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小説『ネアンデルタールの朝』第一部

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小説『ネアンデルタールの朝』第一部を掲載しています(全27回)。章ごとにまとめた投稿もあります。
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#生きる

連載小説『ネアンデルタールの朝』①(第一部第1章‐1)

第一部 あの青い空の波の音が聞えるあたりに あの青い空の波の音が聞えるあたりに/何かとん…

鈴木太緒
3年前
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連載小説『ネアンデルタールの朝』②(第一部第1章‐2)

2、 4月初めのよく晴れた日の午後、大学本館前の広場に一人で座っている明日香を見かけたこと…

鈴木太緒
3年前
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連載小説『ネアンデルタールの朝』③(第一部第1章‐3)

3、 大学構内にあるバスロータリーから正門まで、およそ600メートルに及ぶ直線道路が走ってい…

鈴木太緒
3年前
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連載小説『ネアンデルタールの朝』④(第一部第1章‐4)

4、 並木道を後にし、民喜は海岸の方へ向かった。 フロントガラスから見える空は快晴だ。青空…

鈴木太緒
3年前
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連載小説『ネアンデルタールの朝』⑤(第一部第1章‐5)

5、 「ニュースで見たんだけどさ、ネアンデルタール人って、ホモ・サピエンスと交配してた可…

鈴木太緒
3年前
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連載小説『ネアンデルタールの朝』⑥(第一部第1章‐6)

6、 翌朝、目覚める直前に民喜は夢を見た。 初め、民喜は暗い森のような場所を歩いていた。足…

鈴木太緒
3年前
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連載小説『ネアンデルタールの朝』第一部第1章まとめ(①~⑥)

第一部 あの青い空の波の音が聞えるあたりに あの青い空の波の音が聞えるあたりに 何かとんでもないおとし物を 僕はしてきてしまったらしい (谷川俊太郎『かなしみ』より) 2015年8月 福島 第1章 1、 そう言えば、桜がこの町のシンボルだった。 路上に車を停めた民喜はそう思った。 エンジンを切り、一呼吸置いてからドアを開ける。瞬間、モワッとした熱気と賑やかなセミの声が民喜の全身を包み込んだ。 遠くまでまっすぐに続く並木道を眺める。沿道に立ち並ぶ桜並木はいまは濃い緑の葉

連載小説『ネアンデルタールの朝』⑦(第一部第2章‐1)

第2章 1、 民喜は駅前広場から車を出発させた。遮断機が失われた踏切を通り抜け、ロウソク岩…

鈴木太緒
3年前
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連載小説『ネアンデルタールの朝』⑧(第一部第2章‐2)

2、 民喜はかがみ込んで、雨どいの下にガイガーカウンターを近づけてみた。土壌から5センチほ…

鈴木太緒
3年前
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連載小説『ネアンデルタールの朝』⑨(第一部第2章‐3)

3、 いわき市の実家に戻ったのは、夕方の5時頃だった。 「ずいぶん早かったわね」 台所から母…

鈴木太緒
3年前
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連載小説『ネアンデルタールの朝』⑩(第一部第2章‐4)

4、 夜、スマホを見ると、大学の友人の山口凌空(りく)からラインのメッセージが届いていた…

鈴木太緒
3年前
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連載小説『ネアンデルタールの朝』⑪(第一部第3章‐1)

第3章 1、 「ビール飲むか?」 冷蔵庫から500ミリリットルの缶ビールを2本取り出してきた父…

鈴木太緒
3年前
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連載小説『ネアンデルタールの朝』⑫(第一部第3章-2)

2、 ラインの電話の着信音で民喜は目を覚ました。時計を見ると、午前10時を過ぎていた。慌て…

鈴木太緒
3年前
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連載小説『ネアンデルタールの朝』⑬(第一部第3章-3)

3、 快晴の空のもと、雑木林が明るい緑を輝かせている。休日だからか、道路に車はほとんど走っていない。帰還困難区域に入っても、目に映る風景には一見何も変わりはなかった。信号機がずっと黄色で点滅したままであること、そして左右の道路がすべてバリケードで封鎖されていることを除いては――。 将人が言う「面白い場所」とは6号線のことだった。 東京から水戸市を経て仙台に至る国道6号線は、途中、福島の浜通りを通過する。原発事故以降、浜通りの一部の区間は帰還困難区域と重なり交通が規制されていた