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遅れます

「やっぱり遅れます」
 とある千佳のLINEを見て真司はやっぱりと思った。あいつやっぱりそうなんだよな。俺のことなんてどうでもいいと思ってるんだ。最悪の場合すっぽかされるだろう。そういえばあいつ、いつも俺から逃げる理由を探していたような気がする。いいさ、そのうち……と思いを巡らせていたら、千佳が眩しい笑顔でこちらにかけてきたのだった。真司も千佳の方に向かって駆け出した。千佳やっと……。
「ごめんねえ!真ちゃん、待たせちゃって!私頑張ったんだよ!おやつをやめてえ……それからぶつ森もやめてえ……色んなものをやめてえ……たんだけどやっぱり我慢はいけないって思っちゃって!それで……」
「それで?」
「それで……原稿は?」
 千佳は真司の顔を見て、彼が今までに見せたことのないぐらいのマジ顔で怒っていることに気づいて顔が青くなった。人気漫画家である彼女がこれほど恐怖を感じたのは初めてだった。やっぱり三週連続で原稿を落としたのはまずかったのか。彼女のデビュー当時から彼女を担当していた真司もとうとう堪忍袋が切れたのか。今、目の前の真司の顔がピクピクと震えだした。ガ……ガガ……ガと呻きだし、なにかモンスターの変身シーンみたいになってしまった。ああ……まさか真司が私への怒りのあまりモンスターになってしまうなんて!止めなきゃ!真司を止めなきゃ!千佳は泣き叫びながら真司に掴みかかり、「止めて!私のためにこの地球を壊さないで!」と必死に懇願した。しかしもう遅い!真司の体中に角が生え、だんだん巨大化していく!千佳は絶望し地面をたたきながら叫んだ!
「真ちゃん!帰って来てよ!私あなたのことがずっと好きだったの!この漫画だってあなたのために描き続けているのよ!」
……
……
「なにやってんだお前?」
 千佳は真司の声にハッと驚いて上を向くとそこにはいつもと変わらない真司がいた。彼女は真司がもとに戻っことが嬉しくて泣いたが、真司はそんな彼女を呆れた顔で見ながら言った。
「なんだよお前、いきなり訳のわからないこと言い出して……そんな訳のわからない妄想してる暇あったらちゃんと漫画描けよ!俺はまた編集長やお偉方に謝らなくちゃいけないんだぞ!こっちの苦労もちょっとは考えろよ!」
 そして真司は続けてこう言った。
「でも、さっきのお前の気持ち俺嬉しかったよ。俺……お前にうざがられてると思ってたからさ」
 千佳はそう言って照れている真司がおかしかった。彼女は笑みを浮かると真司に向かって言った。
「冗談よ!冗談、さっきのことは冗談よ!さっきの話は忘れてよ!それよりもさ、今度新しいお店が出来たんだ。ねえ今から食べに行かない?」
「バカヤロー!お店じゃねえだろ!さっさと家に帰って漫画描けー!」



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