熱き戦い #シロクマ文芸部
「珈琲と共にあるのはこの私よ」
「いいや、珈琲に合うのはもちろん僕でしょう」
「それは違うな。この僕こそが相応しい」
こんな主張が延々と続くのはいつものこと。
珈琲の目の前では今日も
こうして熱き戦いが繰り広げられている。
珈琲はこの家主の大好物。
さっき話していたのはその大好物である珈琲のお供に
毎回「誰が選ばれるのか」というもの。
そこで華々しく登場したのは、甘いもの集団のスイーツ部。
「そりゃ私たちでしょう。甘いものは定番中の定番よ。相性抜群!」
自分たちの発言に派手に盛り上がる余裕たっぷり砂糖たっぷりの
ケーキやお団子やチョコレートなどその他諸々の甘々部員たち。
それを遮って叫んだのは彼ら、個性豊かなカルチャー部。
「こっちだって負けてないぜ~♬ 読書に映画、音楽だってあるぞ!」
突然ギターが最高の音を鳴り響かせ、レコードがそれに合わせて歌いだす。
周りで気持ちよく聴いているのは山積みされた本たちの群れ。
とうとう仕舞いには歴史ある生物部まで出てくる始末。
「いや、お供といえばやはり我らだろう。可愛い愛犬に愛猫は言うまでもなく、家主の趣味である植物を愛でながら一杯!という希望だって叶えることができる」
するとすかさず愛犬と愛猫が仲良くダンスを始め
その場でくるんと決めポーズ。
そこに、窓に並ぶ花たちもラインダンスで加勢する。
そこで珈琲は思う。
それぞれにみんな素敵なのにどうして毎回競い合っているのか。
珈琲にはそれがよくわからなかった。
そこで珈琲は今までずっと気になっていたことを
みんなに聞いてみることにした。
「どうしてそんなに選ばれたいの?」
「それは家主のことが大好きだからに決まっているでしょう」
あんなに言い合っていたのに、ここで一同一斉に頷く。
「あなたは毎回選ばれているから、こちらの気持ちなんてわからないでしょうけどね」
そう言われて珈琲は初めて自分が幸せだということに気づいた。
「大好きな人に選ばれたい」
ただそれだけ。ただそれだけのために
みんなただひたすらに一所懸命なだけ。
珈琲は自分の幸せにこれっぽっちも気づいていなかった。
これまでの自分の態度を猛省する珈琲。
でもすぐに「あ、反省し過ぎると冷めるからダメよ」と言われ
反省は程々にして珈琲はみんなの話に耳を傾けた。
「ま、これも運命だから受け入れてるがな。それにここにいる奴らはみんな自分のことが大好きなのさ。だからこそ自分にすごく自信を持っている」
「珈琲より何よりも僕のことが好きだ!っていう人もいるしね」
「私だってそうよ」
「もちろん我々だって」
「だからこそ選ばれるって嬉しいものなのよ」
「大好きな人に選ばれたいって気持ちはすごく素敵なことでしょう?」
珈琲は胸の奥が熱くなった。
先ほど冷めてしまった分も、恐らくこれで取り戻せただろう。
「はい!僕ももっと…より美味しくなれるように頑張ります!」
「お、家主が戻ってきたぞ」
みんな急いで自分の定位置に戻る。
本日の珈琲のお供は誰か?
選ばれる瞬間をみんな今か今かと
静かに待っている。
【おしまい】
***
今週のシロクマ文芸部でした🐨
ではまた。
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