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世田谷区立男女共同参画センター って何をするところ? 『ジェンダーを考えるプロジェクト』が取材しました!

2021年の日本の「ジェンダーギャップ指数」は156ヵ国中120位とさらに順位を下げています。性別に関係なく、自分らしく自由に生きる社会になるために、若者である私たちも我が事としてジェンダーの問題を考えていこう…ということで、私たちは、新しく「ジェンダーを考えるプロジェクト」を設立しました。まずは「知ること」。世田谷区が男女共同参画社会を実現するための拠点としている「らぷらす」を取材してきました。知っているようで知らない「男女共同参画」の活動の中身とその背景に注目ください。
(取材日:2021年10月19日)

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阪口 さゆみ さん(らぷらす 館長)

女性の課題から始まり「男女共同参画」の活動は30年以上
DV 相談、性的マイノリティ支援、男性相談…活動も対象も多様に

れいり 最初に「らぷらす」の成り立ちについて教えてください。

阪口さん 「らぷらす」が誕生したのは1991年。今年で30周年を迎えました。「らぷらす」とは、La place=広場の意味。世田谷区では「世田谷婦人会館」は1977年に開設されていて、その名称から世田谷区が「女性」の問題に取り組んでいたことがわかります。「男性も女性も共に参画して動いていかなくてはいけないと「男女共同参画」の流れが生まれ始めたのも「らぷらす」がスタートした30年前頃。1987年に「男女共同参画を目指す世田谷プラン」が策定され、現在のらぷらすの事業は「世田谷区第二次男女共同参画プラン」に基づいて行われています。

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れいり そんなにも長く取り組まれているとは…! 具体的にはどのような活動をされているのですか?

阪口さん 「相談事業」「講座・研修事業」「情報収集提供事業」の3つの事業が中心になっています。相談事業では、女性の悩み事・DV相談、女性の働き方相談、セクシャル・マイノリティ相談、男性相談、そして、居場所事業を行っています。講座・研修事業では起業支援をしています。今年で16回目になりますが、世田谷区で活動している女性起業家たちを集めて「起業ミニメッセ」を開催しています。また、2018年からは「セクシャル・マイノリティ支援者養成講座」を行っています。世田谷区では2018年4月に「世田谷区多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」を施行したこともあって、大きな注目が集まりました。

れいり 様々な活動をされているのですね…! そういえば、先日「らぷらす」のホームページを拝見したのですが、たくさんの企画が動いていますよね。その企画はどのように考えられているのでしょうか?

阪口さん 世田谷区が定めた「男女共同参画プラン」に定められている基本目標に沿って施策を決めています。この中には、「女性の活躍推進」「ワーク・ライフ・バランスの推進」「女性に対する暴力の根絶」「尊厳をもって生きることができる社会の構築」という4つの基本目標が掲げられていて、「性的マイノリティ等多様な性への理解促進と支援」も含まれています。これらを担当課と広く連携しながら推進しています。

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課題の根っこが複雑に絡み合っている…
それが日本のジェンダー格差が縮まらない理由

れいり 今、一番力を入れている取り組みは何ですか?

阪口さん 色々ありますね〜(笑)。一つには絞れないです。というのも、日本のジェンダーギャップ指数は156ヶ国中120位で、女性と男性の差が大きい国なんですね。そこで理由を考えると、まず女性と男性には賃金格差があります。その課題を無くすためには、働きたい人が就労できるようにするための就労支援事業をすること。また、働くことが難しい人には「相談」が必要になると思います。
もう1つ、女性の家事負担が多く、男性の家事時間が少ないのも課題なのです。女性は1日7時間34分に対し男性は1時間23分という実態があります(6歳未満の子どもをもつ夫婦の育児・家事関連時間 男女共同参画白書 平成30年版)。男性の中にも家事をやりたい人もいるし、会社を休みたいけれど出世に影響がでるかもしれないから休めない人もいる。家事も仕事もバランスをとってやりたいという男性には何ができるか、以前はパパ向けクッキング講座をしたり、「こんなふうにしたら実現できますよ」という情報提供…、といった具合に、力を入れて取り組みたい事業の幅はどんどん広がっていきます。

れいり 解決してあげたい課題は複層的にたくさんあるのですね。

阪口さん ええ。もう1つ、暴力の問題もありますね。暴力の被害者の90%は女性と言われています。それにより貧困や就労の問題、そして心の問題も出てきます。1つ解決すれは終わると言うことはなく複合的。だから、社会が抱える問題に1つひとつ向き合っていかなければなりません。

れいり ところで、男性の電話相談はどのような経緯でスタートされたのですか。

阪口さん 男性って相談しない傾向があるんですよ。「男の子だから泣いちゃいけない」って育てられることで、「自分一人で解決しなくてはならない」って思い込まされているのか、「こんなことで相談していいのか?」と思ってしまうようなのです。「自分が頑張って家庭を支えなくちゃ」と思っているのも男性の方が多い。それは男性の自殺の要因にも。だから「男性も相談していいのです!」と訴えています。この男性相談ですが、今後ますます需要が増えていくと思っています。

れいり 男性相談の必要性がよくわかりました。私のイメージでは「男女共同参画センターらぷらす」のメインの利用者は30代くらいの女性なのですが、学生に向けた講座の企画などはありますか?

阪口さん ちょうどやりたいと思っているところです!「自分を大切にする講座」というのをインターンの大学生が考えてくれていて。それをやりたいと思っていました。ねつせた!の皆さんと一緒にできたらいいですね。今は中・高生向けの出前講座を教育委員会と連携して実施しています。

れいり 学生が集まってやるイベントがあったらぜひ参加したいです。

「らぷらす」の魅力は2万冊以上の図書!ジェンダーに関して助けになる本がセレクトされている万冊以上の図書!ジェンダーに関して助けになる本がセレクトされている

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れいり こちらの施設内の設備ですが、どんな特長がありますか。

阪口さん 図書館と同じくらいたくさんの本を所蔵していることが1番の強みだと思います。

れいり 私もよく利用しています。普通の図書館にはない本のラインナップになっていますよね。本は誰が選んでいるのですか?

阪口さん 毎月選書会議を開いています。毎月新刊される本やサンプル本をスタッフと見てセレクトし、昭和女子大学の司書の方に入ってもらって決定しています。細かく吟味して選定しているので、特徴のある図書コーナーなっていると思っています。偏っているとも言えますが(笑)。

れいり 施設の拡充について、「今後こうしたい」と思っていることはありますか?

阪口さん 希望としては、200人くらい集めて講演会ができるホールが欲しいですね。それに加え、父親が家事に参画するための父と子のクッキング講座ができるキッチンとか。体を動かせる場所とか。男女共同参画センターとして暮らしに密着した機能も欲しいと思っています。マルシェもやりたいです。現在は、今ある施設を活かしながら、世田谷区内に出向いていく出張講座にも積極的に取り組んでいます。

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コロナ禍で女性の就労問題、離婚問題はより深刻になった!?

にわ ジェンダー平等を取り巻く環境や人々のニーズはどのように変化していますか。

阪口さん ジェンダー平等に向けた世界的な潮流が起きているのは間違いないですね。それだけではなく、内閣府の資料(第5次男女共同参画基本計画)で「働き方改革」や「女性に対する暴力根絶の社会運動」、「新型コロナウイルス感染拡大による女性への影響」など、合わせて8つの現状及び予想される環境変化・課題が挙げられていますが、今まで見えていなかった女性への格差、不平等が新たに見えてきています。
また、記憶に新しいところでは、昨年のコロナ禍で、30代40代の就労支援のニーズや、女性のための離婚講座のニーズが増えました。私たち「らぷらす」がいつも考えているのは「誰が一番困っているのか?」「何が一番課題なのか?」「私たちのリソースで何ができるのか?」ということです。

にわ 小学校・中学校・高校での出張ワークショップも増えているということですが、どのようなテーマで行っていますか?テーマも変わってきていますか?

阪口さん 出張講座のテーマは、「デートDV」「セクシャル・マイノリティ」「キャリア」の3つ。他にも希望に応じてコミュニケーション講座等を行っています。最近は学校側も「やらなくちゃ」という意識に変わってきていますね。デートDVの講座はやり始めて15年経ちますが、当初は「デートDVなんて学校は関係ないですよね?当事者同士の問題でしょ?」とよく言われました。その度に、「デートDVの被害を受けることによって学ぶ権利や働く権利の問題になるんですよ」と言い続けました。セクシャル・マイノリティについても同じで「この問題は個人のことじゃありません。学校に来られなくなる。安心して暮らせなくなる。人権問題なんですよ」と。そうした学校の理解も広がっていきました。

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目の前にあることを一生懸命こなしていたら「自然と道ができた」
活躍する女性の1つのロールモデル

かな ここからは、館長ご自身のことについて伺いたいと思います。まず、館長のお仕事について教えてください。

阪口さん “なんでもや”です(笑)。日頃思っているのは、スタッフと何でも話せるような関係性にしたいと思い、私の方から話しかけています。

かな 館長になられたのには、どのような経緯があったのですか?

阪口さん もともと横浜で子どもの人権に携わるNPO法人を立ち上げて活動していた縁でこちらに来ました。らぷらすに入職して10年になります。

かな そうなんですね。その10年の中で、印象に残った出来事はどんなことでしょうか?

阪口さん そうですねえ…、目の前にあることをこなすのに一生懸命ですが、振り返ると辛いこともあったけれど、楽しいことしか覚えていないですね。日々の生活で浮かび上がる疑問や気づきが講座や事業に繋がっています。
あえて言うならば、起業ミニメッセでしょうか。起業には興味がなかったのですが、ある女性に色々なことを教えてもらい、女性に特化した起業支援の必要性を感じています。

かな 阪口館長は、学生の時どのような社会人になりたいと思っていましたか。

阪口さん 何も考えていませんでした(笑)。就職したのは男女雇用機会均等法以前で、女性の総合職はほとんどありませんでした。学生を卒業したら社会人になるというのは当たり前で、働く意義とか自己実現とかは考えていませんでしたね。でも、なんで男性と女性の職種は違うのだろうというもやもやした気持ちはありました。その頃、ジェンダーという言葉も知らなかったのです。結婚後に私だけ姓が変わるの?ともやもやしました。その後ジェンダー論に出会い、私のもやもやの正体に気づき、それが今に繋がっているのだと思います。

かな そうだったのですね。実際、NPOを立ち上げられてからどのようなキャリアビジョンを描くようになりましたか。また、キャリビジョンは変化していくものですか。

阪口さん 私はキャリア=生き方、だと思っています。若いころから、職場は変わっても、生き方は変わっていないですね。私の中では「人権」ということが自分のテーマのように思いますし、自分の大事にしていることをずっと追いかけているのかもしれません。実は、就職活動をしたのは新卒のときだけで、その後は人から声をかけてもらって、働き続けることができました。逆に人から頼まれることも多く、そのうちに繋がりができてらぷらすにいるのかもしれません。

「がんばらないで」「自分を一番に」
高校生や大学生世代の人に一番伝えたいこと

でっち 色々とお話を伺ってきましたが、私たちねつせた!メンバーがジェンダーを考えることをテーマに活動することについてどのように思われますか。

阪口さん 素晴らしいことだと思っています。そういう人がいるだけでも気持ちがあたたかくなるし、心強い。出会えて嬉しいです。ねつせた!を卒業したらこの活動を離れてしまうと思うけれど、今のメンバーには、離れてしまっても戻ってこられる場所を作っていって欲しい。

でっち ありがとうございます。若者に伝えたいことはどんなことでしょうか。

阪口さん 「頑張らないで」って言いたい。自分を一番大切にして欲しい。自分をないがしろにすると苦しくなっちゃうから。自分を大切にできる人は他の人も大切にできるから。

でっち 心に刺さりました(笑)。先程、男性が相談しないというお話もありましたが、本当に支援を必要としている人にリーチするにはどうしたら良いでしょうか。

阪口さん 「相談できる場所があるよ」とか、「私はあなたを信じているよ」「あなたは悪くないよ」とか言い続けること。離れたところからでも見えるようにのろしを上げ続けることじゃないかな。場所があることでほっとできる人もいると思う。

でっち 僕らだったらSNSを通じて情報を発信し続けるってことですよね。最後に、どうなれば男女共同参画が実現すると思われますか。

阪口さん それはとても難しい質問ですね。教育は1つあると思います。人権を大切にする教育。誰も排除しないってこと。そこがベース。「差別じゃない、区別だ」という人がいますが、それが差別につながっていくと思うのですよ。教育の対象は全ての世代に。生まれる前のお腹の中にいる頃から男女共同参画を伝えられたらと思います。若い世代の皆さんが、こうしてジェンダー平等を意識してくれたら、きっと誰もが暮らしやすい世の中になるでしょう。

一同 ありがとうございました。今日は考えるきっかけをたくさんいただくことができました。

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世田谷区男女共同参画センター らぷらす
〒154-0004
東京都世⽥⾕区太⼦堂1-12-40 グレート王寿ビル3~5階(受付3階)




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