【超短編小説】もしも雨なら
「どうか、雨が降りますように……」
私は教室の窓からくもり空をにらんだ。
⭐︎
図書委員である私は、放課後はたいてい図書室のカウンターに座っている。本を借りにくる生徒は少ないので、好きなだけ本を読むことができるこの時間は至福の時だった。
そして最近、図書室にあの人が来るようになった。決まって雨の放課後だ。
いつの間にか、雨の放課後が待ち遠しく思う自分がいた。
あのヒトの黒い瞳に映る雨だれが見たかった。
⭐︎
今日は雨が降るだろうか。あのヒトは来るだろうか。
終業のチャイムが鳴ると同時に小雨が降り出した。足早に図書室へ向かう。心臓が跳ねる。
図書室のドアを開けると雨が校舎をを叩く音がした。
カウンター横の窓の方から、バサっという羽音。気づかれないようにそっと近づく。
「あのヒトだ!」
艶々とした黒い体。立派なクチバシ。そして潤んだ黒い瞳。
「カアッ!」
ベランダで雨宿りする美しいカラス。その窓越しに、読みかけの本を開く。
私は雨がやまないことを祈った。
※jakokoさんのイラストを使用させていただきました。
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