京都の人は皆寡黙なんです。

 京都に来ると厳粛な気分になる。至る所にある寺院などの文化建造物はかつてこの土地が日本の都であった事を教えてくれる。藤原道長も平清盛も足利尊氏も織田信長きっとこの都の厳粛さに打たれたに違いない。だが私が京都に惹かれるのは文化建造物の美しさだけではない。当然その景色の美しさや食べ物にも惹かれる。そして話がなによりも惹かれるのは京都の人たちだ。

 私は関東の出身であまり関西弁は好きではない。特に大阪弁などその耳障りなほどの騒々しさで私をイラつかせる。だが京都弁の柔らかい調子の言葉は大阪弁に比べれば私をイラつかせないし充分に聞くに耐えるのだ。それに京都の人は意外にもあまり喋らない。たしかに京都市内の人間には大阪人と同じように喋る人間もいる。だが京都市内から離れ観光客もいない田舎の人は本当に無口だ。彼らは道の隅に並んで立っているが互いに会話すら交わさない。もう言わずともわかる関係なのだろうか。私は道に並んでいる彼らに向かって挨拶をするが、彼らは無言でニッコリと微笑む。私はそんな彼らを見て京都の長き歴史を思う。昔からそこに立ってたような人たち。苔さえ生えるほどずっとそこに立ち続けているような気さえする。彼らを見ているとこの人たちこそ古よりこの地に住まう真の京都人なのではないかとさえ思う。

 この地に来る時普段は彼らに対して軽く会釈するだけなのだが、今回は是非彼らとコミュニケーションを取りたいと思った。今までは無口でにこやかに微笑むだけの彼らに東蝦夷が故の遠慮から彼らとコミュニケーションを取る事に躊躇っていたが、今回は勇気を出して彼らに話しかける事に決めた。私はこの古の都の香りを残す、この田舎にやって来ると早速道端にいる彼らに話しかけた。私は彼らに自分が東京からやってきた事を話だが、彼らはいつものように無言でにっこりと微笑んだ。私は京都土産に買った八つ橋を彼らにあげたか彼らは照れているのか。にっこりして受け取らなかった。私は焦ったくなって彼らのうちの一人に向かってこいツゥ〜!と頭を叩いた。そしたらなんと首が千切れてしまったのだ。ま、まさかちょっと頭を叩いただけなのに人を殺してしまうなんて!私は早く蘇生させようと自分が殺した男の頭を抱えて体に乗せた。しかし頭は体にくっつかない。どうしてなんだ!どうしてなんだ!私は彼らと友達になりたかっただけで人殺しをするためにここにきたわけじゃないんだ!許してくれ!ああ!彼らはそんな私の気持ちをわかってくれたのか、いつものようににっこりと微笑んでくれた。しかしその優しさは今は痛すぎる。そんなに微笑まないでくれ!私は君たちに微笑まれる資格なんてないんだ!

「おい、何してんねん。なんやアンタお地蔵さん壊したんか。罰当たりやのう」

 私は声のする方を振り向いてそこに一人の男がいるのを見た。いかにも関西人といった感じの下品な服装をした男である。この昔ながらの京の香りを残すこの土地にこんな下品な男がいたとは。全く道端に立っている真の京都人とは似ても似つかない。

「はようその首返し。全くアンタのような礼儀知らずの遠くから来はった方に限ってそないなことするねん。ご丁寧に八つ橋なんか供えてからに。あんな、京都人は八つ橋なんか食わへんのや!」

 私は友人の首を寄越せというこの京都人と似ても似つかない下品な関西人に尋ねた。

「いきなり人を田舎者の礼儀知らずと罵るとは失礼ではないか。あなたは一体何者なのだ。どうせあなたは大阪あたりのゴミの中から生まれたのであろう!」

「アホ抜かせ!ワシはここの住民や!アンタええ加減にせんと地蔵泥棒で訴えたるぞ!」

「黙れ!あなたのような人が京都人であるはずがない!真の京都人とはこの道端で寡黙に立っている彼らのことだ!」

「地蔵泥棒め!もう我慢できへん今からお巡りさん呼んでくるから待っとき!」

「私こそあなたを名誉毀損罪を訴えてやる!あなたは私と彼らを侮辱した。私だけだったらまだいい。だけど彼らに対する誹謗中傷は我慢できるものではない!この人達をお地蔵呼ばわりするとは何事か!それが微笑みを絶やさず苔むすまで立ち続けた彼らに対する言葉か!もう一度あなたに質問する!あなたは本当に京都人なのか?」


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