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死の棘

小栗康平監督、松坂慶子、岸部一徳出演
映画「死の棘」を観た。
図書館のDVDコーナーから借りて観た。
これは島尾敏雄原作の小説が好きだったからだ。
小説が好きすぎて映画を見る気にならなかったが、ふとやっぱり観たい…映像であの世界を…と観る気になった。
この物語は島尾敏雄が浮気をして、妻のミホがそこからだんだん狂っていく。
2人の子供が見ている前で生き死にの争いを繰り広げる夫婦の日常の記録だ。
大変、暗い風景が流れていく。
ミホの故郷の奄美の歌が流れる時もある。
特攻帰りの敏雄の過去も色濃く流れる。
精神に異常をきたすミホは夫の行状をそれこそ1日中問いただす。
ミホの台詞が私の気持ちにズバッときた。
以下敏雄に言ったミホの台詞。
「あいつを喜ばせたことがあるか。」
愛人の事をあいつと呼んでいる。
「あいつに贈り物をしたことがあるか。」
口調がこわい。
「馬鹿だね。何を寝ぼけているのさ。お前さんが落ち込んでいるこの状態が地獄というのだよ。」
地獄なりどこなり連れて行け!と逆上した敏雄に言った言葉。
「そんな嫌がらせをするのなら、ついでに真っ裸になれ。」
正月の寒い夜中、肺炎になってやると下着になった敏雄にミホが言う。もっとすごい事に
「よぅし、そんならあたしもやってやる。」とミホも着物を脱ぎ捨て下穿きひとつになる。ミホ(松坂慶子)のオッパイが見れる。
しかし、冷静に外から見るといい歳をした夫婦が裸で我慢くらべをするのは滑稽だ。
買い物に行く途中、ミホに問い詰められ絶叫する敏雄。そこから走りだし線路へ這っていく、ミホがむしゃぶりついて止める。
大声でわんわん泣きながらミホに連れられて帰る敏雄。
「泣かなくていいの。泣かなくていいのよ。」優しく言うミホ。
いい大人の男が手放しで子供のようにわんわ泣くのが見ものである。
しかし、私はその敏雄の精神状態がわかる。よくわかる。精神が粉みじんに破壊され、
ばらばらに散らばってしまい、
自分では修復できまくてわんわん泣くより術がない。
元はと言えば女と浮気したせいで妻がおかしくなってしまったのだ。
馬鹿野郎と妻にぶたれてもしょうがない。
しかも女に1ダースのパンティをプレゼントした事もバレている。
女を産婦人科に入院させた事もバレている。
やることをひと通りやってしまった訳だ。
そしてミホが精神病院に入院してまた身辺がごたごたする。
そこに愛人の女が見舞金を持ってやってくる。鬼の形相になるミホ。
「あいつが来た!逃がすもんか!」
愛人を前に佇む敏雄とミホ。
愛人が差し出す見舞金を見てミホは
「なんだそれは!」
「あなた達からそんなものを貰う訳がないじゃなりませんか。人の家庭をめちゃめちゃにしておいて何が見舞金だ!」
腹に響くすんばらしい罵り。
「敏雄、ほんとうにあたしが好きか」
敏雄「…好きだ」
「この女は好きか嫌いか」
敏雄「嫌いだ」
「ならあたしが見てる前でこいつをぶん殴れるでしょう!そうして見せて!」
ミホの迫力に逆らえない敏雄、ぺちッと軽く女の頬を叩く。
「力が弱い!もういっぺん!」
今度は本格的に女をぶつ敏雄。
「そんなことであたしの心は治るもんか!」
女に襲いかかるミホ。

私は10回くらい死の棘を観てしまった。
ハマりすぎた。
しばらく死の棘の世界から抜けられんだろう。

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