る新技術とは?

 この分野に関して、ニューロテクノロジーを1つの解決手段とすると、ニューロフィードバックを使った、科学的な認知行動療法が提案されてきています。実際に鬱に対してのエビデンスがいくつか出てきています。

 鬱が深刻な人の特徴として、「反芻思考」というものがあります。これは「私は無能な人間だ」というようなネガティブ思考を、本人の意思では止めたくても止められず、無限にループしてしまうことです。それは、脳の中で行われていることであるため、勝手に湧き出てしまう思考なのです。

 みなさんのなかにも、落ち込んだ気持ちの時に、ネガティブな考えや嫌な考えが、ずっと頭から離れなくなってしまう経験をしたことがある人もいるはずです。そのような反芻思考が止まるように訓練をすることが、ニューロフィードバックを使ってできるようになってきています。

認知の歪みを矯正してメンタル不調を克服!

 他にも、ニューロフィードバックを使って、認知の歪みを治せるのではないかという研究をしたチームがあります。

 認知の歪みとは、例えば10人中全員があなたのことを「可愛い」と言ってくれているのに、あなただけは自分のことを可愛いと思えないというようなことです。目に映る対象は全員同じはずなのにこのようなことが起きてしまうのは、脳の認知能力に歪みがあるからなのではないかと言われています。

 この研究の中で、被験者には「建物の写真」と「怖い顔をした人の写真」を50%ずつ重ねて見せます。そうすると、健康な人は、建物を見ようと思えばそれが目に入るし、人の顔を見ようとすれば見ることができるというように建物と人の顔の両方を認識することができます。

 しかし、ネガティブモードに入ってしまっている人は、ネガティブな情報しか捉えることができません。これを矯正させるために、この人が建物を見ている時と、人の顔を見ている時の脳活動を学習させると、脳情報を読み取るだけで、建物と人の顔のどちらにアテンションが向けられているのかを、解読することができます。

 そのため、50%ずつの写真を見ている時に、「建物を見ている時の脳活動を起こしてみましょう」と言われると、ネガティブな情報が頭には入ってきてしまうのですが、頑張ってそれを矯正して、だんだんニュートラルにその写真を見れるようになってくるのです。

 そのような世界のものの見方や、その人の心の特性のようなものを、ニュートラルに治していく技術は、今までにない新しいものであるため、私たちも注目しています。

 醜形恐怖や神経性痩症なども、自分自身に対する見方を、このようなニューロフィードバックで、脳の中のネットワークを中立的にしてあげることができたら、本人も少し楽になるのかもしれません。

 あるいは、復職したいと思っている人たちが、復職に対して持っている歪んだ考えをトレーニングで治していくことができれば、彼らがまた活躍できる可能性も大いにあると思っており、そのようなプロジェクトを立ち上げたいと思っています。

まとめ

 私たちの5人に1人が精神障害を経験する中で、みなさんが当事者であるか、また周りにそのような人がいるか、ほぼ100%の確率で関わっているでしょう。それにもかかわらず、なぜメンタル不調で本人も周りも苦しんでしまう状況が変わらないのでしょうか。

 最近は多様性が正義で、ウェルビーイングをしていきましょうというようなものが多いように感じます。しかし、自分にメンタルの不調がきている時は、みんながウェルビーイングを上げて行きましょう!と言っているのに、自分はこんなにも低くて、欠陥のある人間なのではないかというように思えてきてしまいます。

 また、ある程度メンタルに対して知識のある人でも、周りにメンタル不調の人がいると、頭ではわかっていても、甘えなのではないかと感情で湧いてきてしまうこともあります。そのようなメンタル不調を抱えている自分に対して絶望したり、メンタル不調を抱えた他人に対してもネガティブに思ってしまったりなど、とても生きづらい世の中なのです。こんなにも身近なことなのに、生きづらさやモヤモヤした感情は、自分自身やメンタル不調の人に対してのスティグマでもあります。

 しかし、メンタル不調は、人間が進化してきた中で、共存してきたものでもあるため、うまく付き合っていくしかないというのが今の私の考えです。

 メンタルの不調は、頭で「サラブレットのようなものか。たまに骨が折れる時もあるよね」とわかっていたところで、スッキリするような、簡単な問題でもありません。心の脆弱性が仕事において、優秀さを発揮する点があるからと言って、必ずしもその病気を全て受け入れろというのも違うと思います。

 そのような意味では、メンタルの回復を望む人にとって、ニューロフィードバックのように、少しでも楽になるような努力が、「手段」としてある世界が良いと思っています。今でこそ私たちは、周りに目を向けて真実を見て、より良い技術を使って世界を変えていこうというチャンスが与えられていると思うので、私も一緒に頑張って行きたいです。

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