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「自分のことばかりじゃなく人の気持ちを考えろ」と言われるのが地雷だという話



「自分のことばかりじゃなく人の気持ちを考えろ」といった旨のことを言われることがある。
僕はこれを言われると耐えられないくらいムカつく、僕にとってのいわゆる地雷ワードのひとつだ。
先日、こんな感じのことを言われて、Twitterで長い付き合いだったフォロワーをブロックしてしまった。

おそらく7年ほどは相互フォローだったのではないだろうか、DMでやりとりしたりいつかオフ会しようと言い合ったり、相手からも「ネットで一番長く関係続いてる」「仲良いと思ってる、尊敬してる」とか言ってくれるくらいの人で、最近僕が作り直したTwitterアカウントで、数人だけ絞りに絞ってフォローし直したかなり優先度の高い一人だった。


彼は貧乳キャラや男の娘が好きなオタクだ。僕自身も最近では好みが結構変わってきているが、元々はそういう趣味なので共感することも多い。
そんな彼のツイートに僕がリプライしたことがブロックのきっかけになる。


会話の流れはこうだった

相手「貧乳キャラを勝手に巨乳にしたり男の娘キャラを勝手に女の子にしたりするのは怒られるのに女の子のキャラを勝手に男の娘にするのは喜ばれるのなんなんだろう」

僕「実際貧乳キャラに胸を盛ったりするのめちゃめちゃ需要あるっぽいし貧乳や男の娘好きが凶暴なだけでは」

相手「自分たちのことをマイノリティだと思ってる派閥は攻撃的だからね」

僕「よくわかってて草」


このあと相手からの返信が無くなり、フォローを外されていることに気づいて、こちらからリプライを送る。

僕「なんか気にくわないことしたならごめんね、フォロー外れてるので」

相手「悪意がなかったならごめんね でも相手がどう感じるかちょっと考えてほしかったな」(フォローを返す)

この答えを見て一晩してから、僕は彼をブロックした。


まずは僕の心理を振り返る。


僕は今まで異常なくらいTwitterにのめり込み色んなオタクを見てきた。
オタク界隈にはメジャーに見える意見がいくつか存在する。「貧乳キャラに胸を盛るな」とか「おねショタでショタが攻めるのは許されない」とか「百合の間に入る男は死ね」みたいな感じのやつである。ただオタクといえど一枚岩ではない。よりたくさんのオタクを見ていくとそういったメジャーな意見に反感を示しているオタクがいたりする。
このフォロワーとのリプライの直前にもTwitterで知らないオタクが「百合こそ最高に尊い!」みたいな感じのツイートをRTして「なんでこういう同性愛表現好きな奴って異性愛にマウントとってくるわけ?」と怒ってるのを見たところだった。
百合やBLなど同性愛を表現した作品が人気になって、堂々と感動を口に出来るようになったことは良いことだと思うし僕自身そういう作品に抵抗は無いが、確かに異性愛へのマウントとってるなと感じさせられるツイート等もよく見るので、そこに反感を覚える人の気持ちも分からなくはない。
だけど逆にオタクとして自分の好きなものが最高!と叫びたくなる気持ちも分かるしマウントとって殴り合うやりとりもオタクっぽくていいなあと感じる時もある、俺妹の桐乃と黒猫の関係みたいな。


だから彼のツイートを見たとき「男の娘や貧乳キャラばかりが受け入れられてるように見えるかもしれないけど逆の考えのオタクも多分いると思うよ」
ということと
「一般的にはマイノリティに属する世界を描いた表現の愛好者は特に思い入れが強くアイデンティティに直結する拘りがあって、だからこそそれを否定されたり破壊されると攻撃的になるのではないか?」
ということを伝えたいと思った。
それに普段彼はオタクであることを誇りに思って一般人にマウントをとる最近のオタクに嫌悪感を示しているところがあった。だからもしかしたら男の娘オタクのふるまいに対する男の娘オタクとしての彼なりの苦言なのかもしれないとも予測した。

相手の文面からも何かしら反応を欲してる様子だと感じたし、ここはリプライするべきだろう。ただ自分の思いを長文でいきなりぶつけたら堅苦しくなるし、できるだけ砕けた言い方で、軽いノリの会話の中で、相手の出方次第で踏み込んでいこう、そう思っての

「実際貧乳キャラに胸を盛ったりするのめちゃめちゃ需要あるっぽいし貧乳や男の娘好きが凶暴なだけでは」
という返信だった。
少し刺々しいかなとも思ったけどこのくらいネットっぽい言い回しの方がいいかな、さすがにそのくらいのニュアンスは長年仲良くしているのだから伝わるだろうという信頼があった。

そして相手から「自分たちのことをマイノリティだと思ってる派閥は攻撃的だからね」という返信が来たとき、先に自分が言いたかったことを言われたなと思った。ただ少し不穏な空気というか微妙なズレも感じたので、もっとフォローするようにこちらの意図を攻撃的にならないように伝えた方がいいか迷った。でもあんまり大真面目に説明的なリプライを返されても逆に相手が困ったりいちいちめんどくさいヤツだなと思われるのではないか?ここは軽く同調しておいた方がいいのではないか。
そう思って
「よくわかってて草」
と返したのである。そしてこれが結果的に大失敗で、相手から返信が来なくなり、気づいたらフォローを一方的に外されていた。

次に相手の心理を推察する。

まず最初のツイートでおそらく「男の娘や貧乳キャラは最高だからね!」みたいな肯定的な反応を期待していたのではないだろうか。
そこに「貧乳キャラを盛るのも需要あるし男の娘好きが凶暴なだけでは」というリプライが来て全否定されたような気分になった。
嫌な反応だなとイライラしつつも、長年のフォロワーだし一応自虐的に合わせとくか……と「自分たちのことをマイノリティだと思ってる派閥は攻撃的だからね」と返信する。

するとフォローするどころかよりにもよって「よくわかってて草」と言ってきた、煽ってるのか?
許せない……だけど長年のフォロワーとしてせめてもの情けでフォローを外すだけに止めてやろう、謝ってきたら許してやらなくもない。
もしくは単に僕の存在がTLにあること自体に耐えかねてフォロー解除しただけかもしれない。

そして僕が謝罪する話に戻る。


フォローが外されていたことに気づいて、怒らせたのか?ともちろん不安になったが、Twitterでは間違えてフォローを外してしまう場合もあるわけで、相手が何も言っていないうえにブロックでもなくフォローだけ外すというのはどういうつもりなのか正確には判らず混乱した。もし傷つけたのなら謝った方がいいし、何が悪かったのか聞くべきだと思って探り探り謝罪のリプライを送る。


「なんか気にくわないことしたならごめんね、フォロー外れてるので」とリプライした。謝り方としては軽いかもしれないが、そもそも相手がどういうつもりなのかすら分かってない以上このくらいが無難かと思ったのだ。すると向こうからフォローとリプライが返ってきた。

「悪意がなかったならごめんね でも相手がどう感じるかちょっと考えてほしかったな」この地雷ワードが含まれたリプライが返ってきてから一晩迷った末に、僕は長年のフォロワーだった彼をブロックして関係を終わらせた。


何度も一連のやりとりを読み返すと、たしかに僕の悪いところも見えてくる。
まず「凶暴」という言葉についてだが、ネットで意味を検索すると「ふるまいが悪くて荒々しいこと」とか「性質が残忍で非常に乱暴なこと」とか、かなり悪い意味であることがわかる。もし辞書的な意味そのままで捉えたら耐え難い怒りを感じるかもしれない。
ただ、月並みな言い訳になってしまうが、こちらのニュアンスとしてはネットのオタク的な誇張した表現の冗談のつもりだった。極端な言い回しを使うことで逆に軽く受け取られるだろうという読みである。
結果的にそれが伝わってないのならこちらの責任なのだが。

言葉の持つ意味やニュアンスの解釈は人によって違う。
例えば今回の記事で「地雷」という言葉を使っている。この表現は最近ではオタクの間で広く使われていて、もちろんそのまま地雷を指すわけではなく比喩表現である。だがこの表現にも怒っているオタクを見たことがある。
「自分に合わないからって人の表現に上から目線で兵器に例えて侮辱するな!」ということらしい。
たしかにこれにも一理あって、考えようによっては酷い言い草で失礼な表現だ、怒るのも無理はないと共感する部分もある。だけど一方では「そんなネットのオタク構文にガチでキレるなよ、シャレの通じないヤツだな」と思ってしまう。


「凶暴」という言葉を使ったことやそれ以外の言い回しについても自分のコミュニケーション能力の低さは大いにあっただろう。長年のフォロワーだから大丈夫という気の緩みがあったかもしれない、「親しき仲にも礼儀あり」かもしれない、だけど、だからこそ「相手がどう感じるかちょっと考えてほしかったな」という言葉には我慢ならなかった。

僕は普段からめちゃくちゃ他人の気持ちを考えているのである。考えても分からないのである。僕だって出来るなら毎回相手の望んでる答えが分かって「パーフェクトコミュニケーション」を連発して好感度を上げ続ける会話がしたい、だけど色んな人を見て色んなコミュニケーションを学ぶたび余計に混乱していく。

他人という未知の内面を持った存在に対して、無限の可能性の中から何パターンもの選択肢を絞り出して、相手の性格や言うタイミング、自分の伝えたいことの何を飲み込んで何をどういう言葉で伝えるか、考えに考えて勇気を持って一つの選択肢を選びとって賭けに出ているのである。
だから今回のようなやりとりが発生すると「こっちがこれだけ苦心して会話を成し遂げようとしていることにも気づかないくせに何の説明も無しに当てつけみたいにフォロー外してこっちが下手に出て謝っても怒ってる理由も説明せず上から目線で『人の気持ちを考えろ』なんて言ってんじゃねーよ!!お前だってこっちの気持ち察してねーだろーが!!」と我慢ならなくなってしまうのである。

近年の社会やネットはハラスメント関連の話題が多く、絶対に人を傷つけることは許されないという風潮が強い。
だけど僕のような人間には、正直何を言えば他人が傷ついたり怒ったりするのか完璧に判断して最良の選択をし続ける能力なんてない。そもそもそんなこと出来る人間がいるのか?僕が他人を尊重した分、他人は僕を尊重してくれているか?


以前Vtuberがリスナーからのセクハラ被害を告白する配信があった。そこでのリスナーコメントのほとんどはVtuber側の意見を肯定するものだった。まあそりゃそうだろう。ただその中で一つのコメントが僕の中で強く印象に残った。


「ラインわかってないやついるよな~」


僕はこのコメントに対して「人それぞれの許せる許せないのラインが判るのかよ、だったらお前が全員が納得するガイドラインを作ってみろよ、それを共有してこの社会問題を全部丸く収めてみろよ!」と激しい憤りを感じたからだ。

思い返せば、Twitterで正しくいようとしても出来ないことばかりだった。


「人の考えを否定せず尊重しましょう」
「自分の考えを持って言いたいことを言いましょう」
「考え方をアップデートしろ」
「時代に流されて周りに合わせるな」


世の中で正しいとされる生き方考え方は多数あるが、矛盾したことばかりで正解なんてわからない。何度もそれらを実行したつもりで失敗してきた。生きるのはどんどん苦しくなった。人間関係も壊れていった。

僕には人間関係で正解を出せる能力がない。正解を出せなければ恨まれたり蔑まれる人間関係をやっていける自信がない。そして最近ではそれが「社会的な死」に直結することすらある。


ブロックしてもTwitterでは相手のツイートを見ることができる。少し気になって彼のツイートを覗いてしまった。もしかしたら僕にブロックされたことを気にしているんじゃないかと気になった部分もあった。


だけど彼は別に僕の件には触れていなかった。それどころか、僕が人間関係を築くのが嫌になってネットでも隠れるように活動しているのとは裏腹に、たくさんのファンに囲まれ楽しそうに活動していた。僕にブロックされた後のツイートは、僕と相互フォローだった時よりもずっと楽しそうに見えた。

もしかしたら内心気にしているのかもしれないし、やっぱり別にそんなことないのかも知れない。
結局正解を知らないまま、僕はこれからも人間関係ではなく自意識だけを育てていくのかもしれない。


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