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地とともに生きる

 皆さん三日ぶりです。私はこの三日間二十四時間寝ずに自分と、自分が現在いる地球について考えていました。自分という存在は人間であり、思考や感情を持った地球上で最も有能な種に属しています。だから私も自分が最も優秀な種に属していることに奢り、動物たちに、特にその中でも最も優秀で人間に近い種のチンパンジーなんかをお前らには算数も国語もできないだろうとバカにしていたりしました。だけどその中にまれに人間並みに優秀なチンパンジーがいて、私の出した問題をすらすらと解かれただけでなく、逆に生意気にも結構毛だらけの手で私の間違いを指摘してきました。チンパンジーはウキキと私をあざ笑っていました。私はこの生物学上の最上級である人間に無礼を働くチンパンジーを怒鳴りつけ、動物園の飼育員さんにこの猿に襲われたと嘘をついて私たち人間がどんなに権力があるか見せつけてやろうとしました・ですが隣にいたバカが「それは逆。この人が猿をいぢめていた」と、生物学上の階級を破壊するようなとんでもない告げ口をしたせいで、人間である私は動物園から叩き出されたのです。

 だけどこの三日三晩寝ずに自らの人間生活を振り返り、私はこうした過去の自分の行いが急に愚かしく思えてきました。最近の学説では動物にも人間と同じような知性があり、言葉こそないものの、思考も感情の在り方も人間とまるっきり同じであるという事を知りました。という事は我々もまた動物であるという事です。動物は字も書けず、絵も描くことが出来ず、楽器を奏でることも出来ませんが、それでも人間と同じように喜び、泣き、怒るのです。ならば私も動物なのではないかと思いました。現在人生真っ逆さまの下り坂の私ですが、可愛い動物になれば皆に愛されて運勢急上昇になるかもしれない。今世界では性自認が叫ばれていますが、種自認という概念も必要でしょう。私たちは人間として生まれたくて生まれたわけじゃない。一日中寝まくって主人からただ飯貰って生きているあの動物になりたかったと誰しも一度は思うじゃないですか。実際私はこの三日の間に猫の泣きまねをして近所の人を驚かせました。私の猫の鳴きまねは他の猫すら毛を逆立たせ、歯を見せさせるほどそっくりだったのです。まるで猫の生き写し、という事は猫ではないですか。ずぶ濡れの猫になって勤め先のあの人のマンション前で泣いたらきっとあの人は私に同情して飼ってくれるかもしれません。

 私は今から人間を超えて無限の可能性を試してみたいと思います。人間もまた動物として他の動物たちと同じくこの地球に生きるもの。その動物の一匹として私は今から猫になります。この地に生きて、そして死ぬ。それは動物として素晴らしい事なんだ。だから私は今から動物としてあの人のマンションに向かう。もう止めないでくれ。これが私の選んだ道なのだから。

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