退職願を書き終えて

6月1日。
自粛の自宅待機期間を終え、出社が始まった第一日目。
会社を辞めたいと、相談とも報告とも言えない話を部長に打ち明けてから1カ月。
部長、室長、父、人事局長、
それぞれと話をして、6月は終えようとしている。
 
室長との話し合いで、いろんな質問をされて、すべて問題なしということを確認した。
父と電話をして、やりたいことがあるならそれをしたらいいと、応援してもらうことができた。
人事局長と話し、退職願の用紙を受け取った。
 
初めて見る退職願の用紙は、妙な迫力があった。
 
なんだか離婚の時を思い出す。
何年も悩んで、苦しんで、やっと答えを出して決めた。
費やしたエネルギーがどんなに大きくても、
離婚届の用紙を提出したら、あっけないほど簡単に離婚が成立してしまうのだ。
 
私は退職願を書き終えた。
これを出したら、後戻りができなくなる。
 
具体的な退職後に必要な手続きについて調べてみて、
はじめてこれから自分で支払うことになる諸費を知る。
用意周到な人というのは、こういうことを全て知ったうえで、退職を決めるんだろうなと思う。
甘いのかなぁ。
税金、保険、諸費の数字。
会社では、全部やってもらっていたもの。
 
不安になった。
部長や室長に言われた、
「今は忙しくもないし、毎月決まったお金をもらえるのに、それを手放していいのか」
という言葉が、まるで大きな波のように押し寄せて来、わたしはそれに飲まれて溺れてしまった。
 
海に放り出される恐怖。
今ならまだ、取り消すことができる…。
 
でも、13年もずっと嫌だったのに。
これまでは、やめられない理由があった。
そのすべてが解決して、全部の条件が揃ったのに、
ここで怖気づいてやめない…?
そっちの方が怖い。
その選択肢は、わたしにはなかった。
 
「辞めなかったらよかったという後悔をしなければいい」
「やりたいことがあるなら、それをしたらいい」
「5年後の自分が、今の選択をしたわたしに感謝できる方を選ぶこと」
「どんな選択をしても、それを自ら正解に持っていくこと」
「迷ったときは、面倒な方を選んだらいい」
「頭じゃなくて、心で。わくわくする方を選びなさい」
 
大きな選択だから、迷わないなんてできない。
それでも、どうしても選ばずにはいられない方がある。
 
私の人生は、大切なことを先延ばしにするほど時間はないけれど、
怖気づいて逃げ切れるほど短くもない。
 
だからやっぱり、今やめよう。
やっと乗れる波が来て、それに気づいているのだから。
何度迷っても、結局同じところに帰ってくる。
 
これまでの選択の仕方ではうまく行かないことは、嫌というほど思い知ったじゃないか。
負の産物を、ひとつひとつ終わらせていくとき。
そして、本当の自分と一致して、新しく始めていく。
 
大丈夫。
何が起きたって、大丈夫だから。
 
離婚をして、その痛みを乗り越えつつある少し先輩のわたしが
会社を辞めて、新たに歩き始めようとするわたしを励ましている。
変な表現かもしれないけど、そんな感じだ。
 
どこにいたって、問題は起こる。
問題のないことが幸せなのではない。
判断の基準は、そんなところにはないのだ。

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