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ブログという病

 休憩室で休んでいた高梨裕作の元に同僚の対馬浩介がやってきてこう尋ねた。

「おまえさ、そういえばブログやってたよな。あれ今もやってんの?」

 高梨は素直にやっていると答えた。すると対馬はすげえなお前と感心したのか、呆れたのか、あるいはどっちも的な顔で彼を見た。

「俺なんかさぁ、お前の影響受けてブログやって小銭稼ごうとしたんだけど続かなくてやめちゃったよ。全然アクセス増えねえし、ネタもすぐになくなるし、やったって無駄じゃねえかって思ってさ。お前今はどうなの?二年ぐらい話た時は確かフォロワー300人ぐらいだったよな?」

「仙人ちょい。まあアルファユーザーの足元にも及ばない数だよ」

「いやマジですげえよ。俺も最初のアクセス数からして頑張りゃ今頃300とは言わないけど200ぐらいはいけたかも知れねえな。でも根気はあるんだけど肝心のネタがねえんだよなぁ〜。趣味について語ろうとしてもそんなに書く事ないし小説書こうにもお前みたいに文才ないしなぁ〜。お前一体どうやって毎日ブログ書いてんだあ?」

 高梨は困った顔をしている対馬を笑って言った。

「別に俺は日常からただ見たもの感じたものをそのまま書くか、フィクションにして面白おかしく書いてるだけだよ。特に僕にだって誇れるような趣味はないし、仮にあったとしてもそれを長文で書くほどの能力はないよ。だけど僕らが生きている日常を見るとさ、本当にいろんな事があって、そういうものを見てるとさ、いろんな想像が湧いてきて自分でも不思議なくらい文章が書けるんだよね。おかげ様でこの間出した記事なんていいねを500もらってさ。ほんと記事書いていてよかったなって思ってる。お前ももしブログ復活させるならテーマとか特に考えないで日常から感じたままに書いたらいいんじゃないか?」

 話の最中対馬は話を聞き入って何度も頷き、そして話が終わった後高梨に向かって俺もブログまたやろうかなと言っていた。

 それから三日ぐらいたった頃業務中の高梨は突然人事に呼ばれた。彼は人事の社員と一緒に歩きながら普段悪い事していないのにどういう事だと訝しんだ。やがて人事の社員がとある部屋に立ち止まりドアを開けて高梨を迎え入れた。彼はドアの先に座っている人物を見て驚いた。その人は人事部長の新山清だったのである。新山は高梨を見て怒りをあらわにしさっさと座れと言った。そして高梨が座ったいきなりテーブルにコピー用紙の山を叩きつけたのである。

「お前こんな事毎日書いて楽しいか?」

 高梨はあまりの新山人事部長の剣幕に動揺しとりあえず部長が叩きつけた山のようなコピー用紙を見た。何とそこには自分のブログの記事が刷られているではないか。高梨は意味がわからずなぜ僕の記事がコピーされているんですかと聞いた。

「なぜじゃねんだよこの大馬鹿野郎が!お前のこの腐れブログのせいでうちの会社がとんでもない事になってんのわかってんのか?お前出鱈目よく堂々とかけたもんだな!」

 高梨は出鱈目と言われてはぁ?と思った。

「いや、出鱈目も何もただの小説じゃないですか?タイトルにちゃんと小説って入れてますよね?」

 新山はコピー用紙を手に持って高梨に向けると紙を音が出るほど指差して怒鳴った。

「だから!小説なら会社も登場人物も何で全部実名なんだよ!しかもお前の記事のオフィスの描写なんてまんまここじゃねえか!何が営業部の部長の神崎圭介は社長秘書丸山薫と不倫中だ!その丸山薫は社長とも出来ている。で、その事情を全て知っている人事部長に新山清という男はその丸山薫を脅迫して自分のものにしようとしている。って舐めてんのかお前!一体何で俺が秘書の丸山さんをおどすんだよ!それと神崎と丸山さんが出来てるって何なんだぁ!しかも丸山さん社長とも出来てるって事になってるじゃねえか!どういう事なんだこれは!さっきな、マスコミから電話があったんだよ!おたくの社員がおたくの会社の実態を暴露してますがどうなんですかってな!この始末お前はどうつけるんだよ!」

「どうつけるって言ったって正直に小説だってマスコミに言いますよ」

「それじゃマスコミが収まるわけねえだろ!マスコミはこれは小説の形を装った大暴露だって言うに決まっているわ!で、お前なんでウチを舞台に、しかも実名で小説書いたんだ?」

「そりゃその方がリアリティがあるからに決まっているじゃないですか?僕のブログは日常で感じた事をほぼそのまま、時にフィクションを交えて語るってスタイルなんだから。こういう事をわかってくれる人ってホントいないんですよね。あなたもそうだけど、みんな言葉通りに真面目に受け取りすぎなんですよ。もっと想像力を働かせて……」

「うるせえんだよ馬鹿野郎!」

 こう二人が言い争っている間に名門二菱商事の本社は電話の嵐となっていた。翌日とうとう本社幹部が一同で記者会見を行ったが、当然そこに一般社員高梨裕作の姿はなかった。

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