Xで晒し行為が禁止に! "有名税"は犯罪者の言い訳。メタバース住人が考える未来のネットリテラシー【X解説記事】
2024年3月、X(旧Twitter)がポリシー更新により「晒し行為」を明示的に禁止しました。個人的にはこれで大問題になっていたVTuberへの晒し行為が無くなるといいなと思っています。
Xでこの件について詳しく解説したところ、7,000リポストを超える大きな反響があり、多数のまとめサイトなどにも掲載されました。イーロン・マスクにしてはよい改定だとネットでは好意的な意見が多いようです(笑)。
この記事では、そもそも晒し行為がなぜ問題なのか、今回なぜポリシー改定が必要になったのか、イーロン・マスクの見解や、なぜネット言論は過激化してしまうのかメタバース住人の視点から考察し、みなさんから頂いた感想と共にまとめました。
Xが実名を明らかにしていないユーザーの実名や写真を晒すことを明示的に禁止
2024年3月、Xが「個人情報と晒し行為に関するポリシー」を更新し、「実名を明らかにしていないユーザーの実名や写真を晒すことを明示的に禁止」しました。
※出典:X's private information policy and doxxing
本件の発端とイーロン・マスクの見解
今回の措置は漫画家Stonetoss氏が炎上し実名が晒されていた件に対応する為のものと見られています。Xで炎上していたStonetoss氏は実名などの個人情報を晒され、晒していたアカウントが多数凍結されるなど、英語圏では大きな問題になっていました。イーロン・マスクのコメントはこちらです。
正直、実名上等のイーロンがこのような発言をするのは意外でした。世界的に影響力をもつイーロンが匿名性を権利として守るべきだと発言したのは大きな後押しになるのではないでしょうか。
晒し行為や誹謗中傷はそもそも犯罪行為
念の為に言っておくと、本人が公開していない個人情報を晒すのはXのポリシーに関係なく元々プライバシー権の侵害であり犯罪行為です。ただし実際問題防げない現実があり、何の罪もないVTuberが晒されて炎上する事件もたびたび起こっていました。仮想のキャラクターとして活動するVTuberにとって晒し行為は死活問題です。これで活動を停止してしまった人も数知れません。ガイドラインが明文化され処罰や削除対応が早くなるのはいいことだと私は思います。
またこれも当たり前ですが一応言っておくと、匿名が担保されるからといって何をしてもよいという訳ではありません。例えば、誹謗中傷などは犯罪行為なので開示請求や法的処罰の対象になる場合があります。当然ながらそういった犯罪行為は今回のポリシー変更でも守られません。
「これでは迷惑行為に対する特定班の活動ができなってしまう」というコメントもいくつか見られましたが、迷惑な人相手であれば犯罪行為をしていいという発想が根本的に間違っています。
「有名税」は犯罪者の言い訳
「誹謗中傷も晒し行為も有名税だから文句言うな!」という意見がありますが、同意しかねます。どちらも明確に犯罪行為であり、最低限のモラルが保たれないと、無敵の人以外はネットで情報発信ができなくなってしまいます。「有名税」というのは犯罪者の言い訳に過ぎません。私の嫌いな言葉です。
現代社会では私刑は許されない
現代社会では私刑は犯罪です。"法"とは、かつて無法地帯だった世界を安心して生きていける場所にするために、私達が長い時間かけて勝ち取ったかけがえのないものです。ネットでは行き過ぎた行為が暴走しがちな現状ですが、少しずつでもルールが整備されて健全化が進むはずです。私達がそう望みさえすれば。
※参考:リンチ(私刑)とは?
なぜネット言論は過激化するのか? メタバース住人の視点
ネットで過激な発言が暴走するのは、文字による非同期型コミュニケーションだと相手の実在感を感じ取れず、実在感のない相手に共感性を失ってしまう人間の本能のバグではないかと私は考えています。
三次元空間で同期型コミュニケーションを行い社会生活を営むために進化してきた生物である人類は、本来であれば周りと平和的にうまく協調していく性質をもっているはずです。しかし、SNSのような空間性のないテキストベースの非同期コミュニケーションでは、相手の実在感をうまく認識できず、人間が持っている本来のフェイルセイフ(安全装置)がうまく働かなくなってしまうのではないでしょうか。
例えば、私が活動しているオンラインの三次元仮想空間「メタバース」では事情は大きく異なっています。私がスイスの人類学者リュドミラ・ブレディキナと実施した大規模調査「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」では、回答者約2,000名のうち、「ソーシャルVRでのコミュニケーションでは相手との距離感が現実よりも近くなる」と67%が回答していました。
私の個人的な体験としても、SNSでは過激な言動を繰り返している人がメタバースで顔を合わせて話すと意外といい人だったという事は非常に多いです。また、メタバースにもミュートやブロックといった最終手段は用意されていますが、SNSと違ってこれらを使う機会ははるかに少ないです。オンラインでも相手の実在感をしっかりと認識できさえすれば、良識のある健全なコミュニケーションは成り立つのではないでしょうか。
常識をアップデートするには時間がかかる
常識やモラルをアップデートするのはとても時間がかかります。でも、例えば現代では、たった50年前と比べ殺人は半分以下になってます。
※出典:主要国における暴力による死亡率:図録▽主要国の他殺率推移(死因統計)
おそらく、これから50年後には「昔のネットでは誹謗中傷や晒し行為が日常茶飯事だったなんて信じられない!」というのが常識になっているはずだと私は考えます。これから私達を待ち受ける未来のネットの世界がどんなものになるのか、きっと私達一人一人の行動と選択にかかっています。
みなさんの感想
メディア掲載
Togetterやまとめサイトなどで私の解説コメントを掲載頂きました。
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ITエンジニア本大賞2024では「特別サポーター」としてイーロンの伝記を推薦させて頂きました。
参考図書:『メタバース進化論(技術評論社)』
バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論(技術評論社)』は、メタバースに興味を持った幅広い読者の方を対象に、現在のメタバースの真の姿、そしてその革命性をわかりやすく伝える「メタバース解説書の決定版」です。自身も黎明期のメタバースで暮らす"メタバース原住民"の一人である著者・VTuber「バーチャル美少女ねむ」が、自分自身の体験、数多くのユーザーへのインタビュー、そして全世界のユーザー1,200名を分析した大規模調査「ソーシャルVR国勢調査」を元にメタバースのリアルを明らかにする、世界初の「仮想世界のルポルタージュ」です。
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