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人はみんな変わっていくものですから

かもめ食堂(2005/日本)
監督:萩上直子 
出演:小林聡美 片桐はいり もたいまさこ

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この映画は好きだけど、何もここまでヒットしなくても…。

こういうおとぎ話に束の間癒されてしまう人(ほとんど女)が、今の日本にこんなにいるとは、ちょっと考えさせられるなあ。まあ、私もその中の1人だといえなくもないけど、なんかこう、うまくはめられたような気がしないでもない。

観客の反応で印象的だったのは、この映画を手放しで絶賛する人がいる一方で、同じ若い女性でも「きれいごとすぎ」とイチャモンつける人が多かったことだ。私が読むような雑誌では特にその傾向が顕著で、そういやフィンランド大使館の関係者も似たような感想を述べていたっけ。

でもまあ、映画だからいいんじゃない?夢は夢で、と思いつつも、そこらへんが引っかかる気持ちは私にもわかる。なんかこう作りに隙がなさすぎて、全てがあまりにピカピカすぎるんだよね。

とはいえ、この映画の空気にあやかりたいっつーか、作り物でもいいから騙されたいっつーか、そういう心理の方が勝ってしまったクチなので、私も夢見る乙女かも。まだまだ甘いな。

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でも「やりたいことができていいですね」と言われたサチコが、「やりたくないことをしないだけです」と答えたシーンは、心に響きました。

30代後半の未婚女性。自分の生き方を模索しているこのビミョーな世代の、丁寧に自分らしく生きたい、食を大切にしてシンプルに暮らしたい、カフェをやりたい、北欧インテリアが好き、などという夢や憧れを個別に満たしてくれる雑誌や本は、今や山ほどある。

ところがこの映画は、それらを全部ひっくるめて映像で見せた。

そりゃヒットするわ。群ようこは、うまいことやったよ。

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しかも原作では、サチコは宝クジで1億円当たってフィンランドへ…という、万人の夢まで叶えているんだから驚く。これでは「彼女のように、信条を持ってしなやかにキリリと生きよう」と励まされる前に、「私も宝クジ当たらないかなあ」と思ってしまうではないか。

ま、大金を持っているからといって、誰でもサチコみたいになれるわけじゃないけどね。

サチコは、孤独を知っている人じゃないかと思う。寂しさとうまくつきあっていける人。だから、強くて優しい。そんな人でなきゃ、いくら1億円あるからといって、しがらみを捨て、たった1人でヘルシンキにまでやって来て自分の店を開くだろうか。

私が惹かれるのは、サチコのそういうところだ。小林聡美もたぶんそういう人なんだろう。そういう気がする。だからサチコの存在感に説得力があって、嫌味がなかったのだろう。

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ところで、これは「無性におにぎりが食べたくなる映画」だと思っていたのだけど、私にとっては「無性に掃除がしたくなる映画」だった。

だっておにぎり、思ったよりもなかなか登場しないし、みんなしょっちゅうコップや机を磨いているし。

食欲でなく掃除欲がそそられる映画なんて、ヘンなの。あ、ヘンなのは私か。

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