夢と目標

「夢と目標は別物だろ?」
夜の繁華街の一角、いつも通っている居酒屋で友人がいきなりそんな事を言いだした。
「そうなのか、」
焼き鳥を食べながら適当な相槌を打つ。
「夢っていうのはさ、寝てるときにも見るだろ?だから届かないもので、目標は、現実的な、何て言うか、その、現実的な目指すべきところじゃん。」
だいぶ酔いが回っているらしくあくびを噛み殺している。
「そうかもな」
また適当な相槌を打っておく。どうせ朝起きたら全部忘れているのだから。
「タスクみたいなのだよ、」
そう言って酒をまた飲み始めようとしたのでその手から酒を奪い代わりに飲み干す。少しの酒でも酔うくせに何杯も飲もうとするから困りものだ。
「吐くなよ」
顔を真っ赤にした友人にこの言葉が届いているのかは分からない。おそらく届いていないだろう。
「ゆうじ~」
「なんだよ」
「家泊めて」
こいつ酔ってないな
「嫌だよ。終電で帰れ」
「駅から家遠いからやだ」
いつもの決まり文句に舌打ちをする。
「お前な~」
「俺とは飽きた?」
そうじゃない。とも言えず口をつぐむ。
「俺でもいいからこうやって飲みにきてるんだろ?俺じゃなくてもお前はモテるから相手なんてよりどりみどりだろ?」
「そうだな。お前じゃなくてもいいな。」
長い間お互いを欲のはけ口にしていたがそれも終わりに近づいているのを俺もお前も気がついていたんじゃないか?
「もうお前とは飲まないわ。」
隣の友人を一瞥もせず夜道を歩いていく。
酔った勢いに任せて友人とはいろいろな事をしたがそれが狂ったのはいつだったか、もう覚えてないくらい昔だったかも知れないし、意外と最近だったかも知れない。
彼といると今日が何月何日で何時何分でどこで何をしているのか忘れてしまう。
段々といろんな感覚が麻痺していっていつの間にか朝になってる、そんな夜を何回過ごしたか、
コンビニで買ったタバコとビールを誰もいない薄暗い公園で1人開ける。
公園で1人でビールを開けるのはいつぶりだろう。仕事帰りにビールとタバコ片手に公園に来ていたのはつい半年程前のはずなのになぜかもっと前に用に感じる。
人間、別れと出会いがある、今回は別れだっただけだ。そもそも彼とは地元が同じだから同窓会ではあうはずなので、実際永遠の別れというわけでもないから別に悲しくもないし「まあこんなものか」くらいだ。
「なんで置いてくの?」
そういえばここで彼ともよく酒を飲んでたなと半年以上前の思い出が起こされる。
「お前が飽きた?とか聞くからだろ」
「ツンデレかよ」
答える代わりにタバコの煙を吐く。
「終わらせるつもりだったし、今更だろ」
隣に座ったであろう彼に目線は合わせない。
「何?未練でもあんの?」
何も話さない彼にそう聞いてみても答えがないのは知っている。彼は大事なことは慎重に言葉を選んでから言う。そこは尊敬ができる。
「そうだな。未練が無いって言ったら嘘になるな。」
彼がどんな気持ちでここにいた、何を言いたいのかも分かっている。彼にわからされた、とも言えるが。
「別にセフレやめてもいいけどお前はどうしたい?」
こいつの嫌いなところは自分からなかなか言い出さないで、俺が言うのをまっているところだ。俺に言わせるように仕向けておく、何回も引っかかってる手だ、こいつは詐欺師並みに口がうまいから最初のうちは騙されてたかも知れないが、今は違う、もう見破れる。
「俺は、」
静かな沈黙、こいつは俺がこれ以上言い出さないのを分かっているのかいないのか。
「俺もセフレはもうやめたい。」
「そう。」
「…ちゃんとした恋人になりたい」
隣を見ると顔をうつむかせて耳まで赤くしている。
初心だな。言葉にはしないが内心でそう笑う。
「そう。じゃあ目移りするなよ」

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