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松陰神社前の「100人の本屋さん」を取材しました!

1人当たり約30㎝四方のスペースを借りて、様々な方々がマイクロ書店のオーナーになることができる棚貸し書店「100人の本屋さん」。世田谷線・松陰神社前駅から約50歩と好立地!コワーキングスペースやイベントスペースもあります。名前の由来、お店の成り立ち、お客さんや棚主さんの声などを伺いました。(取材日:2023年2月9日)

100人の本屋さん 店主 吉澤 卓さん
ねつせた!メンバー りお、にわ

100人の本屋さん?! 100人の店主?!

にわ まず、お店の名前の由来について教えて下さい。

吉澤さん 棚貸し書店を始めようと思ったときに、相談をしたメンバーが「100人の本屋さん」というアイデアを出してくれました。そもそも名前にそのまま「本屋さん」とつける発想がなくて、でも、柔らかい響きが心地よくて、とてもよいアイデアだと思ったんです。人それぞれ考え方は違いますが、私は図書館よりは本屋さんのほうが敷居の低さがあるような気がするんです。
 店内には合計162個の棚があるんですが、1番上の方は高さがあって取りにくいし、皆さんが手が届きやすいところにだけ番号をつけたら、108個番号がついたんです。とはいえ、108というのは色々思わせぶりな数字なので…(笑)、大体100。ということで、「100人の本屋さん」になりましたね。

にわ 「とてもユニークでキャッチーな名前!」と、メンバーとも話していました(笑)。
この本屋さんのコンセプトは何ですか?

吉澤さん 当店は「本×人」「本×地域」というのを大切にしています。ねつせた!でも世田谷で活躍している人を取材されることがあると思うんですが、地域にはどんな人がいるのかって、なかなか知られていないと思うんですよね。なので、本を通じて地域や人のことを少しでも知っていただける場にしていきたいと考えています。

あなたの家の近くにも「棚貸し書店」があるかも?

にわ 持ってきた本の値段を自分でつけて良いことになっていますが、その考え方はどこから生まれたんですか?

吉澤さん もう既に棚貸し書店を始められている方の運営方法を参考にさせていただきました。

りお 確かに、他にも棚貸し書店をやっているところがあると聞いたことがあります。

吉澤さん けっこう全国にあって、私が参考にさせていただいたのは、吉祥寺のブックマンション(BookMansion)🔗」さんです。あと近くだと、渋谷ヒカリエ8階にある渋谷〇〇書店🔗」さんは、最近西武百貨店の地下1階にも支店ができたと聞いております。世田谷区だと、下北沢にあるBOOKSHOP TRAVELLER🔗」さんは、もっとずっと前からあるんです。

にわ 本当にいろんな場所にあるんですね!

吉澤さん そうですね、興味がある人は1ヶ所でも2ヶ所でも他所も行ってみることで、それぞれの良さが見えてくると思います。
 ちなみに、「渋谷〇〇書店」さんとここの両方の棚を借りている方もいらっしゃるくらいです。
 私自身もいろいろ見て回れているわけではないものの、違いがあって面白いですね。棚貸し書店は場所によって棚主・お客さんの顔が違うんですよ。

りお 書店ごとに雰囲気が違うのは面白いですね。

小売店に”お金を落とす”ということ

にわ 購入されている方や、お店にいらっしゃる方はどういう方が多いですか?

吉澤さん 若い方が多いですね。階段があるので、ベビーカーで一緒に来ている方やシニアの方は上がりにくいことがあるのが少し悩みどころです。
 松陰神社前はセレクトショップのようなお店やカフェが増えているので、平日に来られる方は、目的としているお店があって通りすがりに寄って下さることが多いです。

にわ そういう時間の使い方、憧れます…!

吉澤さん ただ、残念なことに”見るだけ見て帰っちゃう”方もけっこういらっしゃって…。「買わないと帰れません」とは言えないですが(笑)、面白い本があったら何か一冊ぐらい買っていくような関係になると良いなと思っているんです。棚主さんもわざわざ棚を借りて下さっているし、「本を買う」ということをしていただかないと場所を続けることが難しくなります。
 書店は大小問わず縮小したり減ったりしてきているし、最近は電子書籍やネットショッピングもあって便利ですが、本屋さんでしか体験できないことがあると私は思っています。例えば、置いている本のレパートリーや並べ方から人の個性が垣間見えたりなど、いろんな気付きがあると思うんです。

古本チャリティ募金

りお そういえば私も、ここ最近スマホで情報を得ることが多く、中高生の頃より本を読むことが減ってしまっているので、お話を伺って本や本屋さんの良さを振り返させられます…!

吉澤さん 本屋さんに限らず、小さなお店がどうやって維持されているか、想像していただけたらいいなと思います。私のことはさておき、お店があることは”社会資源”だと思うので、商店街で八百屋さんなどを営んでいる人には感謝しているんです。また、世田谷区は決して家賃も安くはないし、小売店は売り上げが全ての世界なので、願わくば「お店をやっていてくれて良かった!」と思っていただいた方には何かご購入いただけると嬉しいです。このお店の場合は、やはり本が売れると棚主さんが嬉しく思うし、お客さんには”参加”していただくきっかけになると思っています。ここでいう”参加”とは、少しでもお金を落としていただくことで、お店の存続・持続性に貢献し、それが商店街の賑わいに貢献し、ひいては街の持続性に貢献するというサイクルに参加する、ということです。

りお 確かに、商店街ではお金を落とすことが重要だと聞いたことがあります。私もお金の使い道をもう一度考え直してみたいと思いました。
 周りを見渡すと、多くの本があるようですが、お店に来られる方はどうやって本を選んでいるのでしょうか?

吉澤さん どうなんでしょうね…。ここは順番に並んでいるわけではないので、理路整然とした空間で「こういう本が欲しいんです!」と探している人はあまりいないです。逆に、「並びがバラバラだから丁寧に見ちゃいました」という声をいただいたこともあるくらいで。
 1個1個本棚を見て「この本棚は、自分の考え方に似ているな」と思いながら本を選んでいるように見えます。というのも、1つの本棚から2冊3冊と買っていく人が多いんです。波長的に興味・関心が重なっているから複数購入をされているのかもしれないですが、棚主がその場にいるわけではなくても心が通じているような気もしますね。

にわ お客さんとは、何か話されたりしますか?

吉澤さん 「仕組みが面白い」というお声が多いですね。もちろん古本巡りが好きな方に来ていただくのも良いのですが、ここって一軒ポツンとあるだけなので、もっと周知するためには、その面白いと思っていただいた仕組みを発信したり、世田谷の面白い本屋さんの場所をマッピングしたりしていく必要があると考えています。
 例えば、ここから最近話題の世田谷代田まで、どの交通手段でも30分弱かかるんですよ。多くの場合、電車に乗るんですが、たまに歩きたくなることもありますし、シェアサイクルや電動キックスケーターも充実してきているので、うまくお互いに誘導してふらっと訪れて下さる方が増えると良いなと思っていますね。

りお 「本屋さんを巡る旅」などねつせた!でしてみたいですね!

吉澤さん まだまだ知られていない施設やお店があるので、ねつせた!でまち歩きをする時など、もしよろしければ無料マップアプリを利用していただいても良いのかもしれません。例えば、Geolonia PWAマップ🔗には、ここも位置情報として載せていただいております。

棚主さんの視点から

りお 自分が気に入った本は手放したくないと思ってしまいそうな気がするのですが、棚主さんはどういう気持ちでこの棚に並べられているのでしょうか?

吉澤さん 古本の買い取りで「まとめてこれでいくらです」みたいなやり取りは、何かちょっとつまらないというか寂しいというか、ここだったらもうちょっと丁寧に売れるんじゃないかと思った、という声をけっこう耳にしますね。
 自分にとって一番大事な本は手元に置いておきたいため「スーパースターはここにいないね」という話はあるんですが、自分が読んでほしい本をわざわざ買って置いて下さる方もいますよ。しかも新刊なのに値引きして売れるたびに赤字が増える仕組みだったりします。なので、訪れた人が「新刊がこんな安いんだったら買っちゃう?」と言って買って下さることもあります。
 また、ここにはあまりいないと思うんですが、他の書店や古本市ではセドリ(安く本を買ってその本をここに持ってきて売ること)をやっている人もいるかもしれませんね。

りお 一旦読んで、良い本だったから他の人にも読んでもらいたいという方もいらっしゃるのでしょうか?

吉澤さん もちろんです。新しい本を読んで、ぱっと値段をつけて、循環させようとしている感じですね。

りお 棚を1つひとつ見ていると、棚主さんはそれぞれ名刺で自分はどういう人なのかを示していらっしゃいますが、どんな人でも棚主になれるのでしょうか?

吉澤さん お断りしたケースは基本的には無いですね。ただ棚を借りるのにお金はいただいていますので、それを了承して下さった方です。また、遠方の方でも自分で棚のメンテナンスに来ていただくお願いをしています。

りお 実際に棚主さんからは、どんな声がありますか?

吉澤さん 「この本買ってくれるんだ」と、半ば驚きの声を伺うことがあります。

運営していて感じること

りお コロナ禍でオープンされましたが、どのような状況でしたか?

吉澤さん オープンしたのが2021年の2月からなので、その割に利用者が多いような気もします。逆にコロナ禍だからこそ知っていただけたのかもしれないですね。Googleマップの広告などを出したことで、浸透していったと推測しています。

にわ 100人の本屋さんにはコワーキングスペースも隣接していますが、そちらについても教えて下さい。

吉澤さん コワーキングスペースは、まさにコロナ禍をきっかけに造ったものです。世田谷区は昼間は仕事をして夜に帰ってくる方が多いので、「日中でも住んでいるところの近くにいられる場」としてまずは使っていただけると良いな、と思っています。利用者の数は、第〇波に合わせて変動していますね。減る・増えるをさざ波のように繰り返しています。
 本を読みたいから代わりに店番して下さる学生もいましたね。地域インターンシップ世田谷🔗から2名いらっしゃって、お店番していただきました。

りお 以前こちらを利用させていただいたときに「せたがやPay」でお支払いできて、便利でお得だな、と感じました。他に、ここならではの特徴は何かありますか?

吉澤さん 受付がいなくても利用できる、鍵がなくても利用できる等、24時間出入りして好きなタイミングでご利用いただけるようにしています。皆さんが最低限のルールを守って使って下さることを条件にしていますね。
 また、当初は「仲間づくり」の部分を重視していたわけではありませんでしたが、近隣の利用者さんが多いこともあり、結果的にコミュニティ形成にもなっているように感じます。

りお そういえば、時々イベントをされているようですが、最近ではどんなイベントをされましたか?

吉澤さん 演出家の方によるアフタートークを行ったり、「グリーフサポート世田谷🔗」さんによる映像を見ながらの勉強会、セカンドキャリアに迷っている人のカウンセリングをしましたね。夜のご飯会を行ったり、スナックを昼間からやっていたりもするんですよ。詳しくは、100人の本屋さんのPeatixページをご覧下さい。

100人の本屋さん 公式ホームページ

100人の本屋さん Twitter

100人の本屋さん Facebookページ

100人の本屋さん Instagram

取材後記

りお 実は今まで何度か訪れたことがありましたが、お店の運営の裏側について改めて知ることができたので、次回訪れる時にはまた新たな気持ちになっているような気がしました。また、本屋さんや本そのものの奥深さを知ることができて、自分も本を読むことや本選びをもう少し日常生活の中にとり入れて、教養を深めていきたいと思いました。

にわ お店に入ると壁一面に本棚があり、ゆったりとした時間が流れているように感じました。本棚をじっくり眺めていると、棚主さんごとに個性が出ている印象を受けました。「本は好きだけれど、図書館だと少し気を遣うかもしれない」と思っている方には、ぜひ行ってみていただきたい空間です。”活字離れ”と言われていますが、ここを訪れると自然とまた本を読みたくなるのではないでしょうか。吉澤さま、インタビューを受けて下さりありがとうございました。

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