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できる監督はボールを拾わない~柏サポに聞く「いい監督」とネルシーニョ

こんにちは。OWL magazineメンバーの辻井亮輔です。

以前、メンバーの中村慎太郎にOWLの動画配信についてインタビューをしました。

チャンネル登録を是非よろしくお願いします。

今回の記事でも、あるOWL magazineのメンバーにインタビューをしてきました。

そのメンバーとは、円子文佳(まるこ ふみよし)です。

OWL magazineを追っていると、ほぼ毎週火曜日に欠かさず平均6000字程度の記事を執筆しているメンバーがいることが分かります。それが円子です。メンバー内で褒めあうのもどうかと思いましたが、それを抜きにしても驚きの執筆量です。

あるときは下関でくじら料理に舌鼓をうち、またあるときは一般人が書くサッカー観戦記について考察し、そのまたあるときは京都で悟りを開いていました

多種多彩なトピックを毎週取り上げている円子。その中で僕は今回あえて「監督」に注目しました。

円子は、柏レイソルを応援しています。しかしその応援歴には、なぜか空白の一年があったりとちょっと複雑な思いをクラブに抱いていそうです。

むしろOWL magazineでの記事を読み進めていると、クラブそのものへの愛以上に、現監督であるネルシーニョへの愛がダダ漏れしている気がします。探してみたら「ネルシーニョに心臓を捧げる」と宣言している記事が見つかりました。

心臓を捧げたくなるほど彼を魅了するネルシーニョの魅力とは、どこにあるのでしょう。また、そこから垣間見えた円子流の「いい監督」の見分け方について、このインタビューで掘り下げてみました。是非、ご覧ください。

(インタビュー日:2019/5/21)

―今日は円子さんにネルシーニョの話をメインに「監督」について色々お聞きします。その前に、円子さんが柏レイソルを応援し始めたのはネルシーニョが監督に就任する以前のことです。サポになった理由はネルシーニョと関係ないんですよね。そこでまず柏サポになったきっかけを教えてください。

 そもそもサッカー見るようになったのは、日本代表がきっかけです。初めてスタジアムで見たサッカーの試合は、1998年に横国(現・日産スタジアム)で行われた代表戦でした。代表戦をテレビで見ていると熱く応援しているサポーターの姿が映りますよね。ああいう熱いサポーターになりたいと思っていて・・・。

―意外ですね(笑)

 その当時は「熱いサポーターである以上は、試合前日に徹夜で並んで最前列の席に行くものだ」と思っていて、実際に徹夜で並びました。

―いきなり振り切れてますね。

 徹夜の成果もあって、早い時間に入場できて最前列の席に行けました。でも最前列なのに試合がさっぱり見えない。なんじゃこりゃと。そこでどうしてあんなに見えなかったのかと色んな人に相談したら、陸上競技場だからではと言われました。ならば今度サッカーを見るときは、サッカー専用スタジアムで見たいなと思ってクラブを探し始めました。

―なるほど。

 それで柏レイソルに行き着くんですが、最初の頃は清水エスパルスやベガルタ仙台もよく見に行っていました。だから今も僕にとってのセカンドチームは仙台だと思っています。過去には五分五分ぐらいの割合で柏と仙台を見ていたこともありました。
 ただ、気軽に仙台は行けるような距離でなかったので、柏の試合に行くことが自然と多くなりました。

―そこからどうして応援するようになったんですか。

 なぜかと言われると明確な理由はないです。でも自分が柏を応援していることを自覚したきっかけは、2003年のFC東京戦でした。
 最初2-0で柏がリードしていたのですが、このシーズンで退団が決まっていたアマラオがハットトリックをして2-3で柏が逆転負けした試合です。
 この当時、ホームスタジアムを日立台から柏の葉に移転するという話が持ち上がっていて、東京サポもたくさん移転反対の署名をしてくれたんですね。
 でも、アマラオが3点目を決めたら東京サポがみんなスタンドを越えてなだれ込んできちゃって。僕としては「こんなことされたら移転の口実になるだろ。ふざけんな。」ってめっちゃ怒りました(笑)
 そのときに「自分ってこのクラブに結構応援しているんじゃないか」と。

―円子さんが監督に注目するようになったのも柏のサッカーを見ていたのがきっかけでしょうか。

 いえ、日本代表ですね。ジーコがよくなくて、オシムが素晴らしかったことは大きかったです。
 それまでは、ただいい選手を並べておけばどうにかなると思っていたけど、ジーコの4年間を見ていると「監督がひどいとろくでもないことになる」とよくわかりました。

―確かその頃の柏の監督は、石崎さん(信弘・現藤枝MYFC監督)でしたよね。

 ネルシーニョと出会うまでは、正直そんなに悪い監督じゃないと思っていました。石崎さんの前任者と後任者があまりいい結果を残していなかったので。
 今になって振り返ると、戦術の引き出しも少なく、試合中に困った状況になってもあまりいい手を打てない監督だなと思いますね。
 一つの形をこだわってとりあえずチームとしての形は作り、それを継続していく監督でした。その当時は、チームを強化するということはそういうものだと思っていました。

―名前が挙がったのでネルシーニョの話に移ります。まず途中就任の形で柏にやってきましたが、そのシーズンでは何か大きな変化を感じましたか。

 悪いとも思わなかったけど特別素晴らしいとも思いませんでしたね。元々いい成績じゃなかったので盛り返すのは難しいなと。
 でも、守備が堅くなりました。点は取れなくなったけど。あっ、今(の柏)と同じだ。

―(笑)それでは、ネルシーニョの監督としての良さってどんなところにありますか?

 結果に対して執着するところ、そしてそのための最善の努力を常に考えているところですね。

―結果に対する執着ってどこで見るんですか?

 僕の持論に「ボールを拾わない監督はいい監督。ボールを拾う監督はダメな監督」というのがあります。
 試合中負けてるとき、急いでプレーを再開するためにボールを拾って選手に渡す監督っていますよね。でも本来の監督の仕事はそれじゃない。自分の仕事じゃないところにエネルギーを使ってはいけないと思います。つい自分も選手と一緒に戦っていることをアピールしたくなるのかもしれませんが。
 特に第一期(2009~2014シーズン)のネルシーニョは、絶対ボールを拾わいませんでした。自分のところにボールが飛んできても、まるで汚いものかのように避けていました。自分で絶対ボールを拾わないと決めていたんじゃないかと思うくらいです。
 そこまで極端な姿勢は必要ないですが、チームが負けていたり苦しい状況のときに指示も出さずにボールばかり拾っている監督は、本来なすべきことをしていないなと感じます。

―おー、そんな視点があるとは。

 それと、審判に異議をあまり言いません。それをしたところで判定が変わる訳ではないし、自分のやることはそれじゃない。そんな余裕があるなら、目の前で起きてることへの対策を考えるべきだと。
 もちろん理屈としてはそうだけど、世の中の監督には「審判に抗議することを仕事だと思ってるんじゃないか」という振る舞いをする方が結構いますよね。
 判定への異議というのは、自己完結してる話であって、勝負への執着や勝利に向けた努力ではないと思います。

―なるほど。

 彼は「プロフェッショナルである」ということをすごく大事にしています。自分の仕事の範囲で常に最善のことをしなくちゃいけない。余計なことに気を遣っちゃいけない。
 以前チームマネジャーの方が、アウェイチームの要望を気軽に聞いてしまったら、ネルシーニョにとても怒られたことがあったそうです。「お前が考えることは自分のチームのことだ。自分のチームと敵のチームでバッティングすることを気軽に聞いちゃだめだろ」と。
 他にも、ある中心選手が就任して数試合目で干されたことがありました。その理由が、その選手がケガ明けでベンチには入れるけど、スタメン起用は難しいという状況のときに「この状態なら自分じゃなくて若手をベンチにいれた方がいい」とネルシーニョに進言したからでした。

―それが理由になるんですか?

 「起用や育成のことを考えるのはお前の仕事じゃない」ということでしょう。多分、チームのために自分が選手としてプレーするために力を注ぐべきで、それを自分の判断で若手に譲るのは選手の役割としては違うということを示したかったのだと思います。

―J1昇格初年度で、即リーグ優勝を果たしました。正直こんなことになると思いました?

 あわよくばという気持ちはありましたが、直接対決のガンバ大阪戦に負けたので難しいかなと思っていました。ただ、終盤にガンバが失速したので追い上げて優勝できましたね。

―優勝したときの柏は、今までとどんな点で大きく違いがありましたか。

 ラスト15分がとにかく強くなりました。走れるし、集中している。
 試合の終盤になると動けない選手が出てきたり、どう試合を終わらせるか意思統一ができずにふわっとしているチームが結構あったりしますよね。
 もちろん優勝争いしていたこともあるだろうけど、他のチームと比べて緩みが見えなかったです。仮に同点で終盤を迎えても、このチームなら勝ち越せるだろうという雰囲気を感じました。

―ネルシーニョを見ていて欠点に感じるところはどこですか?

 ターンオーバーをあまりしないので、現行の日程ではACLとリーグを並行して戦うのはネルシーニョでは難しいなと。その時点のベストメンバーをとにかくぶつけたい監督なので。ただ、今季のルヴァンカップは違いましたね。基本Bチームで戦っているし、本人もそう明言してます。
 全力で臨むべき大会があればどんなに日程がきつくても、目の前の試合にベストメンバーを投入してしまうのがネルシーニョです。それでJ1昇格初年度以降、リーグタイトルが穫れなかったのかなと思います。
 でも、リーグにベストメンバーを集中させて優勝を目指すチームも中にはいましたが、そんなの全然偉いとは思いませんね。リーグに注力したらこっちだっていつでも勝てるよと(笑)

―なるほど。

 もう一点、基本的にベストメンバーを使いますが、ブラジル人は仮にコンディションがあまりよくなくても優遇して起用する傾向がありますね。これもある意味欠点かと思います。ネルシーニョ本人は否定していますが。

―よく「監督のサイクルは3~4年」みたいな話がありますよね。厳しい監督だと、選手が慣れてしまって以前ほど統制が利かなくなったり・・・。

 それは海外のビッグクラブや強豪代表チームに当てはまる話だと思います。それらのチームは、選手が入れ替わらないステージにいます。チーム内のトップ選手が、他のチームに移りにくい、あるいは代表なら移らないので、よそと比べて新陳代謝が起こりにくいです。
 Jリーグの場合だと図抜けた選手は、海外も含めてより大きい規模や高いレベルのチームに移ったりして新陳代謝が起こるので、監督が仮に4年以上いたとしても、その間ずっと在籍している選手は多数派になりません。
 だから見ている人が飽きてくることはあっても、選手が監督に慣れてしまうことはないと思います。

―ネルシーニョが柏を去ってから、今季戻ってくるまでに4人の監督が柏を率いました。ネルシーニョのときと比べて、違いというのは顕著にあらわれるものなのでしょうか。

 そうですね・・・。吉田(達磨)監督は、まずユース監督時代からこだわっていた4-1-4-1のシステムしか使わないんですね。そしてたいてい逆転負けします。
 普通なにか悪いことがあったら、試合中なり次の試合前に修正してもいいのに、毎試合戦術は変わらない。いつ見ても同じ形でやられます。
 今考えると、変えないというか、変えられなかったのではと思います。試合中、手は打たないけどオタオタしてる姿はよく見えたので。
 ただ、僕が素晴らしいと思う監督の一人であるオシムも同じように自分のやり方を変えないタイプです。でも彼は、試合中に予想外の状況が起きても動じません。

―ネルシーニョとオシムはそこが共通していたと。 

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