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猫田質店

「喉…乾いた……」

私は今、猛烈に喉が渇いている。
うぅ…それにしても
今日の暑さはあまりに酷い…
何か冷たいものでもぐびっと飲まないと無理。
誰か助けて…ん?
あれはなに?

意識が朦朧としている中、私の目に飛び込んできたのは
猫の印が入った看板。
うーん、けどぼんやりとしか見えない。
でもなんだかいい匂いがする…気がする…
これはカフェか何かではないだろうか。
あ〜もう暑くてしょうがない。
これは入るしかない!

お店をよく確認することはできなかったが
「ここには何か素敵なものがある気がする」
と、私の中にいる何かがそう叫んでいた。
その予感を頼りに私はゆらゆらとそのお店に近づく。
そして気づいた時にはもう
私はお店のドアを勢いよく押していた。

カラン。

喫茶店のドアにあるベルのような音が響いた。
入るとすぐに中にいた二人と目が合う。
そのうちの一人が低い落ち着いた声でこう言った。
「いらっしゃいませ」

そこには私の期待していたもとは全く違う光景が
広がっていた。

中に入ると程よくクーラーが効いていて涼しい。
私は徐々に生き返り、辺りを見回す。
ほんのり柔らかい落ち着いた照明。
いや、これはあのステンドグラスのランプの明かりか?
なんだかすごく心地いい。
そういえばカフェにしてはテーブルやイスが見当たらない。
さっきはいい匂いがすると思ったんだけど…勘違い?
ここはどこ?
色んなことが気になってを考えていたら
喉が渇いていたことなどもうすっかり忘れていた。

このお店はカフェや喫茶店の類ではなく
「質屋」だった。
その名も…

「猫田質店」


私はこれまで質屋という所に一度も入ったことがない。
だからここがそうだと聞いた時も、あまりピンとこなかった。

そこの猫店主の……あ。
そうそう言い忘れてたけど、ここの店主さん。
実は「猫」なのだ。

その猫店主はとても品のある美しい顔立ちをしている。
シルバーの光沢がかったように見えるその姿は
実はよく見ると毛はブルーなのだという。
瞳なんてまるで宝石のようで吸い込まれそうになる。
耳だって先がシュッと尖っていて
ピン!と立っているのがこれまたいい。

ここを営んでいるその猫店主は「猫田さん」といった。
下の名前は「猫七」だと教えてくれた。

「猫田猫七」

あの酷い暑さで倒れそうだった日
初めてお店に入ったあの日に
そう教えてもらった。

あの日から実はここ猫田質店に
私はちょくちょく遊びに来ていた。
質屋なんだから、そういった用がない人以外は
本当は来ちゃいけないのかもしれないのだけれど。
でも猫七さんがいいよって言ってくれた。
ま、今の話からもわかる通り私はこの猫田質店に
とても魅力を感じているのだ。

こうして通っていると
猫田質店には毎日様々ななお客さんが来る。

全身ハイブランドコーデのマダムから
ちょっとコワモテのお兄さんまで…
とにかく色んな人が代わる代わるやって来る。
結構忙しいんだなぁ、猫田質店。

ここに来るようになって一番驚いたことは
ただお喋りにくる人も多い、ということだ。
もちろん本業である質屋に用があって来る人もいるけれど
猫七さん目当てじゃんって思うこともしばしば。

みんな、猫七さんとお喋りがしたいのだ。

他愛もない会話から深刻な相談まで
猫七さんはお客さんの色んな話に
あのシュッと尖った耳をピン!と立てながらじっくりと聞く。
みんなそれが嬉しいんだ。
そして猫七さんに話した後はみんな、すっきりとした顔で帰っていく。
だからかな。
お客さんを見送る猫七さんの顔も
いつもなんだか嬉しそうに微笑んでるもん。

私があの時感じた予感は
やっぱり間違ってなかった。

あの日私は
「ここには何か素敵なものがある気がする」と
自分が感じた予感を頼りにあの時このお店に入った。
そしてそこから私の中で何かが変わり始めたのだ。

やっぱり私、間違ってなかったよ。
猫七さん。

猫七さんの柔らかい毛に見とれながら
私はしみじみとそう思った。


*****


最後まで読んでいただきありがとうございました。

今回の物語は猫田雲丹さんのこの記事を読んで
書いてみようと思ったものです。

本当は店主目線で書きたかったのですが
私は質屋さんのお仕事について全く詳しくありません。
なのでお客さん目線で書いた方が自然かなぁと思い
この形にさせていただきました。

記事の内容ですごく印象的だったのが、猫田さん自身が
「質屋をやってよかったこと」という中で
「色々な人とお話しできる」ことを挙げていたことです。

フィクションの向こう側みたいな方々と、ちょっと世間話をしたり、悩みを聞いてあげたり、そんな時間を楽しんでいます。(本文より)

これを読んで、こんな風に思える猫田さんは
とても素敵な方だなぁと思いました。

今回の物語では、先程の猫田さんの記事の内容も
少し混ぜながら書かせていただきました。
また「猫田猫七さん」というお名前については
勝手に考えさせていただきました。
「猫田」の部分は猫田雲丹さんの「猫田」をもらい
「猫七」の部分は猫田さんの本業である質屋さんの
「質」を「七」にして「猫七」にしました。
もしかしたら猫七さんは、兄弟が多いかもしれませんね。

猫田さん。
勝手に書いちゃいました。
許して下さい。
もし猫田さんがお嫌でしたら
猫七さんには旅に出ていただきますので…
何かありましたらすぐにご連絡下さい。

ではこれにて本日は閉店のお時間となりました。

皆さまご来店ありがとうございました。


ではまた。

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