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脊髄街『蟷螂女の肖像画』

その絵を見た時、私はそんな風に思った。
別に肌が緑とか手が鎌状であるとか、そういうことではない。顔つきが蟷螂(カマキリ)に似ていたと言うのも、正確ではない。これはあくまで直感的な話なんだ。

女は小綺麗な格好していた。
普段からそうしているタイプかは知らないが、なんとなく神経質で、それで狡猾な印象を受けた。微笑みを湛えた両頬の筋肉も、双方均一に持ち上がっていて、どこまでも左右対称に感じる顔つきをしている。これはもしかしたら画家による手腕、補正なのかもしれない。もしそうだとすれば、現実の、このモデルの女はそれ程恐ろしいわけではないのだろう。そう思って仮想的に自分を安堵させた。
それが間違いだった。私はその画家も、その女も低く見積もってしまった。補正することないその写実力は、ありのままを描いたに違いなかった。私は女に実際に会って、それをまざまざと見せつけられた。

女は画家の愛人だった。

特筆すべきはその特徴的三白眼だ。
冷たく、とても鋭利に私の内面を抉る。
お前が人生でついてきた嘘、全て分かっているのだぞ。そんな目だった。

暫くして、画家が行方不明になったと、ラジオのニュースで流れてきた。

私は、その夜、雌の蟷螂に犯され、頭から貪られる夢を見た。

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