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スメハラ

 私はこの会社内で唯一人の女だ。入社した頃には先輩にも同期にも女性はいたけど、ひとりやめ、またひとりやめ、いつの間にか私一人になっていた。もちろん私もやめるつもりだった。だけど会社の連中は私をやめさせないようにあれやこれやの手を使って私を引き止めた。そうしていつの間にか私はこの会社で最年少にもかかわらず部長にまでなってしまったのだ。勿論彼らがそこまでして私を引き止める理由はわかっている。それは私がモデル顔でセクシーボディーでツルンツルンのお肌をしているからだ。彼らの安月給じゃ銀座の高級クラブにだって行けないし、彼らがいつも行ってる安い風俗じゃ私のようなモデル顔でセクシーボディーでツルンツルンのお肌をした女に出会うことなど不可能なのだ。しかし部長になったとはいえこんな汚い中年男だらけの会社でいつも彼らのエロ視線に耐えながら仕事をするのは耐えられるはずがない。やめることも考えた。しかし不幸なことに私は自分でも嫌になるぐらい責任感の強い人間だった。しかも会社の男連中より遥かに優秀だった。営業成績も常にトップだったし、業務の効率化を徹底させるためにクラウドサービスも率先して取り入れるよう提案したのも私だし、近年この会社が赤字から抜け出したのも私のおかげなのだ。だけどもう男たちの視線には耐えられなかった。彼らは私をガン見するだけでなく私をネタに妙な妄想話までしているのだ。

「ああ!あの若い女部長に踏まれたいよ!このハゲー!って」

「俺、いつも部長のやつに怒られる時いつもこう思うんだ。ちくしょう!入社した頃は俺を頼ってたのに!上司にいぢめられて泣いてたときには慰めてやったのに!えらくなりやがってから俺を鼻にもかけなくなりやがって!いぢめてやりたいぜ!どうせ社長のをしゃぶって偉くなりやがったにきまってるぜ!ああ社長が羨ましいぜ!オレの黒いものもたっぷりしゃぶらせてやりてえよ!」

「そんなのしゃぶったら彼女病気になっちまうんじゃねえか!」

「病気になる?なら積極的に病気になってもらおうじゃねえか!グヘヘヘ!」

 意外と気の弱い私はそんな卑猥な陰口を聞くといつもたまらず耳を塞いでその場から逃げた。私はもう我慢の限界だった。自分が彼らのおもちゃにされていることにもう耐えきれなかった。そして私は決意したのだ。二度と彼らの性欲の対象にされないためには自分が女であることを捨てるしかないと。といっても別にLGBT的なことではなく、男社会が求めている部分の女を捨て、ありのままの自分に戻るということだ。

 私はそう決意しその日から風呂に入ることをやめた。そして化粧も香水もすべてやめた。それから二日ほどはは男たちの態度に何の変化もなかった。ノーメイクの私を見ても「やっぱりすっぴんでもキレイだべさ!」とか喜んでたぐらいほだ。しかしそれから日が経つに連れようやく彼らも私の異変に気づいた。彼らは私が来るなり鼻をふさいだ。そして苦痛に満ちた表情で私から離れていったのだ。彼らは所詮下劣な日本の男である。私の文明から離れた自然の女としてのありかたなどまるで理解できないのだ。

 そうして一か月が過ぎ、社内は私の自然の臭いで埋め尽くされ、男連中にはその自然臭に耐えがたくなったようだった。私といえば完全に自然に戻ってしまい、何故か身体中から毛が生えてきて、完全に服入らずになった。これぞ人間のあるべき姿と思っていたがある日私は無理矢理社長室に呼ばれた。そこに社長をはじめ幹部連中が物々しい表情をして座っていた。その場にいた全員が私を見つめ、私はスメハラで訴えられクビの宣告かと思いやっとこんな会社辞められる。次は自然の女である私を受け入れてくれる会社に入ろうと思いながらクビの宣告を待っていると社長が立ち上がり私を指差して叫んだ。

「誰だ!猿なんか会社に持ち込んだのは!」


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