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行政DXのその先へ ~誰のためのデジタル化か、改めて考える~

2024年2月9日に開催された国際社会経済研究所(IISE)による「IISEフォーラム2024 ~知の共創で拓く、サステナブルな未来へ~」では、各テーマに沿ったブレイクアウトセッションを実施。「行政DX」をテーマに、武蔵大学 教授の庄司 昌彦 氏、国際社会経済研究所(IISE)理事長の藤沢 久美、IISE 研究主幹の小松 正人がパネルディスカッションを行いました。

※本記事の登壇者肩書は2024年2月9日開催当時のものです。


オープンガバメントの歴史 ~庄司 昌彦 氏~


私は、2000年代中盤以降は地域SNSの研究に、2010年代に入るとその延長線上でオープンガバメントの研究に取り組んできました。

武蔵大学 教授  庄司 昌彦 氏

SNSによる政治参加は、いろいろとかたちを変えてきました。最初期は「Twitter(現在の“X”)」を利用する議員が注目され、SNSを使って議員に市民の声を届けるかたちが一般的でした。それが「アラブの春」やトランプ大統領が当選した2016年の「米国大統領選挙」に代表されるように、数多くの人たちがSNSを通じて政治を直接動かす動きが出てくるようになったわけです。

その後は自らがツールをつくり、コミュニティを運営して、市民自らが課題解決を目指す「シビックテック」の動きが出てきました。日本では2011年の東日本大震災をきっかけに、シビックテック主導でオープンデータ活用の機運が高まりました。そしてコロナ禍以降、あるいはデジタル庁発足以降は、政府主導による基盤整備的な取り組みが目立っています。

現在進められている行政デジタル改革では、地方自治の在り方や「国」と「地方」の役割分担の見直しが行われています。さらに自治体システムの標準化が進められていますが、これが実現すると、国が自治体システムを支える部分の拡大が進む。そこで、国と自治の関係をどう考えるかということも、議論すべき重要なテーマになってくると思います。

日本の行政デジタル化の歴史と現状 ~小松 正人~


日本の自治体の基幹系システムは、1970~80年代に手作業から電算化が進みました。ただし自治体システムは個別に構築され、それぞれのシステムはネットワークにつながっていませんでした。これが「住基ネット」により初めて、各システムがつながったわけです。

国際社会経済研究所 研究主幹 小松 正人

その後マイナンバー制度が整備され、コンビニで住民票を受け取れるサービスができるようになりました。そして現在取り組んでいるのが、自治体業務の標準化になります。

2025年を目途に、全ての自治体で標準準拠システムに変えようという話が進んでいます。データが統一されれば、官民でデータ連携ができたり、ワンストップサービスができたりする世界が待っています。さらにその先には、地域共創、住民の政策関与が進むと考えられます。

行政DXは人材戦略とデジタル活用を両軸で進めるべし


庄司 
行政DXは負荷がかかっていたアナログな部分を底上げすることが重要。今までのやり方を変えて次の段階に行くことが一番のポイントだと思います。

藤沢 企業においてもDXを進めるにあたって「背中合わせになっている2つの取り組みがある」という話をよくしています。ひとつはデジタルをどう使うのかという技術の話。もうひとつは企業文化の改革や価値観の改革、働き方改革という話です。この2つを同時にやらないとDXは進みません。

このことは行政にも当てはまります。人口が減っている中、今までのやり方で仕事をこなすことが困難なのは行政も同じです。だからこそ働き方を変える必要があります。さらにいえば行政官の存在意義も変えていかなければならない。行政官は何のためにいるのか。地域のためにどのような役割を果たすべきなのか。何を使命としているのか。このような人材戦略とDXを同時に進めていくことが、行政DXの本質ではないでしょうか。

小松 カルチャーの変革に取り組む自治体の副市長にヒアリングさせていただきましたが、その際にも「文化を変えるためにはトップから変えることがとても重要だ」とおっしゃっていました。一般の職員にただ「変わりなさい」と言っても、恐らく変わりません。組織のトップ自らが実行することによって、組織内に波及していくのです。

庄司 社会課題解決にとらわれすぎるのもよくないと思います。街のつくり方を考える上で、マイナスの課題を解決することばかりに目を向けるのではなく、「自分たちは何を大事にして、何を行っていくのか?」というプラスの価値も、きちんと考えることが大事だと思います。

ヒト・モノ・カネが循環する参加型まちづくり5つのポイント 上士幌町の事例 ~藤沢 久美~


上士幌町は、北海道の帯広の北側にある人口4,768人(2024年1月現在)の小さな町ですが、特に若い世代の人口が増えています。ではなぜ人を惹きつけるのか。取り組みにおける5つのポイントを紹介します。

国際社会経済研究所 理事長 藤沢 久美

1つ目は「成果の見える化」です。人口が増えた、経済が活性化した、税収が増えたなどの成果が見えるようにしています。

2つ目は「デジタル化の進化」。情報発信、LANや5Gなどの通信インフラ整備に力を入れたうえで役所内にデジタル推進課を新設。高齢者にタブレットを配布したり、オンデマンド交通などを始めたりして、サービスを高度化しました。

3つ目は、デジタル化を進化させるキーパーソンを、上士幌町で「つなげる」取り組みです。町長が様々な地域に足を運び、新しい技術を実装できる場を探している人に「上士幌町ならそのようなことができる」と声をかけ、実験フィールドを提供しています。

4つ目は、「ビジョナリーであること」。新しいことにチャレンジしていくと、どんな未来がやってくるのかを住民がイメージできるように絵を描いていくということです。

5つ目は、「ガバナンスとディスクロージャーの徹底」です。まずはガバナンスを強化して誰が責任者なのかを明確にし、そして何にお金を使い、どのような成果につながったのかをディスクロージャーできちんと報告できるようにしています。この2つができていないと人は集まってこないし、集まった人もそこで活躍し続けてはもらえません。

企業がその地域をうまく活用してエコシステムを回す仕組みをつくる


庄司 藤沢さんのお話を聞いて、どんな街をつくっていくかを考えるうえでは、ガバナンスとディスクロージャーが本当に大事だと改めて感じました。

藤沢 実は自治体には、税収以外にお金を得る方法がたくさんあります。寄付や国からの補助のほか、団体をつくって融資を受けることもできる。そこで求められるのが、具体的にどんな目標をもってやるのかを考えることです。

寄付であれば名誉を差し上げられるような仕組みをつくればよいでしょう。投資を受けるにしても、自治体側がどういうことをしたいかを明確にすれば、投資がしやすくなるわけです。そして成果を出せば、よいお金の循環も生まれます。

庄司 地域社会のDXにとっては、必ずしも行政が全てのお金を預からなくてもよいのではないでしょうか。雇用や消費者との関係を考えれば、むしろ地元企業にコミットし続ける必要があります。インフラをはじめとする社会資本づくりに民間活動も含めた様々な手段を組み合わせて地域を回していく。そうすれば、皆でつくった街になると思います。

小松 おっしゃるとおり、企業がその地域をうまく活用してエコシステムを回す仕組みをつくり、それを自治体がバックアップする――そうした姿勢が街をつくり上げることにつながるはずです。

行政DXは手続きのデジタル化がゴールではありません。「どういう街でありたいか」のビジョンを首長が自ら描き出し、それを実現するために官民交流で人が集まり、街をつくり上げることが重要になります。そうした世界観が各自治体に浸透して全国に広がっていけば、日本はもっとよい国になるでしょう。

【アーカイブ動画・抄録を公開中】


国際社会経済研究所(IISE)では、当日のセッションの様子を収録したアーカイブ動画および抄録を公開中です。

アーカイブ動画

公開期間:2024年 5月31日(金)23:59 まで
視聴方法:リンク先の「ご視聴の申し込み」よりご登録いただき、ログインしてご視聴ください。

抄録

https://www.i-ise.com/jp/information/symposium/2024/sym_iise-forum2024_ab.html



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