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「この本の中に大事な栞を入れたんだけどどこに入れたか忘れてしまったの。お願いだから一緒に探して!」
 と彼女は言いながら僕に分厚い二十冊ぐらいの本を渡した。僕はあんまりの重さに持ったまましばらく足をふらふらさせてしまった。この本はどう見ても小説の類ではない。何かの事典みたいなものだろうと僕は思った。これを見てひょっとして彼女は僕が彼女を密かに好きなのを知っていて僕の自分への想いがどれほどか試しているのだと思ったら、そうでなければこんな分厚い本二十冊のなかから栞を探させるなんてするわけないじゃないか。そうなったらこっちは乗り気だった。僕は彼女に言った。すぐに探してやるさ。ちょっと待ってろよ。

 ページ同士がくっつきそうなほど薄い紙を慎重にめくり僕はしおりを探した。僕は紙を埋める文字の羅列に目眩がして彼女はこんな難しい本を読んでいるのかと尊敬の念すら覚えた。彼女はまだ見つからないの?とか僕を悪戯っぽい目で見ている。僕は彼女の目を見て、まさかと思った。まさか彼女の栞とは僕への愛のメッセージではないかと思ったのだ。そうだったら悠長にページなんかめくってられない。僕は超高速でページを捲る。捲る。捲る。早く彼女のメッセージを見つけるんだ!僕に対する彼女の思いを!そしてやっと見つかった!

『いつまでも、人のことジロジロ見てんじゃねえよ!このストーカーが!お前もしかしてこの栞見つけたら私と付き合えるとか考えてない?キモいよお前。キモすぎるから今すぐあっち行って!』

 彼女は僕にとどめを刺すように聞いてくる。

「ねえ、私の気持ちわかった?」


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