小説断片

ザ・ゲーマーズ(仮)

[メモ]

<戦争ネットワークゲーム化理論誕生秘話>
 戦争をなくすことはできない。しかし、戦争をなくす必要は本当にあるのだろうか。なくすべきは、不条理な死や苦痛であって、戦争そのものは必ずしも悪ではないのではないだろうか。流香正志はそのように考え、苦難の末、人類史における戦争の機能をすべてネットワーク・ゲームに移行させることを実現した。のちに国連戦争管理事務局初代局長となるこの男の構想した戦争ネットワークゲーム化理論は、おおよそ次のような思考の下に体系化された。
 まず、物理的戦争は数々の悲劇を生む上に、核兵器が存在してしまった現代では、大規模戦争が起こってしまえば、人類絶滅の危機さえある。そのため、すでに核兵器を持っている国に対しては、武力行使はほとんど不可能な状況にある。一方で、核兵器を根絶することは現実的ではない。廃棄処分が容易ではない上に、リスクが大きすぎる。それどころか、核を保有する大国と何らかの理由で敵対する国々は、新たに核兵器を作らざるを得ない。核兵器は明らかに外交を有利にするからだ。核は戦争抑止力であるという考えがあり、実際にそのような効果も持っているが、他国に先んじようとする闘争本能が強い国のすべてが核を持ったとき、外交の情勢は一体どのようなものとなるのか。国力で歯が立たない場合は、いわゆる「ハッタリをかける」という戦略をとらざるを得ない。非常に危険な状況である。ハッタリが効力を持つためには、バックグラウンドとなる思想が「信頼」できるものでなければならない。つまり、危険思想の蔓延が余儀なくされる。そして、危険思想が高じれば、実際に核戦争を起こそうという輩が必ず出てくるはずだ。つまり、このままでは、核戦争―人類の滅亡は、現実のものとなってしまう。しかし、あきらめるわけにはいかない。私には成し遂げるべき理想がある。それは私の死後も、引き継がれなければならない。どこかに抜け道はないものだろうか。そもそも、戦争の動機、戦争のメリットとは何だろうか。もし戦争の存在理由の諸々が、他の何らかの事柄で代替されたらどうか。最も大きな動機は、恐らく、いや、明らかに、金と権力だろう。他にも本質的な要因はあるだろうか。…闘争本能。攻撃衝動。支配願望。この辺りだろうか。そして、それらはいつでもスポーツや格闘技で代替されうるとは限らない。戦争での戦闘に似た形で実現される必要がある。似た形? ヴァーチャル。ヴァーチャル・リアリティといえば…、そう、ゲームだ。現代のビデオゲームの技術は、かつてのそれとは比べ物にならないほどのリアリティを実現することに成功している。実際に、攻撃的な本能を、ネットワーク対戦で満たしている者も多く、それらネットワークゲームの中には、戦争の形式をとっているものが少なからずある。では、先ほど戦争の動機として最初に挙げた、人間の欲望の2つの普遍的形式、金と権力を、それに組み込めたとしたら…。

<登場人物>
・主人公…元ニートで、地元では有名なゲーマー。中学までは勉強ができたのだが、あまりにゲームが好きすぎて、高校から一切勉強をやらなくなった。将来とゲームとでゲームを選んだ男。

・鬼頭圭一(おにがしら・けいいち)…元プロゲーマーで、国連戦争管理事務局設立の際、日本国の総合指揮官に抜擢された人物。指揮官という立場だが、プレイヤーとして参加しても超一流で、その年収は10億を超えるとも言われている。通称「将軍」。最も得意なのは対戦格闘型ゲーム。「きとう」ではなく「おにがしら」であることを強調する。

・ライバル…中学までは主人公と毎日ゲームを楽しむ仲だったが、高校から勉学に専念するようになった。全く逆方向に行った主人公を軽蔑しているが、大学に入って再びゲームにのめり込むようになり、かつての感覚を取り戻す。

・ハッカー…

・流香正志(りゅうが・まさし)…戦争ネトゲー化による世界平和の逆説的実現を目論んだ張本人。名誉局長。

<戦争ネトゲーの内容>
・ヴァーチャル戦争型…
・格闘対戦型
・MMORPG型

<ストーリーの大まかな流れ>
イントロ

事務局による大規模イベントに向けた一斉雇用で、関東地区のリーダーに任命される。

大規模イベントで見事日本側が勝利し、MVPである主人公に、次にグローバル・ウォー・ゲーム化するジャンルとしてMMORPGか対戦格闘かを選ぶ権利が与えられる。MMORPGを選ぶ。


[本文]
 
 2086年。タイムマシンで100年くらい戻って、僕たちの時代では毎日戦争が起こっている、と告げたら、彼らは驚くだろうか。もしも驚いてもらえたら、こう言って、さらに驚かしてやろう。戦死者は一人も出ない、と。今のような状況になったのは、5年前に、国連に新たな事務局ができてからだ。戦争管理事務局。特にそれで何かが変わったわけでもなかった。僕たちのような人種を除いては。思えばきっかけは、ネットワーク型対戦ゲーム、いわゆるネトゲー内の通貨が、そのネトゲーを開発している会社の登録されている国で、決まった換算率で現金と交換できるようになったことだった。どうも国が財政を立て直すためにネトゲー産業に目をつけて、人気のあったネトゲーの会社を買い取ったようなのだが、詳しいことは分からない。きっと法律関係のゴタゴタもあったんだろうけど、テレビはゲームにしか使わない僕には、知りようがなかった。ただ、ゲームだけが取り柄だったニートの僕がそれによって救われたことは確かだ。僕と同じような、働きもせずに年がら年中ゲームばかりやっている奴らも、僕と同じように喜んだに違いない。とはいえ、最初は、換算率が低かったので、大した稼ぎにはならなかった。だが、国が認めたお金が稼げるゲームということで、そのゲームのプレイ人口はどんどん増えていったようだ。恐らくそれに応じて、換算率もどんどん上がっていった。そんなこんなで、いつの間にかゲーマーは立派な職業となっていたのだけれど、例の5年前の「事件」以来、そのゲームは国連が運営することになり、よくわからないが、色んな政治的駆け引きのメインステージとなってしまったのである。これが、僕たちの時代の戦争の正体だ。ゲーマーたちが国の兵隊として、各チームに配属され、戦争ゲームに参加し、戦う。その結果が、そのまま国の利益損失となる。ゲームの結果は、株価のように毎日テレビや新聞で報道されているし、いまやゲーマーはスポーツ選手よりも尊敬される人種となってしまった。ちなみに僕も、地元ではかなり有名なプレイヤーだ。
「お兄ちゃん、ひとりでなに言ってんの?」
 しまった、つい口走ってしまっていたようだ。どの部分だろうか。あるいは、全部声に出して喋っていたのだろうか。
「お金稼げるようになったからって、調子にのらないでよね。私は認めないわよ。ゲーマーなんて」


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