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    考えている様で考えていない様な、役に立ちそうで役に立たない様な概念的くだ

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短編小説『屹立』

それは、中年の痩せた男が大木に背中を預け、立っている様な絵だった。何故"立っている"ではなく、立っている"様"なのかと言えば、その男が既に死んでいるからだ。 題名は『遺体』。 その男の胸にはナイフが深く突き刺さっており、そこから赤い筋が白いシャツの裾に向かって流れ、ズボンにまで伸びている。シャツの上に描かれた顔には絶望からの弛緩が見て取れた。静的だが、インパクトのある絵だ。嫌に生々しく、リアリティがある。まるで、本当にこの死体を見ながら描いた様だ。気になって題名の下にある名前

    • 短編小説『楽園と蛇と僕の間にあった木について』

      ”香り”から呼び覚まされる記憶がある。 私の場合は、いちごみるくのキャンディーを舐めると学生時代の通学路の光景が目の裏に現れる。 君の場合はどうだろう。 「この実は勝手に食べちゃ駄目。」 母は幼い僕と柚子の木の間に立ってそう言った。普段にない厳しい表情だった。その小振りな黄色い果実を母の肩越しに見つめる。一見、蜜柑に似ている様に見えるけど、食べちゃいけない。なんでだろう。 しかし食べてはいけないと言われれば、その果実のことが却って気になり、部屋の窓からその木を眺めることが

      • 短編小説『Contact』

        「私の何処が好き?」 そう訊かれて僕は、 「笑顔」とか「意外と男勝りなところ」とか応える。 そうすると相手は満足そうな表情を浮かべたり、はにかんだりして見せた。 しかし僕は本当の事を話してはいない。勿論彼女の笑顔や、そのさっぱりとした性格を魅力と感じているのは事実だ。しかし本当のところ、それらは付属品として、後から魅力と感じただけで、僕がそもそも彼女に惹き付けられた理由は違うところに存在する。 その『瞳』だ。 彼女の瞳の色は、僕が住む国には少し珍しい色だった。僕はそれにどう

        • ド素人、『詩』を書く。もしくは書き損ねる。

          書き方を検索している時点できっと才能はないです。 いやはや。 調べてみると詩にはどうやらルールがないらしく、テーマを決めて書いてみたり、心をつらつら描写してみたりと、皆さん好き勝手やっておられる様なので、私も倣って。 しかし、私には滲み出す様な内なる情熱や社会批判めいたものが見当たりませんので、今回は、 『詩を書いてみようと思います』という言葉から出発して、それらしく弄ってみようと思います。 『詩を書いてみようと思います』 少しかっちりしすぎていて、どうも詩人らしい浮

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        短編小説『屹立』

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          脊髄街『蟷螂女の肖像画』

          その絵を見た時、私はそんな風に思った。 別に肌が緑とか手が鎌状であるとか、そういうことではない。顔つきが蟷螂(カマキリ)に似ていたと言うのも、正確ではない。これはあくまで直感的な話なんだ。 女は小綺麗な格好していた。 普段からそうしているタイプかは知らないが、なんとなく神経質で、それで狡猾な印象を受けた。微笑みを湛えた両頬の筋肉も、双方均一に持ち上がっていて、どこまでも左右対称に感じる顔つきをしている。これはもしかしたら画家による手腕、補正なのかもしれない。もしそうだとすれ

          脊髄街『蟷螂女の肖像画』

          バットマン同人小説『罪の起源』

          蝙蝠が死んだ。  犯罪都市と名高い、いや名低い?それも変な言葉だ。兎に角、ネズミさえ病気になりそうなこの街で、たった一人「犯罪」というウイルス殲滅に躍起になっていた男が死んだ。 野次馬の一人が、死んだ男の奇妙なマスクを恐る恐る剝がした。 野次馬たちはそれぞれ、目をまん丸にしてその顔を覗き込んだり、悲鳴を上げたり、隣のやつとあーだこーだと議論を始めるやつ、ただ息を飲んで見守っているやつとか、反応は色々だった。 俺はと言えば、ただ黙って見ていた。 その男の顔、無惨に眠らされたそ

          バットマン同人小説『罪の起源』

          短編小説「治せないなら食べればいいじゃない!」

          ワトソン博士はカレンダーを睨んでいた。 自分の持つこぢんまりとした診療所に、最後に患者が顔を見せた日が思い出せなかったのだ。一週間前?いや、先月のカレンダーを破る時に「最近お暇そうですね」と看護師のメアリーに嫌味を言われた記憶はある。そう!記憶がある!!!私の灰色の脳細胞が機能していないわけじゃない。本当に患者が来ていないのだ!ワトソン博士は引き出しから双眼鏡を取り出すと窓辺に立って町を見下ろした。診療所は小高い丘の上にあり、町の全景が見渡せた。何かしでかした覚えはない。だと

          短編小説「治せないなら食べればいいじゃない!」

          極短編小説「日常」

          A.気温はそれほど高くない日だったが、雨季特有のまとわりつくような湿気がどうも嫌な汗をかかせる。 張り付いたシャツが気持ち悪い。 こういう日は細かいことに苛立ってしまう。 他人の笑い声、やたら引っ掛かる信号機、湿度で曇る眼鏡、のんびりした歩行者、ぶつかるバッグ。 許容範囲を超えてしまいそうだ。 表面張力の様に、ギリギリで持ち堪えているフラストレーション。 そしてついにその時が来た。 駅のホーム。 スマホ片手に歩いてきた女が俺の並んでいた列に平然と割り込んで来た。 お前の為に距

          極短編小説「日常」

          ド素人が「落語」を作ってみた。

          どうも、寝袋男です。 落語を聴くのが好きです。とは言え詳しいわけではなく、なんとなーく流すのが好きなのですが、今回はTwitterのやりとりの為に作った画像(見出し画像参照)が思いの外よかったので、なんとなーく落語を作ってみようかなと思います。 まず、 落語とは?江戸時代に成立した伝統話芸の一種。 最後に「落ち(サゲ)がつくこと、会話形式が中心であることを特徴としている。 滑稽噺、人情噺、怪談噺などがある。 とりあえず「落ち」さえあれば、落語と言える? 粋な会話と華麗な落

          ド素人が「落語」を作ってみた。

          占いでよくある相談に「哲学者の考え方」で対応したらどうなるのかやってみた

          どうも、寝袋男です。 私は心理学やら哲学の本をふらふらと読んできた者なのですが、その派生で占い方面にも多少知識の枝が伸びていたりします。 心理学、哲学、占い、時に相容れない三者ですが、やはり切っても切り離せない文化な気がします。それはやはり「人間が抱える形のない部分の探求」という点で共通するからでしょう。 ここ数年は社会に不穏な空気が漂っているせいか、哲学の有用性が今一度見直されているそうで、今回は占いでよくある質問に「哲学者の考え方で対応したらどうなるのか」をやっていきます

          占いでよくある相談に「哲学者の考え方」で対応したらどうなるのかやってみた

          短編小説「夜を覗く時」

          黒尽くめは宵闇に紛れる。 夜の【散歩】にうってつけだ。 「趣味は?」と訊かれれば【散歩】と答える。 今日は何処に行こうかな。 今夜は、"どう"しようかな。 通称「42団地(シニダンチ)」。 別に42棟あるって訳でも無いし、番地でも無い。 名前の由来は諸説ある。八という字がつく村があったから。都市開発の際に42人の変死体が出てきたから。 自殺の名所だからとか。 変な噂が受け継がれるのも仕方がない程、この辺りは鬱蒼と木が生い茂っていて薄暗い。夏でもうすら寒かったりする。住人以

          短編小説「夜を覗く時」

          本棚で「性格」を生成する

          どうも、寝袋男です。 今日はTwitterのやり取りから思い立って本棚を整理することに。全部出してみたら228冊でした。 全国平均データや本棚を見せてくれる友人がいないので、多いか少ないかもよく分かりませんが、とりあえず「うわ、引っ越しの時嫌だなぁ」が率直な感想です。 全部取り出して見てみると分かりますが、 やはり「本棚には性格が現れる」なぁと。 本棚に性格が現れる これは裏を返せば、 本棚で「性格」を作れる のではないでしょうか。 これは勿論「本棚を変えて自分も変

          本棚で「性格」を生成する

          「官能小説」についてド素人がセオリーミリしらで考える

          えっちな文化をタダで手軽に入手出来る。 竹藪と河川敷のロマンが遥か古となった時代。 あえて官能小説について考えてみようと思う。とは言ったものの、官能小説に触れた時間はそう多くはない。 学生時代スリル欲しさに授業中読むという戯れをした記憶。 最近では後学の為と書店でどんなタイトルや表紙が流行っているのかとたまに見てみる程度の付き合い。 そんな私に官能小説を書く友人が出来た。 読んでびっくり、セックスがしたくなる文章がそこにはあった。 はえー、こんな特殊能力も世の中にはあるのだ

          「官能小説」についてド素人がセオリーミリしらで考える

          短編小説「ニドネ•オン•ザ•ベッド」

          柔らかくて気持ち良い。興奮している。 脳の奥底から何かが溢れ出す。 彼女の潤んだ瞳。 水中から水面に顔を出す時の様に。 モコモコにカットした中高音を徐々に元に戻していく時の様に。 音の解像度が上がる。 その中でアラームの音をより鮮明に掴んだ。 瞼が上がる。 [am 7:00] アラームを止めて、枕に顔を埋める。昨晩の酒で頭が痛い。 夢の続きが見たい。 もう少し寝かせてくれ。 さっきのは念の為の一度目のアラームだ。まだ眠れる。 あと十五分。二個目のアラームを確認して、微睡み

          短編小説「ニドネ•オン•ザ•ベッド」

          『非往復書簡』#6を届けた隣人(ご近所観測メモ)

          観測日 3月20日(日) くもり 最高気温12℃ 近所のカラスの鳴き声で目を覚ます。 同じ太さの鳴き声がここ数日響いている。カラスに縄張りがあるのだろうか。 カラスと同じくらい喧しい主婦の声も聞こえる。 マンションの向かいに居を構える飯田さんと橋本さんところの奥様方だ。 ぽっちゃりとガリガリ。深くてやたらと地に響く笑い、トンガってキンキンしてる笑い。 私の302号室の隣、303号室には女が住んでる。 地味な女だけど、昨晩も嬌声が響いていた。 相手はいつも誰だか分からない

          『非往復書簡』#6を届けた隣人(ご近所観測メモ)

          短編小説「メリーゴーランド」

          「どうしたの?」 彼は振り返って、心配そうな顔で私を見つめている。 「乗りたくない。」 急激に思い起こされる幼少期の記憶。 「メリーゴーランドだよ?皆好きだ。怖いの?」 彼は無邪気に笑う。その幼さの残る顔に今は嫌悪感を覚えてしまう。 「帰る。」 なんとなく遊園地に足が伸びなかったのは、絶叫マシーンに乗せられるのが嫌だからだと思い込んでいた。 なんで忘れてしまってたんだろう。 「待ってよ」と彼に声が聞こえた。腕も掴まれた気がする。 でも今はそれどころじゃない。一人になって思い出

          短編小説「メリーゴーランド」